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流転の國 vol.7 〜幻と記憶が交差する宙色の物語〜  作者: 川口冬至夜


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第六話 ルーリ

「ネクロ、聞きたいことがあるんだが」

玉座からネクロを見下ろし、ルーリが言う。

華やかなドレスを身に纏い、ブロンドのウェーブヘアにはジュエリーが輝いているが、見た目に似合わずその言葉は重く、ネクロの胸を抉るように低く響いた。


ここは流転の國。

閃光の大魔術師と名高い美しき支配者ルーリが治める恐ろしい國である。

今、玉座の間にはルーリと、その側近を務めるネクロの二人だけ。

「はっ。ご主人様、何でございましょうか…?」

「そろそろお前の実験の成果を教えてくれないか?ネクロマンサーとしての実力は本当に高まっているのだろうな?」

威厳に満ちた声で問われ、ネクロは萎縮しつつもはっきりとした言葉で話し始める。

「はっ。勿論にございます。死んだ者を操り、私の意のままに動かすことが出来ますぞ。…本来ならば、ここでご主人様にご覧頂きたいのですが、実験体として使った後の遺体は毎回ミノリ殿が丁重に弔ってしまう為、残念ながら今は出来ませぬ」

実験体として使われるのは、そのほとんどが流転の城で働いている使用人である。

ルーリはネクロから求められるたびにランジュに命じて適当な人間を拘束し、実験体として与えている。しかし、実験の様子を見たことはないので、その成果に関してはネクロに直接聞くしかない。

「私も悪魔種に属すが、死んだ人間には興味がないのでな。お前にしてやれるのは生きた人間を与えることくらいだ」

実のところ、ルーリはネクロマンサーの実験など見たくもないので、そう言って彼女の好きにやらせている。

「だが、毎回ミノリが弔いをしているとはな…」

今までそれを聞かされていなかったことがルーリは少し気に入らない。

「出来たら、お前の成果だけを見たいのだが、今すぐに出来るか?」

「はっ。誠に恐れ入りますが、生きた人間を一人お与え下され。その者を殺し、操ってみせましょう」

「分かった。お前の言う通りにしよう」

ルーリはそう言うと、一人の人間を玉座の間に『強制転移』させた。

「こいつの遺体ならば、ミノリも弔い甲斐があるだろうよ」

そこに現れたのはランジュだった。

わけも分からず『強制転移』させられたが、ここが玉座の間だと気付くと、ルーリの前に跪いた。

「ご主人様、お呼びでございますか?」

「ああ。今から、お前に最期の命令を下す」

「さ、さいごの命令……?」

ネクロは既に『悪神の化身』と呼ばれるマジックアイテムを持って傍に控えている。

その禍々しい雰囲気にランジュは恐れ慄く。

「私は…ネクロ様の実験体となるのでございますね…」

「話が早くて助かるよ。せっかくならば魔力を持たぬ弱い人間ではなく、お前のような強い人間を操る様子を見たいんだ。ネクロも十分に腕を上げたようだしな」

「はっ、畏まりました。ご主人様の仰せの通りに致します」

ランジュはそう言うと自分のマジックアイテムである『流転の斧』をルーリの前に差し出した。

「ご主人様、今までお世話になりました。最期に貴女様のお役に立てるならば本望でございます」

「…では、覚悟はよろしいですかな?」

ランジュが姿勢を正して目を閉じたのを見て、ネクロが鎌を構える。

「待て、ネクロ」

その時、ルーリがネクロを止める。

「ご主人様…?この者は既に自分の運命を受け入れておりますぞ」

「それは分かっている。…少し離れろ」

「はっ!」

ルーリの厳しい声を聞いてネクロは後ずさる。

「今まで流転の國の為に尽くしてくれたお前には、特別にこの私の魔術を味わわせてやろう」

死んだ人間には興味がなくとも、殺人となれば話は違うらしい。

そもそも、ルーリは天性の殺戮者と呼ばれる悪魔。見た目は絶世の美女だが、想像を絶するほどの残酷さを持っている。

(ご主人様は…本当に恐ろしい御方ですな…)

ネクロはさらに遠ざかる。先ほどまで自分が彼を殺そうとしていたことも忘れて震えている。

そして、女神の顔をした死神は美しい微笑みを浮かべながら『流転の閃光』を発動した。それは、元々ルーリの身体に宿るマジックアイテムのようなもので、それを発動させるとルーリの腕から指先に至るまで雷の渦が巻き付いてゆく。本来はそんな面倒な準備をしなくても瞬時に魔術を発動出来るのだが、本人が言う通りこれは特別な魔術なのだろう。

ネクロが見守る中、突然ルーリは真上に向かって人差し指を立て、

「『流転の迅雷』発動せよ」

その言葉が終わる前に殺人級の雷系統魔術が放たれ『迅雷』は確かにランジュに命中した。

しかし、雷が落ちた後の眩い光はなかなか止まず、ネクロがランジュの姿を見るまでには少し時間を要した。

一方、ルーリは何事もなかったかのように死んだランジュを実験台の上に寝かせていた。

そして、

「…ネクロ。これでいいか?」

そう言って振り向いたルーリの姿は、腕に巻き付いていた雷の残滓によって光り輝き、いつにも増して美しく見えた。

見る者全てを魅了する絶世の美女ルーリ。

麗しいドレス姿で優美な立ち居振る舞いをする彼女は、慈愛に満ちた女神のような雰囲気を纏った流転の國の最高権力者です。


しかし。

輝く金色の髪を彩るジュエリーの先端からは必要に応じて針が出てきます。

ロングドレスが揺れるたびに見える洗練されたピンヒールにはナイフが仕込んであります。


その美しい微笑みに惹かれつつ、配下達は彼女のことを女神の顔をした死神と呼んで恐れています。

次は誰が殺されるのか。

ランジュの死によって、ルーリへの恐怖が一層高まるであろう流転の國です。

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