記憶の奥底で
次の休み、玲奈達と瞬と由香、それから卓は死出山に向かった。梨乃と玲奈は以前行ったが、勤と智は初めてだった。
「なぁ、智は死出山について知ってるか?」
「父さんに聞いたから、なんとなく分かる。」
「そういえば、お前って自分の事について何も言ってくれないよな?」
勤が智の顔を覗き込んだ。
「僕にこうしてグイグイ話してくるの、勤と玲奈ぐらいだよ。」
智はそう言って二人を見た。
「へえ…そうなんだ。智君って引っ越す前はどんなんだったの?」
「引っ越す前…?別に今と変わらないよ。」
それはあまりにも淡々とした答えだった。
「へぇ…そうなのか。」
しばらく歩いていると、死出山が見えてきた。
「ここが死出山なのか…。」
そこは既に滅び、人の気配が一切感じられない山の町の麓の町だった。
「智君は知ってるって言ってたけど、勤君はどうなの?」
「ああ…両親の故郷なんだ。滅ぶ前に引っ越したけど。だから、俺、玲奈から死出山の事を口にした時驚いたんだ。」
「へぇ……。」
梨乃はずっと卓と話をしている。
「梨乃は俺と一緒に『風の神殿』に来てくれないか?」
「えっ?」
「父さん、俺、行ってくる。」
梨乃は引きずられるように卓に手を引かれて、山の方へと行ってしまった。
そして、残された玲奈達は考え込んだ。
「梨乃さん、どうしたんだろ……」
「『風』、『風見』、何処かで聞いた事が……。」
玲奈達が梨乃の心配をする一方で、智は別の方向に意識が飛んでいた。
梨乃と卓は山道をずっと登っていた。
「『風の神殿』はこの奥にあるんだ。」
「それって…卓兄さんが昔、清蓮さんに会ったって言う?!」
「ああ…そして、今日も会いに行く。」
霧が深くなってきたが、二人が通ると自然に道が見えた。
そして、朽ち果てた建造物が見え、中に入ると眩い光に包まれた。
そこは、清蓮が居る世界だった。陰陽師を象った二つの銅像は輝きを放ち、柱の装飾も光っている。
その先に『風見の始祖』こと、風見清蓮が立っていた。
「久しいな、我の子孫にあたる卓、そして…初めて会うな、梨乃よ。我の声を聞きつけてやって来たのだな。」
「あっ、はい!」
清蓮の力は想像を絶するものだった。死出山から姿を消す前に、この亜空間を創造し、自らの意思と『風の神殿』をそこに封じ込めた。また、悪霊や妖と戦い、都を守ったという言い伝えもある。
「そうか…『風縛』の能力を持つ梨乃よ、我は君に言いたい事がある。」
「それは…なんでしょう?」
「強い力を持つものは、害悪を呼び寄せる事がある。また技によってはとてつもない負荷がかかり、自らを蝕んでしまうんだ。後は…卓は知ってると思うが、この力は目を背けてしまうような真実を見てしまうかも知れない。
力は使ってこその力だ。決して、それに飲まれたり、力に使われたりしてはいけない。」
清蓮は水晶を取り出した。
「これは霊水晶、霊力を封じ込めた水晶だ。これは風見の力を増幅し、抑制する力を持つ。
心配はいらない、梨乃なら自らの力を正しく使ってくれるさ。」
梨乃は霊水晶を受け取った。
「清蓮さん…ありがとうございます。」
すると、周囲は再び光に包まれ、卓と梨乃は元の世界に戻った。
そして、二人は玲奈達の元へ帰って来た。
「梨乃姉ちゃん!」
「ただいま、戻ってきたよ。」
玲奈達は交差点に居た。
「ここって、この前行った…。」
梨乃はその真ん中に立ち、霊水晶を握りしめた。
すると、卓達にしか分からない事だったが、霊水晶の中に『風』が吹き込んでいった。
梨乃が目を閉じると、過去の情景が浮かんでくる。それは幼い双子の姉妹が、交通事故にあった時のもとだった。一方の少女がもう一人の少女を庇って、車に轢かれてしまった。
そして、庇った方の少女は血塗れになって倒れ、命を失ってしまった。もう一人の少女も傷を負ったが、死には至らなかった。
梨乃が目を開けると前を見た。
「やっぱりそうだったんだ…。私はただ、妹にだけは生きて欲しいと思ってた。」
そして、由香の方を見つめた。
「由香…、まさかこうして会えるとはね。」
由香は笑って梨乃を見つめた。
「あなたが産まれた時には気づいてた。やっぱり、私の事が気になってしょうがないのね。」
瞬と卓はただただ驚いていた。
「まさか、梨乃の力がこれ程のものとは……。」
すると、冥徳寺の和尚さんが現れて、こう言った。
「卓から聞いた、これをどうか受け取って欲しい。」
それは大量の御札の束だった。
「いや、そんなに沢山!」
「いつか必要になるから持って置きなさい。無くなったらいくらでも足すし、別のものでもいけるから。」
梨乃はそれを受け取って、カバンの中に入れた。
「あ、ありがとうございます……。」
そして、一同は死出山を離れようとした時、梨乃は何かを感じた。
「……『人ならぬ者』が、私達に干渉している…?」
梨乃は辺りを見回したが、それらしき者は居なかった。また、瞬や卓に聞いても、首を振るばかりだった。




