(12)“ニセもの”の軌跡
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「なによそれッ!?
あのユリウス王子が、王族惨殺犯!?
なんで先に言わないのよ!?」
ドラコ城の跳ね橋の上で、メサイアが絶叫して、ベルセルカの胸ぐらをつかんだ。
ベルセルカの身体が持つ加護で手が焦げてるのにも気づかないので、とり急ぎ加護の解除魔法をかけた。
「あのタイミングで言えません。
なにせレイナート様と並ぶ、王国史上最強の魔法使いなんですから。
相手の気まぐれひとつで私たちなんて瞬殺です」
「王子が……あいつが、お父様とお母様とお兄様を……?
なんで、いったい、どうして……?」
「動機は今もって不明です。
調査をする余裕も今までなかったので。
ただ、現状、最大の警戒対象に違いありません」
「もう、何が何だかわからないわよ……」
そのまま、だん、だん!とベルセルカの胸を殴る。胸のふくらみは急所だ、正直痛い。
「落ち着いてくださいメサイア様。それより、この先のことの話を……」
「ご無事でしたか」
と、急に低い声が挟まったと思ったら、すぐ近くに、見慣れた長身、イヅルが転移してきた。
「ふたりは、水を浴びさせています。
……急に気配がしたので、おれだけあわててこちらに。すぐにお助けに向かえず、まことに申し訳ございません」
「いえ、むしろ来ないことが正解でした。
王子は去りましたし、今目の前のことを話しましょう?」
「ええ、聖騎士団への対処の話し合いを進めましょう。メサイア様も、是非、中で」
「……なんで私のこと知ってんの?」
「おれは18年間カバルス公爵家にお仕えしておりますので、王族の皆様の顔も大まかには把握しております。家出事情も。さぁ、中へ」
「………え。
無理無理無理無理、3年顔合わせてないのにどんな顔して家臣に」
イヅルが、問答無用でメサイアの手を掴む。
「な、なにすんのよ!?」
「四の五の言わずにいい加減、心配している人たちにごめんなさいぐらい言ったらどうですか、この家出娘」
「……………」
「あなたが気まずい。それ以外に、デメリット何かありますか?
それにあなたが戻らなければ、弟君も遠慮して戻れないでしょう?」
反論を封じられ、ぐぬぬ、とうめいていたメサイアは、やむなくうなずいた。
「あ、そうだ、イヅルにも聞きましょう、あのですね。
聖騎士団を率いる“聖女”を名乗る女性がいたのですけれど、マーティア・ホプキンズって名前に心あたりは?」
「マーティア? ですか?」
イヅルが記憶の中を探るように首をかしげた。そして。
「……ああ。王族ではありませんが、レイナート様と同い年の、とある伯爵家のご令嬢が、マーティアというお名前だったと思います」
「伯爵家? だったら王城にも来ますよね? 私が知っていると思うのですが」
「何か事情があったらしく、王都にはいらっしゃらなかったのです。
おれがその方の存在を聞いたのも、レイナート様が10歳の頃に、先代の国王陛下からそのご令嬢との婚約を持ちかけられたからです。
旦那様……いえ、先代カバルス公が、すぐお断りになったはずなので、レイナート様はご存じないでしょう」
「先代の国王陛下から縁談が持ち込まれた……?
どういうことですか」
「詳しくはわかりませんが、そのご令嬢が、“突然変異”でありえないほどものすごく生来の魔力が強く、ぜひ、王族に迎えるべきだとかいう、いったいなんの作物の交配ですか?とつっこみたくなるような理由だったと思います」
「その令嬢が、マーティア?」
「先代カバルス公は……自分の息子がえらんだ相手と結婚させる、そうでなければたとえ相手が王女であっても断ると一点張りで、周囲からも、色恋で結婚をさせるなど非常識だと中傷される中で、またも闘い切られました。
しかし、おれもですが、旦那様でさえその女性の顔は知らず。
その後、彼女がどうなったのかは、何も聞いていません」
***
ニセ王女。
マーティアが幼いころに、いつもあびせられた言葉だ。
王族貴族たちは皆、恋や愛では結婚しない。
彼らの中で、『恋』とは、結婚してから、夫以外の相手と、妻以外の相手とするものなのだ。
そうして相手の『恋』には互いに、目をつぶるもの。
しかし、その『恋』は、本来宗教的倫理においては『不義』でしかない。
そのようなねじれの中で、地方の伯爵家に生まれたマーティアは、小さな頃、母にある秘密を教えられた。
『あなたの本当のお父様は、国王陛下なのよ』と。
兄弟姉妹の中で特別美しいかおだちを持ち、どこか浮いてほかのきょうだいと仲良くなれずにいたマーティアは、それを聞いた瞬間、すっと腑に落ちる思いだった。
ああ、わたしは、ただ他の子たちとは違っただけなんだ。
ここじゃない、本当の場所が別にあっただけなんだ、と。
そう確信したら、幼いマーティアはうれしくなってしまい、会う人会う人に話してしまった。
「本当はわたし、おうじょさまなの」
と。
他の兄弟姉妹、親戚の貴族家の子ども、果てはお茶会で会った人にまで。
だけどその都度、そばについていた母は、美しい眉を困ったようにひそめて、
「この子ったらいつの間にかこんなふうに思い込んでしまって」
と、余計な言葉を添えるのだ。
そのせいで、自分の秘密を話した子には決まって、「嘘つき」と言われた。
信じてくれる子は誰ひとりいなかった。
さらに、国王陛下を信奉する大人は激怒した。
誰よりも敬虔な信仰者である国王陛下が不義を犯したなどと、大変な侮辱であり不敬である、撤回しろ、
当時のマーティアにはどうして怒られるのかわからず、泣いて抗議した。
そういったことを繰り返すたび、マーティアのあだ名として『ニセ王女』が定着していった。
くやしかったのは、きょうだいたちの中で、マーティアだけが王都に連れて行ってもらえなかったことだ。
家族が王都に行っている季節、マーティアは城に閉じ込められるような日々を送っていた。
まともに話すのは家庭教師のみ。
手紙も父と母からしか来ない。
国王さま。3つ年上の王女さま。同い年で自分より少し早く生まれたのだという王子さま。
その3人に会えれば、きっと自分と顔が似ているはず。
自分がただしいことがわかるはずなのに。
家族が帰ってくると、いつも泣いた。
“お父様”は、いつもマーティアを、優しいけれど困ったような目で見つめていた。
自分が王女だと名乗りつづけることで、“お父様”はとても困っている。それは感じていた。
けれど、もう後戻りができなかった。
変化があったのは7歳の頃からだ。
きょうだいの中で、マーティアは突出して魔法に長けていた。
自分に才能があることを感じたマーティアは、これで自分が王女であることを証明できるかもしれない、と思った。
王家、王族しか使えないとされている上級魔法を、習得できれば、
――――わたしが王女だということを証明できる。
そして、マーティアは上級魔法を使うことに成功し、それが、彼女の運命を大きく狂わせていく。
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