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(5)剣聖大将軍

   ◇ ◇ ◇



 ――――レイナートがひそかに地下の遺体をもとの通り地のしたにおさめた後。


 彼とベルセルカの2人は、カバルス城で夕食をとってから王都に戻ることになった。



 今日とれた見事なマグロをはじめ、新鮮な海産物をたっぷりと使った夕食を用意してくれるらしい。

 カバルスはとにかく食材が豊富で、さらに大体なにを食べても美味しい。

 それに独自の調味料が日々開発されていて、訪れるたびに新しい料理を食べられるのも魅力である。



「すまん。俺は、夕食まで領主の仕事がある。

 ベルセルカは好きに過ごしてくれ。

 もう一度風呂に入ってもいいし、遠駆けするなら馬を貸す。

 鷹もいるから、連れていってもいいぞ。

 泳いできてもいい。

 他になにかやりたいことがあれば」


「本当ですか!

 じゃあせっかくなのでぜひレイナートさまがこどもの頃に描かれたという絵を見せ」


「却下」



 生前の先代カバルス公がベルセルカに

『小器用な特技ばかり身につけおって。いったい誰に似たんじゃか』

と何度か笑いながら言ったこともあるが、レイナートは絵も上手い。こどもの頃は馬の絵などもたくさん描いていたそうなので、それもぜひ見たいのだが、どうしても見せてくれない。


 というわけでベルセルカはレイナートの愛馬クサントスを借りて、街の外をうろうろ散歩しまわることにした。


 普段はちゃんと仕事をする子なので、優しい乗り心地の常歩(なみあし)で海辺の道を運んでくれる。



「……魔核、かぁ。

 でも、魔力の強い人間をわざわざ倒す意味は、そんなにないはずなんですよねぇ」



 馬上は考え事をしやすい場所らしい。

 ベルセルカはついつい仮説に疑問を呈していた。



 魔核がどのように役立つか詳しくは、カバルス軍所属の少年兵で前世が聖王級冒険者であるペルセウスに改めて聞くつもりだ。

 以前大まかに話を聞いたときは、自分の持っている魔力以上の魔法を使えるとか、武器と組み合わせると強力な魔道具を生み出すとか、そんな話をしていた。


 だが、殺した人間はすでに万単位、死体もしばしば手づから片付けるベルセルカだからこそ気づいていることなのだが、心臓が魔核になった死体になど、今まで出会ったことなどなかった。


 それこそ、よほどの魔力の持ち主でなければ結晶ができるようなことはないのではないか?


 単に強い魔核を集めるのならモンスターを倒すほうが、遥かに効率がいいはずだ。



「……あと、神樹の力を借りるとか」



 ベルセルカは、神樹が見えるところでクサントスの足を止め、馬をおりた。

 先ほど会ったばかりの神樹。

 その根元には、小さな石の塚が作られている。


 レイナートの母の墓である。

 そして、父の首もここにおさめられている。

 ――――そういえば、この奇妙な埋葬の仕方を指示したのは、先代のカバルス公自身だった。


 そんなことを考えながら墓の前にしゃがみ、手を合わせる。



『小娘よ』



 ――――突然聞き覚えのある声が耳元でして、心臓が止まるかと思うほど驚いた。



(わし)の墓なんぞ暴きおって。

 何があったんじゃ?』



 背後? 頭上?

 いったいどこから聴こえる?



『何をキョロキョロしとる。

 こちらを見い』



 導かれるままに、神樹に目をやり、次第に視点を上にあげていく、と……。



『遅いわ、小娘よ』



 視界にはいった、神樹の太い枝に、どっかと腰かけた人物の姿に、思わずベルセルカはへたりこんだ。



「……しょ、将軍……?」



 生前の呼び方を思わず口にする。

 半透明で透けている。

 人ならぬもの、生物ではないのは間違いない。

 そして何より、死ぬ寸前の姿ではなく、戦場を生き生きと駆け回っていたときの勇姿で、甲冑を身にまとった姿で神樹の枝に座っているのだ。



『ふん。相変わらず小さいのう。

 まともに食うとるのか?』


「なっ……!! 失礼ですね!!

 これでも女性ではいろいろ大きいほうです!!

 あと何ですかいきなり化けて出て!!

 私は幽霊がゴキブリより嫌いなんです!!」


『知らぬわ。

 ゆっくりここで眠っとったのに起こしたのは貴様らじゃろうが』


「ぐぬぬ……」



 やはり、長身のレイナートよりもさらに一回り以上大きな身体。

 太陽のような赤褐色のひげと、背中まで伸びた燃え盛る炎のような髪。

 野獣のような恐ろしさの中にも賢者たる知性を感じさせる目。


 そしてレイナートと同じ、おそらくこの国では他に存在しない、紫水晶(アメジスト)の瞳。



 紛れもない、レイナートの父、先代カバルス公爵バルバロス・マスフォルテ・バシレウス。



 ……が、幽霊になっている!?



「……そ、そうだ。

 れ、レイナートさま、呼んでこなくちゃ…」


『珍しく動揺しとるの。

 ややこしいのでな、あやつは呼ぶな。

 まぁ、座れ。きちんと、な』



 言われて、へたりこんだままの姿勢の居ずまいをただして、ベルセルカはひざまずいた。



「……大変失礼をいたしました。

 身罷られました昨年の夏以来、ご無沙汰をしております、将軍」



 なんだろう、このあいさつ。



『うむ。ベルセルカ殿もご健勝そうで何よりであるの』


「しかし何故、幽霊(ファントム)に?

 レイナートさまからは、人間は、未練があるから幽霊(ファントム)になると伺っていましたが…失礼ながら、将軍がこの世に未練など」


『ほう。まだまだ青二才の息子が心配でない親なぞ、どこにおるというのか?

 まぁ、ええわい。時に小娘』



 呼び方が結局戻った。



『何が起きた?

 おぬしら、(わし)の死体を改めて、どうした?』


「それは、ですね」



 ――――ベルセルカは、ここ数か月の間に起きたことを語った。

 “血の結婚式”から順に。

 バルバロスの親友も含めた王佐公が皆虐殺されたというくだりでは一瞬顔色を変えたが、それ以外では終始動ずることなく、ベルセルカの言葉を聞いていた。



『なるほどのう。

 国王か。あやつがなぁ……』


「ユリウス王子の虐殺の動機は、王族の胸から魔核を取り出すことだったのではないか…という結論にさきほどいたりましたが……」


『おぬしは納得しておらんとな。

 まぁ、これはおぬしが正しい。

 といってレイナートが間違っておるわけでもない』


「というのは……?」


『そこは、レイナートの生まれにもかかわる話じゃなぁ。少し時間はかかるが、聴くか?』



 問われ、ベルセルカは、「は、はい!!」と答えた。

 幼い頃から何度も聴かされてきたレイナートの出生の話。そこに何か未知の情報などあるのか?という疑問はありながら、ベルセルカは自然とわきあがる興味を抑えられなかった。



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