26.彼と彼女の天情
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きゅっ、と山代に抱きしめられたぬいぐるみは、むぎゅう、ともうすっかり抱きつぶされている。
「………無理」
「そうだよ。無理だよ」
山代は、また俯いた。また、泣きそうになっているのかもしれない。泣き叫ぶ体力は、もうさすがにないのだろうが。
「私の勝手で、美樹に迷惑をかけて………そんな自分勝手は、駄目だよ」
何だかもう、すっかり力の抜けて、諦めきったような声音だった。
………自分勝手。
城ケ崎は、心中で山代の言葉を反芻する。
自分勝手、か。
…………………。
………自分、勝手?
「………自分勝手って、お前は言うけどさ」
城ケ崎の言葉に、山代は身を固くした。けれども、
「それって………普通じゃないか?」
その言葉を聞いて、山代はくっと顔を上げた。
構わず城ケ崎は、言う。
「そもそもさ………恋愛っていうのは、自分勝手なものだろう」
と、俺はそう思う。
「別に、お前と相生に限った話じゃない。女同士だろうが、男同士だろうが、男と女だろうが――――恋愛感情っていうのは、どれもこれも自分勝手な感情だろう」
何か言おうと、山代は眉を立てた表情で口を開く。しかし城ケ崎はその前に言葉を挟み、山代には何も言わせない。
まあ聞け。
「片想いであるうちは、まあいいさ。でも、それじゃあ満足できないだろ? 人間ってのは。なかなかさ。だから両想いになりたいって思って、好きだって告白するわけなんだが。それって、どう言い繕ったってどんな綺麗事で飾ったって、もの凄い自分勝手な話じゃないか?」
だってさ。
「自分が一方的に好きだっていう、ただそれだけの赤の他人に、自分を好きになってもらおうとしてるんだぞ?」
山代は、口を閉じた。
「『私はあなたが好きだから、あなたも私を好きになれ』って、平たく言えばそういうことなんじゃないか? 相手の気持ちを自分に向けようとしている。相手の心を自分で占めようとしている。これが自分勝手じゃないなら何なんだ」
と、俺はそう思う、とオチをつけてしまうのが、城ケ崎のいまいち締まらない欠点だが。
「受け入れる、ってのは、そういうのも全部受け入れるってことなんじゃないか? 相生だって莫迦じゃない。それくらい、思い当たらないことはないだろうさ」
多分。とは口には出さないけども。
そういう自分勝手をも。
清濁併せてその全てを受け入れる。
それが、『受け入れる』ってことなんじゃないか。
「恋愛っていうのはそもそもがどうしたって自分勝手な感情なんだ。だから、そんなことで気に病むな。そんなことを逃げる理由にするな。お前が本当に相生が好きだっていうんなら………それくらいの自分勝手、気にせず通せよ」
口調こそ、平坦であるように努めているが。それでもやっぱり、けしかけてるよなあ、と思う。
これで、最悪の展開になったらどうするのだ。責任とれんのか。
「────とまあ、俺の言いたいのはこれくらいだ。………すまんな、好き勝手言って」
一番勝手なのは、こういう自分なんだろうなあ、と。
「まあ………俺が何を言ったところで、決めるのはお前だ。行動するのも、しないのも」
責任取れんぞ、と。
「…………………」
ため息は内心に留めておいた。
山代は。
うん、と小さく頷いて、下唇を浅く噛み、俯いた。
考えている。
悩んでいる。
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