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流転の國 vol.7 〜幻と記憶が交差する宙色の物語〜  作者: 川口冬至夜


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第五話 メイドの魔術適性

次の日。

ジェイは朝のコーヒーを飲みながら、これからどうすべきかを考えていた。

シャドーレは朝早くから黒魔術師部隊『クロス』の訓練所に向かったとのことで、今この邸にいるのはジェイ、ミノリ・アルバ、そしてマヤリィの三人である。

「今頃シャドーレは黒魔術の指導をしているのかな…」

『特別顧問』がどんな役割なのかは分からないが、シャドーレは非常勤講師のようなものだと言っていた。

「そういえば、ミノリさんは何か魔術を使えるの?適性とか、色々あるらしいけど…」

何もすることがないので、ジェイはメイドのミノリに話しかけた。とりあえず情報収集だ。

桜色の都に多いのは白魔術師だが、稀にシャドーレのような高度な黒魔術を使役出来る者が現れるという。

「はい。わたくしは雷系統魔術の適性を持っております。でも、桜色の都では珍しいようで、なかなか教えを受けることが出来ないのが現状です」

「雷系統魔術だって…!?」

ジェイが知る限り、雷系統魔術の適性を持つ者はもう一人。今現在、流転の國を統べる最高権力者ルーリだ。彼女は『閃光の大魔術師』と呼ばれ、今や世界最強の魔術師としてその名を轟かせている。

「…じゃあ、ルーリという名前を聞いたことはある?」

「勿論です。閃光の大魔術師様の御名ですよね?ジェイ様はその御方をご存知なのですか?」

「…昔、会ったことがあるだけだよ」

「…そうでしたか」

ジェイの様子を見て、ミノリは話を変える。

「もしわたくしに黒魔術の適性があれば、シャドーレ様と同じ道を歩むことが出来たかもしれないのに…と思うことがあります。でも、なかなかうまくはいかないものですね」

「桜色の都では黒魔術の適性を持つ者は少ないらしいね。強力な攻撃魔法を使える黒魔術師が足りなくて、十年以上前に天使達が攻めてきた時には苦戦を強いられたって聞いたよ」

ジェイはシャドーレから聞いた話を思い出す。彼女が魔術学校を卒業して何年も経たない頃、天界の者達が桜色の都に戦を仕掛け、かなりの犠牲者を出したという。

「はい。わたくしはまだ子供でしたので、王都が戦場と化した際には地方へ避難するよう命じられました。当時『クロス』はまだ結成されていませんでしたが、シャドーレ様が黒魔術師の方々を率いて応戦し、天界の者達を退けたとか。…あの頃から、シャドーレ様はわたくしの憧れの御方にございます」

ミノリは頬を染めながら話し続けていたが、

「ジェイ様は…シャドーレ様とはどういうご関係なのですか?」

唐突にジェイに訊ねる。

「ご、ご関係って…」

(しまった…シャドーレと口裏を合わせておくんだった…)

シャドーレは自分やマヤリィのことをミノリになんて説明しているのだろう。ジェイは聞いておかなかったことを後悔する。

しかし、

「今、昏睡状態に陥っていらっしゃる女性はかつてシャドーレ様の命を救って下さった御方だと伺いました。深い事情があるので詳しくは話せないけれど自分よりも身分の高い御方だとおっしゃっていました」

マヤリィの設定を聞き、ジェイは少し安心する。

(僕のことはあまり話してない感じかな…?)

ジェイは後でシャドーレと共有するつもりで話し始めた。

「僕は…これでも彼女の婚約者なんだ。詳しい事情は後で話すけど、僕達二人はとある凶悪な魔術師に禁術をかけられて危機的な状態にあった。その時、僕達を助けて保護してくれたのがシャドーレだったんだよ。そこから先は君も知っている通り、僕はこうして目覚めることが出来たけど、彼女にかけられた禁術はかなり強力で…解く方法すら分からないんだ」

