第三百十三話 Side探索者取締 七年 南雲抹殺作戦回顧録
Side探索者取締
今から13年前だ。もうそんなに経つのかと自分でも驚く。世間にダンジョンというものが現れた。それは漫画やアニメさながらの世界で、その中にはゴブリンがはびこっていて、なんでも棍棒を振り回して本気で人を殺しに来るらしい。
今ならみんなそれを当然と受け止めている。人が空を飛んだって、新幹線より速く走ったって、魔法を唱えたって誰も驚かない。でも13年前は違う。ダンジョンが現れてからも、半年ぐらいはなんの冗談だって思ってた。
俺だってその一人だ。警察官で交番勤務。その日は街の見回りをしていた。【千年郷】で探索者取締なんて立場を任された俺だが、当時はただの交番勤務のお巡りに過ぎなかったんだ。
それでも東京という都会で、見回りをするのはなかなか大変だ。酔っ払いへの対処や暴力沙汰から犯罪に発展する事件。麻薬所持をしているアホども。そういったものの対処をするのは命がけだと思ってた。ただ俺はその日が初めてだった。
探索者というものの異質さを。
「君。それは何を持ってるんだ?」
見回りで声をかけたのは本当に可愛い少年だった。あまりにも可愛すぎて少し垂れ目の瞳でこっちを見られると、相手が男なのに胸がドキドキしたぐらいだ。いや、胸は膨らんでないが女か? そう思えるほど可愛かった。
アニメプリントのTシャツが妙に浮いてる。今流行りのアニメオタクか?
「あん、なんだー?」
可愛い顔から想像もできないほど乱暴な声が漏れる。なぜかこんな可愛い顔の少年に俺はこの時確かに一歩下がった。今ならその理由がわかる。生物としての本能が恐怖に下がらせたのだ。
「いや、だから、その腰に差してるものはなんなんだ?」
この時、南雲友禅が出会っていたことを覚えているのは俺の方だけだ。そしてこの少年が自衛隊どころかアメリカ軍まで巻き込んだ。探索者と軍隊の争いの中心地となる。でも俺はもちろんこの時そんなこと思ってもなかった。
「おっさん、これが何かなんて何の関係があるんだ?」
まただ。どうしてだ? こんな可愛い顔した男の子に睨まれてるだけなのに怖い……。
「お、おっさん? 君。私は一応警察官なんだ。正直その口を利き方はどうかと思うよ」
「別にいいだろ。警官だからって丁寧語喋らなきゃいけない法律でもあるのかよ」
「いや、法律とかそういう問題じゃなくて、常識としてって。ああ、もう、それはいい。最近ダンジョンというものに、刀を持って入ろうとする人間がいるという報告も受けているんだ。それを見せてほしいだけなんだ。見せれば返すから」
場所は池袋駅の近くで人目も多かった。こんなことで言い合いをしてて動画でも撮られたらたまったものではない。見た目がとにかく可愛い男の子で、それを相手に警官が職務質問してる姿はあまり良いこととと思われないはずだ。
でも、悪いのは彼だ。柄頭にドクロがついた刀としか思えないものを腰に差している。今流行りのコスプレかもしれない。だとしても刀がリアル過ぎる。刀の形からして本物にしか見えないし、奇妙なほど雰囲気があった。
仮にコスプレで中身が模造刀だったら、お咎めなしで終わればいい。
「それは刀じゃないのかい? ちょっと見せてみなさい」
「やだよ。俺がダンジョンの中で手に入れたんだ。なんで見せるんだよ」
今から考えると、少年はせっかく手に入れた大事なアイテムを警察に没収されるのが嫌だったんだ。何しろ危険物であることは本人が一番よくわかってる。渡せば間違いなく没収され銃刀法違反で連行される。
おそらくストーン級の専用装備だったと思う。しかも武器となれば、没収されたら探索者として終わりである。今なら探索者から専用装備を没収するなど、その場で殺し合いになってもおかしくないと子供でも知ってる。
でも俺はどれだけ自分が危険なことをしているのかよくわかってなかった。
「渡せと言ってるわけじゃない。それが本物の刀じゃなければ、ちゃんと返す」
「本物の刀だったら? というかおっさんダンジョンのことわかってるか?」
「ダンジョンって最近現れた妙な洞窟かい? それがどうしたって言うんだ。というより本物?」
「そうだよ。これ、本物の刀」
その時、少年もどうすればいいかわからなくなってたんだ。取り上げられたら終わりだ。でも隠しきれないのも分かってる。混乱して少年は軽い気持ちだったのだと思う。年齢は見たところ中学生ぐらいに見えた。
スラリと抜かれた刀。吸い込まれそうなほど美しい刀身。俺はごくりと息を飲んだ。はっきりわかる。日本の刀は美術品としての価値も高く、俺も結構好きで美術館に業物を見に行ったことがある。
「【髑髏丸】って言うんだ。悪いけど見逃せよおっさん。どうしても没収とかいうなら抵抗するぞ」
だがそれのどれとも違う。明らかに怪しい妖気が漂い、本当に何かを斬るためだけにある代物だと一目で分かる。
どうする?
