第六十八話 幻
今となっては全てが幻のよう…。
けれど、あの日々は確かに実在した。
その後、玉座の間を退出したマヤリィはジェイからの報告を聞く為に自分の部屋に『転移』した。
マヤリィが皆の記憶に干渉したことを知るのは彼ひとりである。
「…結局、全て水晶球のせいにしてしまったけれど、それも間違いではないわよね?だって、水晶球が私から『宙色の耳飾り』を剥奪して、皆を混乱させ、苦しめていたことには変わりないもの」
ジェイと二人きりになったマヤリィは、今更ながら皆の記憶を『操作』したことを気にしているのか、自分に言い聞かせるように言った。
「はい。皆に罪悪感や後悔を抱かせたまま元の流転の國に戻るのは、姫にとっても彼等にとってもつらいはずです。…それこそ、ルーリのように死にたがる者が続出しますよ」
ジェイは精一杯フォローする。
「水晶球が貴女から『宙色の耳飾り』を取り上げ、皆の記憶を封印し、ルーリを女王に仕立て上げたのは事実なのですから」
そう言うと、ジェイは街外れのホテルから持って帰ってきた荷物をアイテムボックスから出す。
「一連の出来事は悪い夢だったと思いたいですが…思い出してみれば良いこともありましたね」
ジェイにトランクを手渡され、その中身を見たマヤリィは言葉を失った。フランシスから贈られたドレスやハイヒールが入っているのだ。
「…僕が貴女にして差し上げられなかったことをフランシスはしてくれた。ゆきずりの関係でも、彼と出会えてよかったと思います」
そう言ってジェイは微笑む。
『幻影』魔術を使っていた為、姿こそ違ったが、それでもこのドレスを着てステージに立ったのはマヤリィだ。
「貴女の芸名であるミラーは鏡のことかと思っていましたが、違うんですね」
ドレスを抱きしめたまま話せないマヤリィに、ジェイは言う。
「貴女の適性は幻系統魔術。…つまり、貴女は幻のミラー。今となっては本当に幻になってしまいましたが、僕も貴女のラストステージが見たかったです」
遠い目をしつつ、ジェイはなおも黙り込むマヤリィに優しく微笑みかけるのだった。




