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彼女の事情  作者: FRIDAY
12/28

12.彼女と彼の苦情

 


 ●



「あー………悪かった。すまん。落ち着いてくれ」

 しどろもどろになった城ケ崎は、とにかくも鎮まるよう願う。

 時刻は深夜をとうに回っている。

 壁の防音性はそこまで高くもない。

 隣人から怒られるのは勘弁願いたい。

 まして男の一人暮らしの部屋から深夜に女性の泣き声など………何の修羅場か。

 手近に干してあったタオルを渡すと、山代はそれに顔を埋めてまた号泣し始めた。それも、先程よりも激しく。タオルで必死で殺しているが、それでももれ聞こえている。

 悲痛な叫び。

 言わなきゃよかった、と城ケ崎は心底後悔した。

 ………何ていうか。

 配慮が足りなかったのは、それはもう明らかなのだけれども、それ以上に、

 俺自身が、頭が固まってるな………

 恋愛感情は、男女の間に生まれるもの。

 そういう、固定観念が拭えていない。

 まあ………今までまともに恋愛とかしてこなかったから、と言い訳したい。

 誰かを好きになったことがないわけではないのだが。

 ただ、まあ、その芽が育たなかったというか育てなかったというか。

 いやまあ、俺の話はどうでもいいんだけども。

 しかし、何だろう、山代の言うところの『相生が宮下他彼氏とするようなこと』というのは、あれだろうか。

 DATEとか、KISSとか。

「…………んー」

 想像がその程度でとどまってそれ以上ディープかつストレートなところまで発展しないのは、やはり城ケ崎の恋愛経験のなさとそれに起因する幼さだろうか。横文字になってるし。

 まあ、友人が知らない男とディープにいちゃいちゃしている場面など想像したくもないが。

 いちゃいちゃ。そうか、いちゃいちゃか。

 山代は、相生といちゃいちゃしたいわけか。

 DATEとかKISSとか、果てはあんなことやこんなことまで、したいわけだ。

 成程。

 うん、それは確かに、一般的な恋愛感情と相違ない――――

 よな?

 ああくそ、だめだ、どうしても確信が持てない。

 てゆーかそもそも俺、一般的な恋愛なんて知らねーじゃねーかよ。

 こんなことなら少女漫画とか読んでおくべきだったか。実家に帰れば妹の趣味で大量に保管されているのだ。

 そうすれば、もう少しまともな思考ができたのだろうか。

 ………しかし、まあ。

 ちょっと弱った。

 さっきから、油断するとチクチクと記憶がつついてくる。

 例の、苦酸っぱい思い出が。

『――――//に―――//が――――//で、お//―――/――/――――//ょう。――――/ま――――//う―――/い//――――――――///した』

 ノイズ、及び副音声はマイセルフ。

 まあ、口頭ではなくメールだったから、副音声どころか元音声すら捏造なんだけど。

 今考えても………俺が悪かったんだけどさ。

 城ケ崎はぶんぶんと頭を振った。

 山代はまだタオルに向かって泣いており、気づいていない。

 ………情けないよなあ。

 城ケ崎は、知らず自嘲するような笑みを唇に浮かべた。

 つくづく、山代は人選を間違えていると思う。

 城ケ崎の残念な恋愛歴は、山代だって知っている。

 居酒屋でそれをネタに絡まれることだってよくある。

 しかも、城ケ崎は男だ。

 それほどまでに追い詰められているのだと、そういうことだろうが。



 ●


 

 





 

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