27.彼と彼女の心情
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そのまま、長いこと、山代は俯いていた。
表情は陰になって見えないが、むぎぅ、と変形して面白顔になっているぬいぐるみから、深く考え込んでいることはわかる。
城ケ崎はその間、延々とコーヒーを摂取していた。既に二本目のストックも半分になっている。
………悩むよなあ。
既に味覚が苦味を知覚できなくなった状態で、城ケ崎はコップを傾ける。もはや温度しかわからない。
生温い。
悩ましいだろう。成功すれば得るものは大きいが、思い通りにならず失うかもしれないものを天秤に掛けると、たった一歩も進めない。
それでも、と城ケ崎は思う。
悩むことは必要で、悩めば悩むほど、選び取った結果への後悔は変わる。
そして。
悩んだ挙句、最後まで結論できず、結局行動できなかった城ケ崎は、十年経ってもまだ後悔している。
どうせ後悔するなら、行動して後悔する方がいいんじゃないだろうか。
城ケ崎自身は、こと恋愛に関しては関わらないようにしてきたため、行動して後悔したことがないのだが。
行動せずに後悔したことしかなかったから。
どうする?
言葉にはせず、心中のみで問いかける。
お前は、どうするんだ?
正味の話、城ケ崎としては、山代がどちらを選んでもいいと思っている。
それは別に、山代がどうなってもいい、どうでもいいというわけではない。
山代は、悩んでいる。
考えている。
深く、真剣に。
それだけ迷い、悩んで選んだ結果なら、それがどんなものであれ尊重すべきだと思うのだ。
――――しかしながら、そうは言っても。
別に今すぐに答えを出さなくてもいいんだけどな。
さすがにそろそろ、ブラックコーヒーでは騙せないレベルの眠気に襲われている。生理的限界だ。雰囲気的に舟を漕ぐわけにもいかないし、実のところ腹の中もかなりたぷたぷだ。押せば出てくるんじゃないかというほどに………
――――お?
もう何杯目かわからなくなったコップを口へ向け傾けながら、ふと、城ケ崎は固まった。
あ、やばい。やばいわコレ。
自覚してからはもう怒涛の勢いだ。額に汗が浮く。真紅のアラートが緊張となって全身を走り回り、みるみるうちに下腹奥の圧迫感が強くなっていく。
………トイレ行きたくなってきた。
そういえば、いいだけ茶だのコーヒーだのを鯨飲しながらも、思えば一度もトイレに行っていない。むしろ今までよく催さなかったなと。
茶もコーヒーも、そういやどっちも利尿効果あったっけなあ………
正確に言えば両者に含まれるカフェインの仕業なのだろうが、しかしどうしよう。
場面的に、ここはシリアスなターンだ。そう躊躇なく「ちょっとトイレ」とは言い出しにくい。いや考えすぎかもしれないが、城ケ崎は小中高と、授業中に手を挙げて「トイレ行ってもいいスか」と言えず、それがために終礼のチャイムまで拳を握り歯を食いしばっていたタイプの人間だ。やはりなんとなくちょっと言い出しにくい。
どうする。行くか。自分の部屋だ。トイレの所在に問題はない。だが無言で立ち上がるのも不審だ。やはり一声かけるべきか。「ちょっとトイレ入るわ」と。え、この状況で? やっぱりそれはハードルが高いというか。
城ケ崎は悩む。抑圧の貧乏揺すりを辛うじて抑え、下半身に絞るような力みを淹れつつ腕を組む。
うむ。やはり悩むことが重要だよな。悩みが深ければ深いほど結論もよりよいものになるけどいやしかしコレ行かなきゃマジでやばいんじゃないかもう一択で迷わず行くべきだその後でゆっくり反省会じゃないかこの歳でここで洪水はさすがにまずいだろうそれはもう多種多様にさまざまに何重にもいろんな意味で洪水は駄目だよな洪水は!
よし行こう、と城ケ崎が立ち上がりかけたとき、それまでずっと沈黙していた山代が、ふ、と吐息して顔を上げた。
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