相手は刀を所持しているが、こんな街中で拳銃を抜いたら正当防衛でも、後で厳重注意だ。でもだからといって、こんなもの持ち歩いてるのを「はい。そうですか」と認めたらそれも問題だ。
「じゃあ見せたしいいよな。行くぞ」
少年は刀を鞘に納めようとして、俺は迷いながらもホルスターから拳銃を抜いた。周囲がざわめきだす。当たり前のようにスマホを構えて撮られた。こんなところでこんなことをしてしまった自分に焦った。
「はあ? 何してるんだよおっさん? 危ないだろうが!」
「い、いいから、それを地面に置いて、ゆっくりと後ろに下がりなさい」
「嫌だって言ったよな?」
「嫌だじゃない! そんな危なそうなもの没収するに決まってるだろ!」
俺は心底、怖くて叫んでいた。何なのだこの子。こんな華奢な見た目なのに俺より強い。生物として強い。拳銃を持つ手が震えた。
「だから嫌だってば。やっとガチャからマシなもん出てきたんだぞ。俺はお婆ちゃん達よりガチャ運悪いんだよ。なかなかいいもの出てこないのに、どうして手放さなきゃいけないんだよ」
「銃刀法違反を知らんのか!」
「そりゃ知ってるけどさ。人に向かって使わなきゃいいんだろ。それぐらい分かってるって」
「う、うるさい!」
今から考えたらもう少し冷静になってればよかったと思う。俺はこの瞬間引き金を引いてしまった。ただただ相手が怖かったのだ。その手に持ってる刀が振るわれた瞬間に俺は死ぬと思ったから引いてしまったんだ。
弾丸は胸の部分を貫くはずだった。しかし、耳障りな金属音が聞こえた。少年の刀が一瞬ぶれたように見えた。俺ではその速度についていけずに視認することができなかった。でも弾丸を刀で弾いてしまったのだ。
同時に周りで見ていた野次馬が痛がって倒れた。
「いってー! 当たった!」
銃弾が一般人に当たってしまった。腕を抑えていて血がにじみ出てくる。警察官を首どころか、捕まったりするんじゃ。それはなくても出世の道は断たれた。今こんな上の立場にいる俺が、こんなことを思ってパニックになってしまった。
「て、抵抗するな!」
「拳銃を撃たれたらさすがに怪我する"かも"しれないから抵抗するぞ。それともおっさん、なんか俺のこと可愛いからって舐めてない?」
相手の目が半眼になる。こっちは拳銃を向けられているのに怯えた様子がない。それどころかこちらに歩いてくる。俺はそれが怖くて一歩下がってしまう。
「とにかくそれを渡しなさい!」
また銃弾を放ってしまう。少年の腕が再び消えた。火花がちり、次は誰にも当たった様子はなかったが、野次馬が自分たちが怪我をすることになるかもしれないと逃げ出した。拳銃が意味をなさない。
手が震える。目の前にいるのはトラかライオンだとでもいうように、日本の警察のピストル程度じゃどうにもならない。再び銃弾を放ちそうになり、そして、
「危ないだろうが」
少年が舌打ちをするとその姿が一瞬消えた。気づけば目の前にいて、
「あと俺に命令するな」
思いっきり腹を蹴飛ばされた。こいつ警察官を蹴ってしまった。凄まじい力で体が地面から浮き上がり吹き飛ばされ、地面をバウンドして転がる。腹が痛い。この時肋骨を3本折り、拳銃を持っていた腕まで折れていた。
「ちょ、おい、これ本当にやばくない!?」
「警察! 既にいるけどもっと多く! 早く呼べ!」
「何だこいつ? 警官殴るとかアホか?」
「アホじゃない。でも、こういう時どうしていいかわからん。今更逃げても顔バレしてるよな。そうだ。応援に来た警官全員ぶっ飛ばしたらどうにかならんかな?」
そうなんだ。南雲友禅は昔っから"殴ればどうにかなる"と思ってる男だった。周りの野次馬が電話しているのが聞こえた。何を考えて街中で刀を持ち歩いていたのか知らないが、この子の人生は終わりだ。
警察に捕まって少年院に入る。出てきた時にはもうまともな人間は相手にしてくれない。体の痛みと共にざまぁみろと思った。だがそうはならなかった。少年は警察が何人応援に来ても本当に殴り飛ばしてしまった。
最終的に少年の保護者だという老婆が出てきて、間を取り持ってくれるまで、警察官36人が重軽傷を負うという前代未聞の事件が勃発した。
