90 リアーナのお茶会3
「いいからアレをなんとかしろ!」
「無茶言わないで下さい!一度は目覚めなければ気絶させられないに決まっているでしょう!」
ゴドウィンとエミリオのくぐもったような言い争う声が聞こえる。
目を開けるとまわりを土壁に囲まれ様子は窺えない。ドンドンと壁を叩くと一部が開きエミリオが顔を見せた。
「姫様、良かった。目が覚めたのですね」
ホッとした顔で見上げるエミリオの後ろにゴドウィンが吹き飛んでいくのが見えた。
そうだ、オロギラスがいたんだった!
エミリオの制止も聞かず魔術で作られた囲いから出るとゴドウィンがオロギラス向かって斬り込むのが見えた。
早く捕まえなきゃ危ない!
私は走り込んで例のごとくオロギラスに飛びつき地面に押さえつけた。勿論、首元を掴み毒には気をつけた。
私の事を睨みつけながらゴドウィンがオロギラスに剣を突き立てる。
「全く!こっちの身にもなってくださいよ。誰かに見られたらどうするつもりですか!!」
ゴドウィンが突き刺したところからオロギラスの胴体を横に切り裂き暴れる奴の首元をざっくりと深く刺す。ゴリッと骨を断つ音が聞こえオロギラスはぐったりとし動かなくなった。
ふぅ〜、手慣れたもんだ。双頭の蛇を倒したあとじゃこんなのちょろいね。
私は上機嫌で起き上がりゴドウィンとエミリオをニンマリと見下した。
「得意気な感じがムカつく」
「姫様になんて言い草ですか」
ゴドウィンの愚痴をエミリオが窘めている。私の機嫌がわかるなんてゴドウィンも空気が読めるようになったじゃないと思っていたら庭園の方から何人もの人が走って近づいてくる音が聞こえてきた。
誰か来た!!
「マズイ!エミリオ頼む、俺はあの倉庫へコイツを連れて行く!」
辺りをよく見るとそこは騎士コースの倉庫の直ぐ側で三棟あった建物のうち二棟は完全に崩壊していたが一棟だけは無事だった。
「ほら、猿の姿が見られて恥ずかしい思いをするのは貴方ですよ」
さっきはコイツ扱いしたくせに急に貴方とか言われて腹が立つが恥ずかしいのは嫌だな。
ゴドウィンは地面にビリビリに破れてしまった私が着ていたドレスの残骸を拾い集めた。こんなの落ちてちゃマズイ。
ゴドウィンについて残った倉庫へ入っていった。駆けつけた人からは見えない方に扉がついており静かに扉をしめると、ギリギリ姿は見られる事は無かったようだ。
「静かにしてくださいよ」
倉庫の奥に座りじっとしているとゴドウィンが私によじ登って頭の上まで行き天窓から外の様子を窺っている。いくら大きな倉庫とはいえ扉を開けられてしまえば私の姿は見られてしまう。
「クソ……殴ろうとして逃げられたら元も子もないしな」
舌打ちしながら私を恨めしそうに見下ろす。
痛いことするってわかってて逃げない人なんていると思うの?
