目覚めた狂気
玲奈達は前日の事をおさらいしていた。
「やっぱりホントの事だったんだ………。」
「この本って、『闇深太郎』のじゃないのか?」
勤がそう聞くと、玲奈は首を振った。
「お祖父ちゃんのだったら一発で分かるもん。それに…あの時の本は起こった出来事を書くもので、これから起こる出来事は書いてない。」
玲奈は本を眺めて考えた。
「そうだ、もう一人のお祖父ちゃんにも聞いてみよう!」
「もう一人のって、館長さん?」
玲奈は放課後、N市立の博物館に向かった。
館内に入ると、そこには埋蔵文化財がいくつも展示されてある。玲奈はその奥の部屋で、館長こと、岸辺雅人を待った。
すると、胸に老眼鏡をかけた男性がこちらに向かって来た。
「お祖父ちゃん!」
「玲奈、久し振りだな。」
玲奈は早速、あの本を手渡した。雅人は老眼鏡をかけ、手持ちのルーペで色々調べたが、首を振った。
「古そうな本だが、分からない。」
玲奈は本を開いてみた、すると、昨日は書かれていなかった文章が増えている事に気がついた。
「えっと…今日の日付だ…。何、二丁目の交差点で女の子が一人交通事故で死ぬ…?!」
大声を出しそうになって玲奈は、はっと口をつぐんだ。
「どうしたんだ?!」
「お祖父ちゃん…私、行ってくる!」
玲奈は急いで博物館から出て、携帯電話で探偵団のメンバーを呼んだ。
そして、二丁目の交差点に向かう。
「また本に何か書かれてたのか?」
「あ、この子が!」
小学一年生くらいの女の子が、ボールを追いかけて交差点に飛び出していた。
「危ない!」
梨乃が急いで女の子を庇い、歩道に出た。
「梨乃さん!」
「なんか…思い出して…。大丈夫?」
女の子は頷いて、行ってしまった。
「良かったな、なぁ、玲奈?」
勤が玲奈の方を見た。
玲奈はずっと俯いていて、さっきの事ににすら気づいていなかった。
「玲奈…どうしたんだ…?」
すると、玲奈は髪の毛をかきあげ、真上を向いた。
「アハ、アハハハハハ!」
それは狂った笑いで、目は赤く見開いている。
「玲奈、お前どうしちゃったんだよ?!」
「玲奈ちゃん!」
それに共鳴するかのように梨乃の目も青く光った。
玲奈はこんな事を呟いた。
「させない…次は絶対にさせないから!『死神』の思惑通りには絶対にさせない!」
二人が戸惑う中、智は一人、何も言わずに玲奈を睨みつけていた。
こうなってしまった玲奈に何もする事が出来ない二人はその場に立ちすくんだ。
「玲奈……」
その時、突然人影が現れたと思うと、玲奈を抱え上げ、三人の方を見た。
「茂さん!」
それは、玲奈の祖父である渡辺茂だった。普段と違って洋服を着ているが、間違いない。
「玲奈のことは私がなんとかする!だから…心配するな。」
玲奈はしばらく暴れていたが、落ち着いたらしく、眠りについた。
「まさか玲奈もそうなってしまうとはな…。」
「一体、どうしたのですか?」
「これから渡辺邸に行かないか?したい話があるんだ。ほうだ…元死出山怪奇少年探偵団の子達が丁度来てるんだ、会いに行くかい?」
「あっ、お願いします!」
茂達はバスに乗って、青波台の山の方にある渡辺邸に向かった。そこは和風建築の一軒家で、よく人が集まっている。
梨乃が中に入るとまず、従兄弟である卓に会いに行った。
「卓兄さん!」
「梨乃、元気だったか?」
梨乃は卓を抱き締めた。
「はい!ずっと会いたかったですよ!」
「そうか…」
二人は縁側で話始めた。
「梨乃は生まれつき能力を持ってるって、父さんは言ってるし、俺も感じてるんだけど…最近どうなんだ?」
「最近、ですか…霊が見えたり、魂や力の流れである『風』を感じたりもそうなんですが、過去が断片的に見えるようになりましたね。」
「『風見』の能力か…過去や未来を『風』によって知る力…」
「でも、それだけじゃないんです。」
卓は驚いた。
「それだけじゃない?」
梨乃は手を伸ばして、何かを掴んだ。
「卓兄さんは『風』を掴めますか?」
卓は首を振った。
「いや、俺もそうだが、清蓮もその力は持っていなかった。」
梨乃は自分の周囲に集まって来た『風』を感じた。
「『死出山に来い』、か……」
「卓兄さん?」
「いや、梨乃は死出山、そして冥徳寺と『風の神殿』に行かなければならないなって。」
「そうなんですか?」
「ああ、梨乃の能力は恐らく、『風縛』なんだろうな。それは今までのどの風見の能力者も持っていなかった。その力は『風』を自由自在に操り、技も放つ事が出来る。梨乃…お前は『風見の始祖』をも上回る能力を持ってるんだぞ?」
梨乃は胸元を抑えた。
「そんな…私、大丈夫なんですか…?」
「俺もそうだが、梨乃も死出山を出て生まれた風見の一族だ。元々は死出山の力を元にしていたが、俺達はそうではない。ましては梨乃、お前に関しては自ら力を生み出してしまった。」
梨乃は嬉しいような、自信を無くしたような複雑な気持ちになった。
すると、卓は梨乃の肩を叩いた。
「心配するな、梨乃ならきっとこの能力を正しく使ってくれる。」
「卓兄さん…」
梨乃はしばらく考えていたが、決意が決まったらしく元気に返事をした。
玲奈はしばらく眠っていたが、やがて意識を取り戻した。
「お祖父ちゃん……」
「玲奈…、色々すまないな…。」
玲奈は今の状況を全く理解していなかった。
「なんでお祖父ちゃんが謝るの?」
茂は、謝っても謝り切れない気持ちで一杯だった。
「私が狂気に陥っていたせいだ…。あの時は瞬君の力によってなんとかなった。それで終わったつもりだった。優太は作家志望じゃなかったから、影響が無かったんだ。ところが、玲奈が恐らく作家に成ろうとしてるから…そうなってしまったんだろう…。」
「私…、狂気に陥っていたの?」
この様子だと、玲奈はあの時の事を全く覚えていないようだった。
「ああ…この目ではっきりと見てしまったんだ。」
落ち込む茂の前に、優月が現れた。
「茂さんらしくないですよ?元気出して下さい!」
すると茂はため息をついた。
「仕方ない事だとは分かってるんだ。」
玲奈は首を傾げるばかりだった。
勤と智は、亮也と大地の元に居た。
「へぇ…探偵団やってるんだね。」
「俺の推理力見せつけてますよ!」
勤は自信満々だった。
「へぇ…楽しそうだね。」
智はずっと一言も話さずに見ている。
「君は僕と同じ気を感じるね?」
「そう、ですか…?」
智はどう反応すれば良いのか分からないようだった。
「智、こういう時は嘘でもありがとうございます、って言って笑えば良いんだよ?なっ、そうだろ?」
勤は智の肩を叩いたが、振り解かれてしまった。
「お前…気安く触るな。」
それは、普段の物静かな様子とは全く異なる、淡々と、しかも怒りが混じった声だった。
「智?」
すると、智は我に返った。
「あっ、ごめんなさい…。僕は…、やっぱりなんでもありません…。」
「智……」
その後、再び智は一言も発さずに勤達の話を聞いていた。




