表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
26/26

6食目 きのこ畑で捕まえて

 実技授業の会場は、学園の敷地から馬車で1時間程の小さな山だ。


 周りにぐるっと脱走防止の結界を施された森の中には、魔法ビギナーの1年生達でも戦える範囲のレベルが低い魔物達を定期的に解き放っている。

 その魔物達は魔法局と言う組織が品種改良で弱くしたもので……つまり。



「食べられるんですか?」


「うん、まぁ……そうなるね…………」



 詰め寄るアンジェリカにそう答えつつも、シュトラールは己の発言に後悔していた。



(魔物が食用可能であることは、せめて実技授業が終わるまでは伏せておこうと思っていたのに……!)



 いざ迎えた当日。

 既に兄姉が同じ授業を受けた事があるクラスメイト達による噂話で今日狩る魔物≒家畜だと聞きつけたアンジェリカが、大喜びで腕に抱きついてきたので頭が真っ白になってしまったのだ。

 期待と希望に満ちあふれたキラキラ笑顔に負け、上記の内容を洗いざらい説明してしまった次第である。



「た・だ・し。授業用魔物も非常に種類が多い上、毎年放たれる魔物は種類も特性も変えてあると聞く。

決して油断せず、気を引き締めて挑まないといけないよ」


「はーいっ!」


(いや、子どもか?あのドギツい嫌味炸裂で実技授業も取り巻きを顎で使ってた悪役令嬢どこ行ったのよ)



 それにしても、この食い意地に忠実で話を聞いているようで聞いていない感じがリリアナに懐かしい少女を思い返させる。

 だが、入学式の日に食堂前で激昂していたアンジェリカの般若顔を思い出しすぐに頭を振った。



(まさかね、ないない)



 あの日、前世を終えたのはきっと私だけであの子は生きている。

 リリアナはずっと、そう言い聞かせて生きてきた。


 だから、彼女は"陽菜"を探さない。



「リリアナさんも、一緒に収穫頑張りましょう!」


「"討伐"ね。間違ってもその場で食べないでくださいよ」


「……僕らの班は、先生方の計らいで一番最後になったよ」



 実力だけで見ればトップバッターでも可笑しくないメンバーだ。

 しかし、一番目の班に魔物を狩り尽くされてはほかの班が授業にならなくなってしまう為に急遽トリにされた3人であった。















ーーーーーーーーーーーーーー


「山です!」


「そうだね、山だね……」


「ちょっ!お二人とも初っ端から大きな声出さないでくださいよ!」



 いよいよ本番。

 スタート位置に魔法でランダムに飛ばされたかと思えば草むらから飛び出しかけたアンジェリカを、リリアナが上着を引っ掴んで阻止した。



(いや、手慣れすぎていないかい?出遅れてしまったよ)



 あまりに無駄なくスムーズに捕まえ、引き寄せ、座らせたその手際に無意識に拍手をしていた程だ。

 アンジェリカも一瞬きょとんとしたものの、『たしかに騒いだら食材逃げちゃうもんねぇ』とほわほわしている。



「良いですか?弱めとは言え魔物は魔物。

油断は大敵!はい、復唱!」


「は〜い、魔物は……」



 リリアナの圧に釣られたアンジェリカが素直に口を開いたタイミングで、二人の背後が僅かに揺れた。

 真っ先に気がついたシュトラールが女性陣の前に立った、その時だ。



 ユサユサと動いていた草むらから、それがひょっこりと《《生えた》》のは。



「「…………え?」」



 ずんぐりむっくりのまぁるくこげ茶色の傘。

 丸っこくて太めな軸は、下の方が少しカーブしていて狸の尾のような形をしている。


 そう、それはまさに。

 ただでっかいしいたけにちゃっちぃ手足をつけただけの謎生き物であった。



「魔物は……っきのこ!!」



 復唱しようとしていた注意喚起はどこへやら。


 唖然として戦いも忘れたシュトラールとリリアナを他所に、ただ一人アンジェリカだけが爛々と瞳を輝かせる。



 そんな狩人が居るとも知らず、しいたけの背後から同じくでっかいエリンギと舞茸、しめじがコンニチワと顔を出した。



「これは豊作の予感です!」 


「いや包丁どっから出した!?魔物退治なのよ、使うなら刃物は剣でしょ剣!

世界観守んなさい悪役令嬢!!」


「悪役……え、はっ?

あっ、待つんだアンジュ!君はまだひとりで魔物と対峙した事が無いだろう!」



 警笛のような耳障りな音波を放ちながら、きのこ軍団が一斉にアンジェリカ目掛けてジャンプする。


 二刀流で構えた出刃包丁が光を反射し、聖剣さながらに火を噴いた。



 シュパパパパパパンッ……



 お料理番組さながらの軽快な包丁捌きに刻まれた、きのこ風味の魔物達。


 哀れ、今朝生み出されたばかりのきのこ魔物達は。

 なにゆえ自分達がこんな目に合うのかも知らぬまま、大喜びのアンジェリカによって大鍋にぶち込まれて豚汁の具へと進化したのだった。



 そして、アンジェリカが大豊作を目指した結果、班の実技成績はトップとなったのはまた別の話。



「はーい、皆さん実技試験お疲れ様です!

栄養満点きのこたっぷり!

熱々の豚汁だよ〜〜」



 くつくつと揺れる鍋とかぐわしい香りに疲労していた生徒たちは群がり、教師は苦笑して。

 シュトラールは『次からはこう言った際には来る前にアンジェリカの手荷物検査をしよう』と固く誓う中。


 リリアナだけが豚汁を啜りながら、鍋をかき混ぜるアンジェリカの姿を真っ直ぐに見つめていた。



    〜6食目 きのこ畑で捕まえて〜


   『切って、煮込んで、召し上がれ』






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