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彼女の事情  作者: FRIDAY
26/28

26.彼と彼女の天情

 


 ●



 きゅっ、と山代に抱きしめられたぬいぐるみは、むぎゅう、ともうすっかり抱きつぶされている。

「………無理」

「そうだよ。無理だよ」

 山代は、また俯いた。また、泣きそうになっているのかもしれない。泣き叫ぶ体力は、もうさすがにないのだろうが。

「私の勝手で、美樹に迷惑をかけて………そんな自分勝手は、駄目だよ」

 何だかもう、すっかり力の抜けて、諦めきったような声音だった。

 ………自分勝手。

 城ケ崎は、心中で山代の言葉を反芻する。

 自分勝手、か。

 …………………。

 ………自分、勝手?

「………自分勝手って、お前は言うけどさ」

 城ケ崎の言葉に、山代は身を固くした。けれども、

「それって………普通じゃないか?」

 その言葉を聞いて、山代はくっと顔を上げた。

 構わず城ケ崎は、言う。

「そもそもさ………恋愛っていうのは、自分勝手なものだろう」

 と、俺はそう思う。

「別に、お前と相生に限った話じゃない。女同士だろうが、男同士だろうが、男と女だろうが――――恋愛感情っていうのは、どれもこれも自分勝手な感情だろう」

 何か言おうと、山代は眉を立てた表情で口を開く。しかし城ケ崎はその前に言葉を挟み、山代には何も言わせない。

 まあ聞け。

「片想いであるうちは、まあいいさ。でも、それじゃあ満足できないだろ? 人間ってのは。なかなかさ。だから両想いになりたいって思って、好きだって告白するわけなんだが。それって、どう言い繕ったってどんな綺麗事で飾ったって、もの凄い自分勝手な話じゃないか?」

 だってさ。

「自分が一方的に好きだっていう、ただそれだけの赤の他人に、自分を好きになってもらおうとしてるんだぞ?」

 山代は、口を閉じた。

「『私はあなたが好きだから、あなたも私を好きになれ』って、平たく言えばそういうことなんじゃないか? 相手の気持ちを自分に向けようとしている。相手の心を自分で占めようとしている。これが自分勝手じゃないなら何なんだ」

 と、俺はそう思う、とオチをつけてしまうのが、城ケ崎のいまいち締まらない欠点だが。

「受け入れる、ってのは、そういうのも全部受け入れるってことなんじゃないか? 相生だって莫迦じゃない。それくらい、思い当たらないことはないだろうさ」

 多分。とは口には出さないけども。

 そういう自分勝手をも。

 清濁併せてその全てを受け入れる。

 それが、『受け入れる』ってことなんじゃないか。

「恋愛っていうのはそもそもがどうしたって自分勝手な感情なんだ。だから、そんなことで気に病むな。そんなことを逃げる理由にするな。お前が本当に相生が好きだっていうんなら………それくらいの自分勝手、気にせず通せよ」

 口調こそ、平坦であるように努めているが。それでもやっぱり、けしかけてるよなあ、と思う。

 これで、最悪の展開になったらどうするのだ。責任とれんのか。

「────とまあ、俺の言いたいのはこれくらいだ。………すまんな、好き勝手言って」

 一番勝手なのは、こういう自分なんだろうなあ、と。

「まあ………俺が何を言ったところで、決めるのはお前だ。行動するのも、しないのも」

 責任取れんぞ、と。

「…………………」

 ため息は内心に留めておいた。

 山代は。

 うん、と小さく頷いて、下唇を浅く噛み、俯いた。

 考えている。

 悩んでいる。



 ●



 

 


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