そしてそれほどの大事件でありながら、少年が捕まったという知らせはなく後に老婆と警察の交渉により、少年は正当防衛をしただけ、そして警察官は真面目に職務を全うしただけ、近代国家にあるまじき喧嘩両成敗で事は収まった。
それぐらい警察は新たに現れた探索者というものの対応に、困り果て、混乱していた。
「——ううん。南雲友禅ですか……」
それからどれぐらい経った時だろう。最初にその写真を見せられた時冗談だろと言いたくなった。自衛隊に緊急で設置されたダンジョン対策部隊。本来ならこんな短期間に自衛隊が自国の人間に武力行使する。
そんなことが容認されるような機関が、たとえどんな状況下でも創設されるわけがなかった。しかし非常事態だった。ゴブリンやスライム。ゾンビといったものが出てくることが確認されているダンジョン。
そしてそれを殺せばレベルが上がる。閉鎖することに失敗した日本が、皮肉にもダンジョンの中の状況を一番早く入手して、そしてその恐ろしさを理解していた。それは従来考えられていた常識の範囲に収まるものではなかった。
人は力が強くなったからと言って警察に逆らったり軍隊に逆らったりするものじゃない。なぜなら公権力に逆らったところで勝てるわけがないから。しかし、それがダンジョンが人に与えたたった一つの条件によって、状況を変えた。
誰かに命令されてダンジョンに入ることができない。ダンジョンに入るのはあくまでも自由意志でなければならない。この条件によって警察や軍隊が一切ダンジョンの恩恵を受けることができなくなった。
レベルアップするのも、未知のアイテムを手に入れるのも、全て国家権力に支配されない個人の自由。そしてその個人の自由は、今止めないと、もはや誰にも止められないシンギュラリティポイントに到達しようとしていた。
ダンジョンなんておっかないものすぐに閉鎖して、国の管理下に置きたい。法治国家なら当然の考えを実行しようと、日本がおっとり刀で他国よりかなり遅れて動き出した。そして失敗したのはその当日だった。
どのダンジョンも閉鎖しようとしたら探索者の抵抗にあったのだ。外国だとそれを軍隊が無理やりねじ伏せたそうだ。
しかしこの国の警察や自衛隊はそういうことができない体質だった。
「君も知っての通り。日本は完全にダンジョン封鎖に失敗した」
月日が経過してそれが他国にまで文句を言われる大問題になった。俺はあの時、南雲友禅に軽く蹴り飛ばされただけで死にかけた。そのまま入院。退院してすぐに自分もダンジョンに入りたくなって警察を辞めた。
そして数ヶ月ほどダンジョンに入ってとある事情で嫌になり、ダンジョンに入るのをやめた。その頃にはレベル58になっていて、俺は結構優秀な探索者だった。それをどこからか聞きつけた自衛隊にスカウトされた。
『月に300万出すから、自衛隊に新しく創設される部隊の隊長をしてくれませんか。少佐の立場もご用意してます』
というのだ。怪しい気もしたが、ダンジョンに入るための装備を手に入れるのに、貯金を使い果たしていた。金額につられ俺は2つ返事でOKした。
そして今、新しく陸自の幕僚長になったという自衛隊のお偉いさんの前に俺は呼び出されていた。
「まあそうですね。探索者を封じ込めようと思うなら、日本は初動が完璧に間違ってますよ」
今日まで自分よりはるかに運動能力で劣る相手に、自衛隊員としての訓練は受けた。探索者になると知能が上がる。教えてもらうことは簡単に吸収して、運動能力が高いこともあり、信じられないレベルで実行する。
そんな俺の成功例に気を良くした自衛隊は、他にも探索者であぶれたものがいれば、スカウトしてほしいと俺にお願いした。毎日スカウトをして、簡単に終わる訓練をこなし、横浜基地に顔を出せば、お給料をくれる。
最初は簡単なお仕事で、スカウトは結構順調で、俺のレベル58を筆頭に、レベル20以上でお給料は毎月200万。この条件で10人ほどが集まった。レベル10以上だとお給料は毎月150万。この条件では50人が集まった。