「…そうでございましたか。シャドーレ様よりも身分高い御方とは思っておりましたが、ジェイ様はあの女性の婚約者でいらっしゃるのですね…」

どうやらミノリはジェイのシャドーレに対する言葉遣いや接し方を不思議に思っていたらしい。それもそのはず、シャドーレを呼び捨てに出来る人物などそうそういないからだ。

「…ということは、ジェイ様も強大な魔力をお持ちなのではございませんか?よろしければ、魔術適性を教えて下さいませ」

心なしか、先ほどよりミノリの言葉遣いが丁寧になっている。

「僕の専門は風系統魔術だよ。今は禁術の影響で発動出来ないけど、魔力が戻ったら『空間転移』魔術も使える」

ジェイが正直に答えると、ミノリは目を輝かせた。流転の國にいた頃は当たり前のように使っていたから知らなかったが『空間転移』はかなり高度な魔術として位置付けられているようだ。

「ジェイ様は『空間転移』を使役出来るのですか?魔力を取り戻されたら、ぜひ拝見させて下さいませ…!」

とはいえ、ジェイの魔力がいつ戻るのかは本人にも分からない。風系統魔術のマジックアイテムである『流転の指環』はマヤリィの元から『宙色の耳飾り』が消えたのとほぼ同時に失くなってしまったし、その後ルーリの前で魔術を発動することは出来なかった。

「うん、分かった。全て元通りになったら、どんな魔術でも見せてあげるよ」

見たことのない魔術に興味津々のミノリに対し、ジェイは優しい声で言う。

「はい…!楽しみにしております、ジェイ様!」

この短時間のうちにメイドの心をしっかり掴んだジェイ。ある意味、魔術より役に立つスキルかもしれない…。


「…というわけで、ミノリ嬢にはそう話しておいたよ」

シャドーレが帰ってきた後、ジェイは二人で話したいと言って部屋に移動し、今日ミノリに話したことを報告した。

二人で話す時も「ミノリ」ではややこしい気がするのでジェイはメイドを「ミノリ嬢」と呼ぶことにした。実際、貴族の令嬢だし。

ジェイの報告を聞いたシャドーレは安堵の表情を浮かべた。

「それはよかったですわ。実は、ジェイ様と私の関係をなんと説明するべきか迷っていましたの」

やはり、そのことに関してはシャドーレは何も伝えていなかったらしい。

「ジェイ様ご自身がマヤリィ様の婚約者だと名乗って下さったのなら、それ以上聞かれることもないでしょう。マヤリィ様に関しては、私の命の恩人であり、素晴らしい魔術師であり、私よりも身分の高い御方だと伝えてあります」

「うん。それはミノリ嬢から聞いたよ。…ところで、彼女が雷系統魔術の適性を持ってるっていうのは本当なの?」

「…ええ。本当ですわ」

シャドーレは真面目な顔で頷く。同時に『サイレント』が発動された。

「正式にミノリを雇うことになった際にアルバ家と約束しましたの。もしもミノリに黒魔術の適性があれば私自ら教授し、立派な黒魔術師に育てると。…しかし、私は最初からミノリが黒魔術の適性を持っていないことに気付いていましたわ」

「つまり、ミノリ嬢の実家には彼女の魔術適性を教えてないってこと?」

「はい。私がこの別宅を与えられた時、叔母様はメイドの手配もして下さいました。気に入らなければ別の者を連れてくると言って、とりあえず寄越されたのがミノリ・アルバです。私は初めて彼女に会った時、桜色の都の者にしては珍しい雷系統魔術の適性を持っていることに気付きました。…この意味が分かりますわよね、ジェイ様?」

「ああ。ルーリと同じ魔力の持ち主だ」

昨日は下心があるとかないとか言っていたが、シャドーレがミノリを雇った本当の理由は、彼女がルーリと同じ雷系統魔術の適性を持つ人間だからだった。

「ミノリは昔から私のことを知っていたらしく、自分にも黒魔術の適性があることを願っていました。ですが、私はそれを分かっていながら、彼女に言われるまで魔術適性を調べることをしませんでした。ミノリがこの邸に落ち着いて、自分の適性の結果が何であれメイドを続けたいと言った後で、私は形だけの『鑑定』を行い、彼女に事実を告げたのですわ」

