12.彼女と彼の苦情
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「あー………悪かった。すまん。落ち着いてくれ」
しどろもどろになった城ケ崎は、とにかくも鎮まるよう願う。
時刻は深夜をとうに回っている。
壁の防音性はそこまで高くもない。
隣人から怒られるのは勘弁願いたい。
まして男の一人暮らしの部屋から深夜に女性の泣き声など………何の修羅場か。
手近に干してあったタオルを渡すと、山代はそれに顔を埋めてまた号泣し始めた。それも、先程よりも激しく。タオルで必死で殺しているが、それでももれ聞こえている。
悲痛な叫び。
言わなきゃよかった、と城ケ崎は心底後悔した。
………何ていうか。
配慮が足りなかったのは、それはもう明らかなのだけれども、それ以上に、
俺自身が、頭が固まってるな………
恋愛感情は、男女の間に生まれるもの。
そういう、固定観念が拭えていない。
まあ………今までまともに恋愛とかしてこなかったから、と言い訳したい。
誰かを好きになったことがないわけではないのだが。
ただ、まあ、その芽が育たなかったというか育てなかったというか。
いやまあ、俺の話はどうでもいいんだけども。
しかし、何だろう、山代の言うところの『相生が宮下他彼氏とするようなこと』というのは、あれだろうか。
DATEとか、KISSとか。
「…………んー」
想像がその程度でとどまってそれ以上ディープかつストレートなところまで発展しないのは、やはり城ケ崎の恋愛経験のなさとそれに起因する幼さだろうか。横文字になってるし。
まあ、友人が知らない男とディープにいちゃいちゃしている場面など想像したくもないが。
いちゃいちゃ。そうか、いちゃいちゃか。
山代は、相生といちゃいちゃしたいわけか。
DATEとかKISSとか、果てはあんなことやこんなことまで、したいわけだ。
成程。
うん、それは確かに、一般的な恋愛感情と相違ない――――
よな?
ああくそ、だめだ、どうしても確信が持てない。
てゆーかそもそも俺、一般的な恋愛なんて知らねーじゃねーかよ。
こんなことなら少女漫画とか読んでおくべきだったか。実家に帰れば妹の趣味で大量に保管されているのだ。
そうすれば、もう少しまともな思考ができたのだろうか。
………しかし、まあ。
ちょっと弱った。
さっきから、油断するとチクチクと記憶がつついてくる。
例の、苦酸っぱい思い出が。
『――――//に―――//が――――//で、お//―――/――/――――//ょう。――――/ま――――//う―――/い//――――――――///した』
ノイズ、及び副音声はマイセルフ。
まあ、口頭ではなくメールだったから、副音声どころか元音声すら捏造なんだけど。
今考えても………俺が悪かったんだけどさ。
城ケ崎はぶんぶんと頭を振った。
山代はまだタオルに向かって泣いており、気づいていない。
………情けないよなあ。
城ケ崎は、知らず自嘲するような笑みを唇に浮かべた。
つくづく、山代は人選を間違えていると思う。
城ケ崎の残念な恋愛歴は、山代だって知っている。
居酒屋でそれをネタに絡まれることだってよくある。
しかも、城ケ崎は男だ。
それほどまでに追い詰められているのだと、そういうことだろうが。
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