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(5)夜明け前のしらせ

   ◇ ◇ ◇




 先日、ドラコでの争乱を解決した際、ベルセルカを征東大将軍に任じている。

 その管轄領域にはティグリスも含まれていた。


 レイナートとしては、ベルセルカとナルキッソス、アリアドネをしばらくこのままティグリスに滞在させるつもりだった。

 目的は治安維持と、騒乱の抑制である。


 反国王の気運が高い土地であるため、国王(レイナート)の側近中の側近であるベルセルカに対しても反感は強いだろう。

 だが、同時に彼女の名とその(ちから)を知っていれば、安易に騒乱を起こそうとは思わないはずだ。



 深夜までベルセルカと領主代行とこれからのことについて話し合った。


 そうして、レイナートは疲れきって、上半身脱いだところで、ベッドに倒れこんだ。



「……にゃ。

 レイナートさま、お行儀(ぎょうぎ)悪いにゃ」



 先に主のベッドで丸まって眠っていたナルキッソスが、レイナートの体重がおこした揺れで起きたのか、寝ぼけた声で主をたしなめた。


 ちなみに。

 就寝のときの格好としては、この国で比較的多数派を占めているのは裸だ。

 もちろん、主に身分の高い人間向けに、寝間着も存在する。

 ではレイナートはどちらかというとどちらでもなく、睡眠中に緊急事態が起きることを想定して、普段から闘える軍装のシャツとズボンで眠るのが常だ。

 しかし、今日は、ちゃんと新しいものに着替えるまでに、眠気が耐えられなかった。

 肌に直接触れるシーツの感触が快いのも、眠気に拍車をかける。



(……今回、魔力使ってないんだがな……。

 それなりに睡眠もとったはず……)



 逆に、長距離の馬車移動で疲れた気もする。

 魔力の温存のつもりが、裏目にでたのか?


 それに精神的疲労もあるかもしれない。



 幼い頃から、悪口を言われていると、つい真正面からそれを浴びにいってしまうくせがある。


 腹が立ったので戦おうとか、言い負かして屈服させてやろうとかいうのではない。

 聴こえないところにいけば余計に心がざらつく、それぐらいなら、全部余すところなく聞いて受け止めてやろうじゃないか……というものだ。


 そして結局、精神的にごっそりと削られる。

 言語化できない自分のなにかを、すり減らされて。


 どこか自傷に近い衝動ですね、と、イヅルには言われ、何度もやめるように言われていた。



 今回、アリアドネを『わざわざ』呼んだのも、もしかしたら、そういう部分も無意識にあったのかもしれない。



 人と人は所詮わかりあえない。


 ある人間を皆が皆肯定し称賛するだとか、みんなおんなじ考えを持つだとか、そんなのは逆に何かの無理が生じている。

 人は違うのが自然なのだし、悪口ぐらいは誰しも言う権利を持つ。


 たぶんこの疲労は、こんなに心が削られたのは、他でもなく、自分から浴びにいった自分が悪いのだ。


 眠って回復しなくては。

 そう、思ったのを最後に、レイナートは眠りの海におちていった。



   ◇ ◇ ◇



 ――――なにか、自分の上にいる。



 暗闇のなかで、からだに触れ、断片的にかかる生物らしき重みを感じた瞬間、その重大性に気づきレイナートは目を覚ました。


 暗殺者と思われたそれはしかし「レイナートさま」と聞き慣れた声でささやき、フワッと魔法で灯りをともした。



「ベルセ……え!?!?」



 身体の上にのしかかるようにいたのは、間違いなくベルセルカだ。

 しかし。


「そ、そ、その格好!?」

「お恥ずかしい格好にて失礼いたします。

 着替えきれずに眠りについてしまい」



 べつに彼女は肌身をすごく露出しているわけではない。

 長い赤髪はほどかれて、上半身は、胸は覆うものの肩から腕を剥き出しにした薄手の肌着。下は膝丈のズボンをはいている。一般的には、貴族令嬢が夜会で着るドレスのほうがよほど胸元や背中が出てエロティックに見えるだろう。


 ………だが、いかんせん、ベルセルカの寝るときの格好を見たこともなかったレイナートからすれば、そして寝所で、自分が上半身裸のときに薄着のベルセルカに上に乗られているのは、刺激が強すぎた。


 ささいな動きで、素肌同士が触れあって、思わず息をのむ。



「あ、ご心配なく。〈加護〉は解除の上で」

「そういう問題じゃなッ、どうやっ、て」

「私の部屋とこちらは続き部屋にしていただいていました!」

「そんな気遣いいらん!!

 というか、き、着ろ、何か――――」



 あまりに動揺しすぎたために、飛ぶように後ずさって、寝るまえに自分が脱いだ服を探してつかんで渡そうとしたとき、ようやく、

『緊急事態だからベルセルカが身なりを整える間も惜しんでここへ来た』

ことに気づいた。

 ちょっと国王、致命的に遅すぎる。



「――――何があった?」


 シャツを渡しながら問う。

 手早く羽織ったベルセルカは、あらためてベッドの脇にひさまずいた。



「陛下。ご無礼まことに申し訳ございません。

 間諜よりしらせあり遠隔透視いたしましたところ、町衆、およそ1800名、この城を囲むべく向かっております」


「……………?」

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