レベル3以上でお給料は毎月100万。これには100人ほどが集まっていた。そして探索者のやつらが、162人、訓練以外の役目を与えられるわけでもなく、横浜基地で毎日暇にしていた。
「その初動の失敗を取り戻すことになった」
そんな暇をぶち壊す話を持ってきたのが、自衛隊のお偉いさん。白髪のいかついおっさんだった。この時俺もこのおっさんも、自分たちが話す内容がこれからどんな事態を引き起こすか分かってなかった。
「どういう意味ですか?」
自衛隊が国内の人間に向かって使える武器はない。初動の失敗を取り戻すなら相当な武器が必要になるが、どこだかのよくわからん人権派がそういう武器を使うと怒る。結果ダンジョンは開きっぱなしである。
その結果、あの治安のいいことで有名だった日本はどこへ。今や力が支配する修羅の国。間抜けな日本は世界の笑いもの。この状態をどうにかするのはもはや現実的なことではなくなっていた。
「君が隊長となっている探索者部隊のことがアメリカにバレた」
「それが何か問題でも?」
国際感覚というものがこの時の俺にはなかった。
「この間の訓練で君一人で戦車部隊を壊滅させたね」
「ああ、まあ、あれはちょっと苦労しました。俺程度のレベルだと戦車の砲弾に当たると死んじゃいますからね。考えていたほど楽勝じゃありませんでしたよ」
「それが結構な問題でね。君はあくまでダンジョンのトップ組じゃないんだね?」
「ええ、まあ。でも誰でも戦車の砲弾は死ぬんじゃないかな」
俺自身が探索者のことをあなどっていた。所詮たかが個人の暴力。そんなことに命をかけるのはばかばかしくなって探索者をやめたのもある。強いだけの俺に300万"も"くれるなんてラッキーとすら思ってた。
それに今の最新式の戦車の砲弾は徹甲弾なら、遠距離からでも50cmの装甲ですら貫くのだ。そんなものに耐えられる人間が存在するわけがなかった。だからそのうち日本でも探索者が威張れる時代は終わると思っていた。
「それでも君は10式の戦車部隊を壊滅させた」
「まあ案外錫杖で叩き潰せたんですよね。ちょっと自分でも驚きましたよ」
「それが諸外国は気に入らないらしい。まあ我々も君がいくらでもやってくれるものだから、調子に乗りすぎたと反省している。米軍との交流の際に前任の幕僚長が、どうもそのことを漏らしてしまったみたいでね。気になったやっこさんはこちらのことを調べた。そしたらどうも本当だって分かったみたいで今アメリカはその件で蜂の巣をつついたみたいな大騒ぎになってるそうだ」
「何してるんですか」
心底呆れたのを覚えてる。陸自の幕僚長のくせにアホか。前任の幕僚長も現実感がない話につい口が軽くなったのか。それにしても人間1人が戦車部隊を殲滅したのだ。小隊だったので4両編成だが、それを一人の探索者がやってしまった。
日本には俺以上のレベルのやつが多分10人以上いる。よほど米軍がお花畑の人間じゃない限り、大問題になるに決まっていた。しかもダンジョンの面倒なところは、有用性に気づき、極秘に1箇所だけ開ける。
それができないのだ。国単位で規制を行えば誰も入れない。そして解除するには国単位で解除するしかない。そんなことアメリカにはできない。だから焦るに決まってる。ちょっと考えたらわからなかったのか。
「幕僚長は自主的に退職処分となった。だが、アメリカは必死になって今、世界中のダンジョンを閉鎖する圧力をかけている。それに中国やヨーロッパも大賛成だ。まあどの国もお国柄上、ダンジョンなんぞ開け放したら、うちどころの治安崩壊じゃ済まないからな」
「無理ですよ。池袋の一番トップはもうレベル80を超えたって話だ。特におっかないのが南雲友禅だ。あの坊ちゃんを舐めたら悲惨な目に遭いますよ。俺も骨をボキボキにおられましたからね。無理やり閉じるなんて言ったらあいつに殺されます」
「それでも閉じろと死ぬほどうるさい。閉じないならどうなるか分かってるだろうなって、もはや政権が飛ぶどころの話では終わらん」
「そんなこと言われてもどうしようもない。ダンジョン閉じちゃった国は分かってないねー」
