一 花炎−Flowers end−
暑い。もう秋なのに紫草が咲いている。
宮司である神代一妖は神社の縁側で涼んでいた。
桶に入った井戸水が涼やかに光っている。
灯楠神社、此処はそう呼ばれている。
裏庭の掃除を終え、正面の拝殿へと向かい、気がつく。
神社の裏の山々がことごとく紅に燃えていた。
楓、銀杏、漆がモノクロの冬に入る前に生気を発散させている、そんな光景。
「一妖、今日はどうかな。」
参道の奥の鳥居の下、老人が立っている。
「今日も幸福の神様は不在です。きっと何処かで神徳でも振りまいてるでしょう。」
老"榊"爺は神妙にうなずき、拝殿の前で手を合せる。
目の前には眩しいほど強い色の紅葉が舞っていた。
今日も法花は来ていない。
刹那、神社の裏手から焦げる臭い。黒い煙が見えた。
「おい一妖、煙が・・」
もう走り出している。
見ると、煙の出は奥の書庫。
熱せられた鉄の閂を死ぬ気で開け、先程汲んでいた井戸の水をかける。
「書が、何年も保存されてた貴重な本が!」
書庫の中は高温の炎が暴れて、書や本を舐め尽していた。
「一妖、書庫はどうなったんだ?」
「誰だ!犯人は!?今すぐ出てこ・・」
頭に血が上り、一時的に意識が飛ぶ。
一妖の視界が暗転、周りの声も霞んでいった。
目を閉じると感じる流れ。首筋に金属の冷たさ。
「あら、彼岸からお帰りなさい。」
「まだ死んでない。て言うか死ねない。」
布団に寝かされている一葉の傍らに、首筋に刀を突き付けている少女"法花"がいた。
「私がもうすぐ殺すのは確実だった。つまりあなたは死から生き返った。ってこと。」
外はもう日が暮れていた。
「冗談はともかく、うちの神社の書庫は?」
「榊さんが火を消し止めてくれていたの。」
「まあいいや。犯人探しに行こう。」
消極的に呼び掛けておく。来るなら来るで、何かと便利。
「今日はお休み。明日起きてからね。」
来ないことは解っていた。
そう、これは自分の仕事なのだ。
全てを無くして、盲目的に生きる自分の役目。