そう言ってため息をつくシャドーレ。

「ミノリをここに縛っているのは私です。全ては流転の國を取り戻す為。ルーリに対抗出来る同じ魔力を持つ人間を逃すわけには参りませんわ。…勿論、ミノリが私に憧れていることは知っていますのよ?その上で『クロス』の特別顧問を務めることになった私を支えてくれるよう頼み、絶対に彼女がここを離れられない状況を作り出したのです」

「シャドーレ…」

「今の私達の生活が成り立っているのはミノリのお陰と言っても過言ではありません。けれど、私は給料の一部を困窮しているアルバ家に送るだけで、実質ミノリには何も報いていません。それどころか、彼女を利用しているのですわ」

シャドーレは国王直々に認められた『クロス』の特別顧問というだけあって、その月給は王宮に務める貴族と比べても遜色ない額だという。むしろ多いかも。

「彼女には本当に申し訳ないと思っています。…ジェイ様、私に失望されましたか?」

「いや…失望なんてしないよ。君にそこまでさせているのは僕達だし、流転の國を取り戻す為なら致し方ないことだと思う」

と言いつつ、ジェイはミノリ嬢を可哀想に思ったが、シャドーレの言う通り雷系統魔術の適性を持つ者は希少だ。なんとかして彼女の力を引き出せば、ルーリに対抗出来ると考えるのも当然である。

「だけど…相手はあのルーリだよ…?姫が最高権力者だった頃から『流転の國の切り札』と呼ばれていたのに、今はさらに『宙色の魔力』が上乗せされている。同じ適性を持つミノリ嬢をどう鍛えたところで敵う相手じゃない気がするけど…」

「それも分かっておりますわ、ジェイ様」

シャドーレはそう言うと、鬼気迫る表情で話し出した。

「どうか聞いて下さいませ。私に考えがございますの。…まず、ミノリに魔力の扱い方を教えます。魔術具でも何でも使って、とにかく雷系統魔術を発動出来るところまで訓練させるのですわ。指導は私が直接行います。レイヴンズクロフト家には書庫も魔術訓練室もございますゆえ、魔術習得の場所には事欠かないでしょう。…そして、彼女の魔力が安定し、雷系統魔術の使役に慣れてきたところで私は禁術を使います。その禁術とは…」

「待って、シャドーレ。そんなこと……」

ジェイはその禁術の名を聞きたくなかった。

だが、シャドーレは冷静な声で言った。

「いいえ、他に方法はありませんの。最終的に私は『能力強奪』魔術を使ってミノリの『雷系統魔術』を我が物とし、最高権力者ルーリに対抗する為の材料として使わせて頂くつもりですわ…」

『能力強奪』。それは文字通り、相手の持つ能力を奪う魔術である。

かつてマヤリィは流転の國を脅かした者達にその禁術をかけて『予言』や『変化』といった特殊能力を取り上げたことがあるが、魔術適性さえも『能力強奪』の対象になるのだ。

「ミノリ嬢から全てを取り上げると言うのか…?」

「ええ。彼女よりも遥かに魔力値の高い私ならば、必ず成功します」

禁術は簡単に発動出来るものでもないし、ましてや自分よりも強い魔力を持つ者に対しては効かない。それでも、シャドーレは禁術の成功を確信している。

「だけど…そんなの、ひどすぎるよ…!」

ジェイは思わず叫んでしまうが、シャドーレは哀しそうな横顔を見せるだけだった。


『能力強奪』魔術をかけられた者は永遠にその力を失うことになるのだ。

マヤリィが流転の國の最高権力者だった頃、ルーリとシャドーレは本気で模擬戦をしたことがあります。

雷系統魔術の天才ルーリと最上位黒魔術師シャドーレの一騎打ち。その結果、僅かな差でルーリが勝利しました。


今のルーリは元々持っている魔力に加えて『宙色の魔力』を自在に操ることが出来るようになっています。

黒魔術だけでは心許ないシャドーレは、ミノリ嬢を騙すような手を使ってでもルーリと同じ魔術適性を得て、閃光の大魔術師に対抗しようと考えているのでした。

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