「最初に危険だからってとりあえず閉じて、そのまま開かないままだからな。ともかく世界中から閉じろ閉じろとシュプレヒコールだ。正直、どうにもならん。やっこさん軍艦を向けてきてる。断れば本気で戦争する気だ」
「いやいやそれは嘘でしょ。アメリカは同盟国じゃ……」
「日本がアメリカよりも上の軍事力を持つかもしれない。そう気づかれてしまった。そういうことだよ」
この時の俺は言われてその可能性を初めて実感した。なんとなくわかってたけどまさかなと思ってた。そうだ。このままダンジョンを開き続けてレベルの高い探索者が増え続ければ、日本はどこかの時点でアメリカの軍事力を超える。
それはつまり世界の軍事力を超えることになる。
「どうするんです?」
「アメリカの言うことにも一理ある。探索者がこのまま力を持ち、南雲友禅のような暴力的な探索者が増えれば、治安は崩壊する。ダンジョンは閉じるしかない。それは世界の共通認識でね。日本の上層部もほとんどはそう考えてる」
「だからどうやって?」
「本当にどうしようもなくなる前に、レベル10以上のものを異生物と呼称し、体制に反抗的な異生物は全て排除することに決定した。体制に従順な異生物も全て国の管理下に置かれる。悪いが君も含めて世界の治安のためと思い我慢してもらいたい。そしてその実行にあたり、米軍が全面協力を申し出てきている。日本政府はそれを受け入れることと決定した」
「それはまた日本にしては随分と判断が早い」
ひょっとして俺も排除リストに入ってるんじゃないかと額に汗が流れた。笑えることにこの時の俺はついに軍隊が本気で動き出したんだとビビっていた。
「当然だ。むしろ遅いぐらいだ。彼らは日々強く化け物になっていく。シンギュラリティポイントはレベル100と言われており、第1ゲート以外が解放されていない時点にも関わらず、レベル80を超えたものがいることから、それ以上があるのも確実視されている。これ以上、遅くなればレベル100を超えられてしまう。米軍はそうなればアメリカの軍事力ですら、異生物を排除するのに苦労すると判断しているようだ。君も協力してもらえるね?」
「ま、まあ俺も日本が荒れ果てることが望みじゃありませんしね」
探索者については詳しいつもりだった。少なくとも目の前にいる人間よりも詳しいつもりだった。だが今から考えるとどれほど甘かったのか。こんな奴らほっといてこの時逃げるべきだった。おかげで俺は地獄の蓋を開けることになる。
「我々は今回に限り緊急事態を宣言し、憲法を無視する。あらゆる武器弾薬を使い。兵器も惜しみなく投入する。すでにM1エイブラムス30両、F35ライトニング30機、AH-64Dアパッチ30機。これらが地上部隊と共に異生物抹殺に当たる。同時にイージス艦30隻による海上封鎖、空母も3隻待機しているらしい」
「それって……」
「米軍は異生物を誰一人日本から出さない構えだ。そしてもしこの申し出を日本が断ってたら開戦してただろうな。どうも1ヶ月前からかなり動いてたらしい。日本はもうやるしかない。そしてレベルの上がりすぎた異生物を全て抹殺する。第1目標が南雲友禅。まずこの男を排除する。今回君の協力は重要だ。君が体制に協力的だと示すことで、他の異生物の自由にもつながる。奮闘したまえ」
「また責任重大なこと……」
俺はこの時から嫌な予感がしていた。あの時の南雲友禅のレベルは多分10ぐらいだったと思う。それでもあの男は銃弾を刀ではじき返した。その8倍以上強いのだとしたら、そんな動き人にとらえられるのだろうか。
不安が湧き上がってきて思いとどまる方法はないかと口にしようとして、お偉いさんが誰かに電話をかけて呼んだ。待ち構えていたように扉が開く。
「紹介しよう。米軍ダンジョン特殊作戦軍所属、アーネスト・マーシャル・クレメンズ少将だ」
かなり体のごつい男が入ってきた。俺はこの人から比べるとヒョロガリの体を立ち上がらせた。アーネストが鼻で笑ったのがわかる。それだけでわかった。こいつらは探索者の怖さを知らないんだ。
いや、知るわけがなかった。戦車の砲弾で貫くことができない生物が存在する。そんなこと俺でも想像してなかったのだから。