馬鹿なやつだと思いながらゴドウィンを睨み返した。
聞き耳を立てていると外の話し声が聞こえてくる。
「オロギラスがどうして学院の中にまで入り込んだのだ」
駆けつけていたのは騎士コースで時々教えてくれることもある現役の王立騎士団の騎士たちのようだ。
オロギラスの死体を見て驚いた様子で、騒ぎが起きた時は休憩時間で皆が食堂にいて駆けつけるのに手間取ったと話している。
「エミリオ様お一人で倒されたのですか!?」
現役の騎士団の騎士とはいえ声の様子から皆まだ年若いようでその響きから尊敬の念がうかがえる。
「違う!俺だよ、俺!」
自分だって一人で倒したわけでもないクセにゴドウィンが苛立たしそうに呟く。
「いいえ、これはゴドウィンと協力して倒したのです。
今はどうしてここにオロギラスが入り込んだのか調べていますから念の為、ここは我々以外立ち入り禁止にしていただけますか?」
ゴドウィンと違って、がめつく無いエミリオがちゃんと訂正した。
「ですが緊急事態が発令されましたのでもうすぐ騎士団が応援に駆けつけます」
「そうですか、ではオロギラスはもう倒しましたので騎士団にすぐにお知らせして、多くの応援は混乱を招きますから必要ないと伝えてください」
「はぁ……畏まりました」
一瞬困惑したような返事をしていたが優秀な魔術師で騎士のエミリオの方が位が上なのでそれに従ったのかガサガサ低木を掻き分け立ち去る音がした。
天窓からその様子を見ていたゴドウィンはそのまま見張り続けているようだが、倉庫の扉が少し開くとエミリオが入ってきた。
「ゴドウィンにしては上出来、姫様を殴ろうとはしなかったようですね」
「当たり前だろう。この状態の時の姫様はいつもより輪をかけて言うことを聞かないんだから」
別にそんなに悪い子じゃないもん。
ムカついた私は頭の上のゴドウィンを払いのけようとした。
「おっと、何するんですか!」
ひょいっとそれを避けてニヤリと笑う。
もう!ムカつく。
腹がたった私はゴドウィンを捕まえてやろうと手を振り下ろした、が、また避けられて自分の頭を叩いてしまった。
「ギャッ!」
結構強目に叩いてしまい痛くて悲鳴をあげた。
「うわっ!何するんですか。そんな勢いで叩かれたら大怪我しますよ」
ゴドウィンがちょっと焦りながら逃げた先は私の肩の上だった。
もうっ、退いてよ!
それも払いのけようとしてまた逃げられる。
「そんな簡単に捕まらないですよ〜」
からかうようにニヤリとする。
「二人共静かになさい!騒ぐと誰かに気づかれますよ」
エミリオが必死に宥めようとしてくるがゴドウィンは一向に捕まらないしイライラしてきた。
倉庫の中で座った体勢であちこち腕を振り回していたが逃げたゴドウィンを追いかけていると、遂にバランスを崩し倉庫の中の積み上げていた木箱にあたってしまいガラガラと崩れ中身が散乱した。
「あっ!姫様危ない!!」
エミリオが驚いて大きな声を出し駆け寄ってくる。ゴドウィンも慌てて近づいて来た。
木箱の中身は訓練用の剣や弓、矢などが入っていた。落ちてきた木箱の直撃は無かったが起き上がろうと床に手をついたときに散乱していた物で手を傷つけてしまった。
「姫様!大丈夫ですか!?」
意外と深く傷つけてしまいダラリと血が流れ出す。ゴドウィンが出血を押さえようと手に触れるが押えきれず血はダラダラと流れている。彼はさっき拾っていた私のドレスの残骸を持ってくると傷に押し付けたが、まだジュワッと血が滲んでくる。
「急いでポーションを取ってきます」
エミリオが倉庫の扉を開くとそこにアーネストがいた。
「リアーナ!?」
外にあるオロギラスの死体を見て、私が変身したのではと焦った上に怪我をしている事に驚いたのか彼が私の名を叫んだ。
「まさかオロギラスに殺られたのか?!」
前にオロギラスの毒にやられ死にかけていたことを思い出したのか、慌ててエミリオを押しのけ私に駆け寄ってくる。
「きゅ〜うぅ〜ん」
痛いよ〜
私もアーネストの顔を久しぶりに見てつい気が弱ってしまう。
皆が私に気を取られちょっと油断してしまっていた。押し退けられたエミリオもアーネストを目で追っていったため気づくのが遅れた。
「殿下はご無事ですか!?」
アーネストの叫びを聞いてただ事じゃないと思ったのか今度はサンドロが倉庫へ飛び込んできた。
「なんだコイツは?……まさかリアーナを!?」
私の手に握られた血まみれのドレスを見てサンドロが叫びを上げながら帯びている剣を抜くと斬り掛かってきた。
「待て!サンドロ!」
ゴドウィンが素早く抜くと私の前に出て、サンドロの攻撃を受け止める。ガキンッっと金属がぶつかる音が聞こえ身体がビクッとする。




