(10)ドラコ城、雌伏
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一週間後。
ドラコ城、城壁の中にて。
「おっはようございまーす!!
では! みなさん今日も鍛錬がんばりましょう!!!」
元気よく挨拶するベルセルカ(←大将軍)に、慣れた様子で
「「「「応!!!!」」」」
と答えるのは、カバルス軍の兵。
一方で、「「「「お、おう……」」」」と、おぼつかない声で答えるのは、急遽再編された少数のドラコ軍だ。
治安維持を担っていた兵たちを交代で呼びよせ、また、ドラコ公が世襲で抱えて領地を与えていた騎士たちについて集め、きちんと軍事訓練をすることになったのだ。
「じゃあ、組に分かれてください。がんばって!」
ドラコ軍に、体を壊すような訓練はしていないし、睡眠と栄養管理も重々気をつけているのだが、主に精神面の疲れだろう。
特に騎士たちは、なぜ身分の低い者たちと一緒に訓練させられているのかわからず困惑をしている(ベルセルカの顔を見るとおとなしく従うのだが)。
古来レグヌムでは、王家が正規軍を持ちつつ、それぞれの領地でも領主が、騎士を抱え軍を維持していた。
しかし近年は、様々な理由で、軍を抱えないところが増えていた。
懐具合、レグヌムが拡大したことによる、軍を持つ意味の低下など、仕方がない部分もある。
人も馬も軍備も、維持するのにも金がかかる。
甲冑だって非常に高価なものだ。
ただ、それに加えて、きちんとした軍を抱えればそれだけ戦線に駆り出され『貧乏くじ』を引かされるのではという警戒もあったのは事実。
特にレイナートの初陣以降は、極力多くの戦線をカバルスに任せてしまえ、という空気がレグヌム貴族たちを支配していた。
国教会聖騎士団と真っ向から戦えるように短期間でなれるわけではないが、いま目の前に迫っている危機には必要なことだった。
訓練中の面々を見ながらベルセルカは微笑み、建物のなかに戻る。
入ったとたん「やぁぁぁぁっ!!」という女の声が響いた。
「ダッメダメ隙だらけで正面から突っ込んじゃ!
相手が嫌がるような攻め方をするのが基本って、おばちゃん言ったでしょ!!」
若い女冒険者たちに交代で剣の稽古をつけているのは、五十歳を越えたふくよかな体つきのベテランの女冒険者で、アスタルテという。
他にも、六十を過ぎた小柄な老人が、武器からの逃げ方を教えたり、隻腕の冒険者が魔法を教えたりしている。
ありがたいことに皆、従軍経験があったのだ。
保護した数十人の冒険者たちも、食事を与えるかわりに、カタラクティス家の使用人の仕事を手伝いつつ、時間を決めて戦闘訓練をするようにと伝えていた。
戦闘訓練をしている冒険者たち、つまり裏聖騎士団が殺そうとした者たちを見ると、半分以上が女だ。
冒険者の中にある程度女がいるといっても割合的に男よりは少ないので、裏聖騎士団は明らかに『女を狙っていた』。
さらに男は、こどもの冒険者、老人、小柄な者、最近冒険者になったばかりらしい太った若者、腕や足を欠損している者。加えて、意識して中性でいる者、異性装の者。
はっきり言えば、裏聖騎士団は、
『四肢がそろった、若くて恵まれた体格で屈強な男冒険者』
を意識的に生かし、その条件にあてはまらない者を殺そうとしたのだ。
(合理的、なつもりなのでしょうね)
その実、したり顔の露悪であり、思慮のない残虐である。
一方で、教会のやり方としては、違和感がぬぐえない。
隣人を愛せよ。殺すべからず。誰であろうと命は大切。神のまえに人は平等────少なくともそのような建て前がある。
転生者については大罪人であるという言い訳、奴隷については、自由民よりも劣った人間であり主として教え導くことが必要であるという言い訳をできるとしても。
『選別して生かし、望ましい者以外を殺す』
これが教会から出てくる発想とは思えないのだ。
そんなことをちらちらと考えていると、奥の柱のかげに、とある人影が見えた。
ベルセルカは微笑み、その人影のもとに歩いた。
「────心配だったなら堂々と帰ってきたらいいじゃないですか、メサイア様?」
「へっ!?なんで気づくのよ。あと余計なお世話!」
「転移魔法できましたっけ?」
「自力で堀と塀を越えたわよ。あんたそのアオリ癖だんだんひどくなってない?」
メサイア・カタラクティスは会話しながらも、柱のかげから戦闘訓練の様子を垣間見ようとしている。否、一人一人の様子を。
「よかった、ちゃんとみんな元気そうね……ヘルマは?」
「ええと、足を切られた女の子……ですね。その」
ベルセルカの目線の先を、メサイアが追う。
少女が、壁を背に、カタカタ震えながら膝を抱え座っている。
手首まで足首まで隠しとおす衣服を着て、さらにそれでさえ頼りないように毛布をかぶり、手足がでないようにくるみきっている。まるではみだしたら切り落とされると言わぬばかりに。
気温など感じないように、青白く憔悴した顔で震える。
若い肢体を自分の思うままに着飾って、明るく町を闊歩していた彼女の面影は、いまはない。
「……怪我は……怪我は治したのよね!?」
「心が簡単に治るわけではないので。
……メサイア様、お仲間にもそういう方はいらっしゃいませんでしたか?」
「…………」
「時間はかかりますよ。楽観視したことは言えないですけど、ちゃんと見ていますから」
メサイアが、こらえかねたようにいきなり柱を殴りつけた。
「ちょっと!?
手が壊れますよ!?」
女の拳は、男のそれよりも総じてもろい。
しかし、メサイアは、かまわずまた壁を殴る。
「……速い足が、自慢の子なのよ。
だから、私みたいな動きやすい鎧が良いって……」
「それは、メサイア様のせいでは」
「あたりまえよ。私は悪くない。
それ以上にヘルマも、何一つ悪くないのよ。
……仇は取るわ、必ず」
そううめいたメサイアの肩に、思わずベルセルカが手をおこうとした時。
慌てたように、城の建物の中に物見をしていた者が駆け込んできた。
「何事です!?」
ベルセルカは彼のもとに駆け寄った。




