10.彼と彼女の抒情
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どうにかしよう、と思うのはいいのだが、それだけでどうにかできるものでもない。
一体何をどのようにしてどうしたものか。
「それは一体、いつ、から………? その、相生を好きになったっていうのは」
ようやく本格的に落ち着いてきたらしく、すんすんと鼻をすする程度になった山代に、とりあえず訊いてみる。山代は、しばらく視線を床にさまよわせた後でぽつりと「わからない」と答えた。
「わからん?」
「はっきりとは、わからない………けど、っ」
山代は鼻を吸った拍子に少し咽せた。慌ててティッシュを数枚抜き取り鼻をかむ。
また落ち着くのを待ってから、先を促した。
「わからない、けど?」
「最近じゃ、ない、よ。結構………前」
「結構前………ね」
つまり、割と長く堪えてたわけか………? と思っていたら、山代はつっかえつっかえに、「でもはっきり自覚したのはつい最近」と言った。
「ほう」
「あれっ、って、思っ、た、のは、去年くらい。宮下、君と、美樹が付き合い始めた、とき」
また嗚咽し始め、山代は呼吸を整えようと息を吸う。それもなかなか上手くいかない。
ちなみに、宮下君というのは相生の二人前の彼氏………だったはず、だ。城ケ崎との直接的な面識はない。
「でも、そんなわけ、ないと、思って」
違和感を感じながらも、気にしなかった、と………って、この調子じゃあまるで医者の診察だなあ。
などと時折脱線しながら、嗚咽混じりで聞き取りにくくじれったい山代の話を、城ケ崎は根気よく聞き続ける。
宮下と相生の睦まじい話を聞くたびに、底の悪い感情が芽生えていたこと。
宮下と相生が別れたと知ったときに、いけないとは思いながらも心のどこかで喜んでいたこと。
それから、相生が次の彼氏と付き合いだしたときには、無意識に早く別れてしまえと思っていたこと。
相生がその彼氏とも別れたときに、今度こそはっきりと、喜んでいる自分を自覚したこと。
そしてそうやって、相生の幸せを妬み、相生の不幸を喜んでいた自分を。
心底嫌悪していたこと。
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