(7)砦の襲撃
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翌日、朝。
まず、村人たちの案内により、レイナートたちは、ラタペル山の入り口へと案内される。
化け物の住みそうなその黒い山は、ふもとまで、うっそうと木々が繁る森に包まれていた。
夜じゅう索敵魔法をかけていた者たちは、詳細な報告の後、離脱。
ベルセルカのみが一時間半の仮眠をとったあと、レイナートたちとともに出発した。
「昨夜から調べて実感したことは……どの村を襲うのも、どの村から人をさらうのもたやすい立地です」
ベルセルカはそう評した。
山のふもとではカバルス軍本体が、カロン・セネクスと家令、および、駆けつけたセネクス家家臣たちとともに待機。
山の中に入ったのは、レイナート、ベルセルカ、イヅル、それに剣闘騎兵隊の中から10人と魔弓騎兵隊の中から10人。馬は避け、皆徒歩だ。
その後ろから、村人たちが30人ばかりも、ついてきていた。
「このあたりの罠などは?
ベルセルカ様」
エメラルド色の大きな瞳に再び策敵魔法をかけて――瞳は真っ赤に染まっている――周囲の罠などを再度確認していたベルセルカに、イヅルが声をかける。
「―――ありません。
昨日もまるで見つからず、拍子抜けでした」
「存在を認知されて警戒されないようにだろう」レイナートが推測を加えた。
「あ、もう少し上がったところの“穴”です」
「穴……か」
間もなく、山賊の根城と思しき“穴”が視界に入ってきた。
それは洞穴などではなかった。
長方形に切られた巨石を上下左右に枠として配した、四角い人工的な穴だった。
昔の納骨堂であろうか?
「あんなところを、よく棲みかとして選んだな」
「そうですね、なかなかのスリルですね」
入り口を身を隠しながら見張れる場所に、皆待機する。
ある者は木の後ろに。
ある者は、岩陰に。
「おまえの報告どおり、多いな」
気配を察したレイナートが声をかける。
「ええ、多いですね……山賊が。30人はいます」
彼らの会話を聞いていた村人が、農具を握りしめながら、ぶるっ、と震える。
「魔弓騎兵隊、連射体制に入れ。
剣闘騎兵隊、準備が完了するまで待機。
村の方々は手元でひとり最低20個の石を準備してください」
レイナートが出した指示に、皆、それぞれの準備に動き出す。
「しかしベルセルカ様。
なぜ村人たちをこんなに多く?
統制もとりづらく、足手まといのような」
イヅルが疑問を口にすると、
「あ、はい、証人です」と、ベルセルカが小声で答える。
「証人?」
「ええ。もし、さらわれた人たちがごっそり殺されていたり、望むような結果にならなかった場合、転生者を蔑む村人は、すべて私たちのせい、というかレイナート様のせいにするでしょう?
だったら、村人にも見てもらうほうが良いです。できるだけ大人数に。
たとえ村人が少々死のうと大丈夫なぐらいの人数で来ていただきました!」
「……なるほど?」
襲撃への参加を志願した村人たちは、平均年齢が妙に高く、50歳を越える者も何人か加わった。
その意味するところは、いったい何か?
「始めるぞ」
レイナートの声が、静かに飛んでくる。
今日のレイナートはイヅルにより10時間の睡眠をとらされたので非常に魔力は充実しているが、今回は指揮官として後方に立ち、決して前には出ない。
魔力を十分に温存する必要があるのだ。
国王は、その長い腕をまっすぐたてに上げ、振り下ろした。
――――――耳をつんざくような酷い音があたりに響く。
ただただ、不快なその音。
剣闘騎兵が穴に向けて剣を突きつけている。
音攻撃の魔法を放っているのだ。
「なんだなんだ!?
いったいなんなんだ!!」
洞窟から、わらわらと、男女が出てきた。
毛皮と布をくみあわせた、粗っぽいつくりの衣服をまとった、男女が数人、いや、続々と出てくる。
そこに女弓騎兵たちが一斉に矢を浴びせた。
「やぁ!?」
「なん、だ、こりゃ!!」
今回は、さらった者たちの行き先をききださねばならない。
矢は彼らをみだりに殺すことなく、自在に動いて頭を避け、腕や足を貫き、動きを止めていった。
「ダメだ、やみくもに外に出るな!!
こっちも弓と槍で応戦だ!!
楯になるものを探せ!!」
首領とおぼしき男のこえが響く。
盾をもって出てきた山賊たちに、村人たちが死に物狂いで石をなげ、ぶつける。容赦なく、撃ち殺さんばかりに。
ベルセルカは剣闘騎兵を率い、石を避けて山賊たちの壁を突破し、穴の中に入り込んだ。
入ってしばらく続く通路を駆け抜けると居住空間として十分に広いスペースになっている。
これも索敵魔法で探り済みだ。
剣闘騎兵たちは、穴のなかでその腕を存分に発揮し、続々山賊たちは倒されていく。
「ではベルセルカ様、私は奥へ参ります!」
金髪碧眼のひとりの少年兵がベルセルカを抜いて穴の奥へ走っていき、坂のように下がっていく道をかけ降りる。
ベルセルカは自分が探すべきものを探した。
次第に手が空き始めた剣闘騎兵たちも、穴の奥を警戒している。
「さっらわれたひとー!
どこですかーぁ?」
納骨堂であったらしい広目のスペースから奥に続く道、そこから伸びる横道は、まるで入り組んだ単なる洞窟だ。
山賊たちが、石を組んで作った壁を壊して長年かけて掘り進めたのだろう、いくつも複雑な横穴があり、そこにさらに潜んでいるようだ。
隠れながら、こちらを狙ってくる山賊たちは、魔法もつかわず武器と蹴りだけで手早く片付けていく。
ふいに、ベルセルカはある穴に目を止めた。
横穴のひとつに、木の檻がついているところがある。
元からあった地下牢ではあるまい。山賊たちが作ったものか。
ベルセルカは剣を抜いて駆ける。
「てややぁぁっ!!」
若干気の抜けるような気合いの声とともに、木の牢枠を魔力込みでぶったぎった。
太い牢枠が、あっさりばっさりと切断されてしまう。
そのままベルセルカが思い切り木枠に後ろ蹴りを叩き込むと、牢を構築していた素材は、ズン、と響きながら崩れ落ちた。
牢獄の奥に、おびえるこどもたちがいる。
ベルセルカと同じ年頃の少女が2人。少しおさない子が、3人。
みな、身を寄せあっていた。首筋に布を巻いている。怪我をしたのか?
「心配しないで。助けにきました」
笑顔をつくって、みなに近づく。
そのとき、穴の奥で何かの大きな声が響いた。
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