88 リアーナのお茶会1
少し慌ただしくて目を覚ますと天蓋越しにもローラが動き回っているのがわかった。他の人もいるようだ。
「ローラ」
声をかけると素早くシャッと天蓋が開かれローラが少し興奮気味の顔を出す。
「どうしたの?まだ時間はあるでしょう?」
「何をおっしゃいます!今日は姫様の初陣ではないですか!」
言うなりベッドから浴場に連れて行かれ洗われ新調した下着をつけられ、ぎゅうぎゅうコルセットを絞められデイドレスに着替えさせられた。
「うわぁ……凄い」
鏡の前には前回よりも女性らしさを強調した着飾られた私がいる。
母上の侍女のライラがまた来てくれ、今回はちゃんと女の身体なので他の女中の手も借りローラとライラが納得いくまで完璧に仕上げたとばかりに満足そうな顔で笑っている。
「やり遂げました……やはり、大変お美しいです」
ライラがふぅ〜っと息を吐きつつ何度も頷く。
水色と蒼を貴重としたドレスは控えめな華やかさを演出するAラインのドレスで所々にサファイヤの宝石が散りばめられている。アーネストからのプレゼントのイヤリングに合わせたようで同じくサファイヤのネックレスもつけられていた。
「これはアーネスト様がご用意された物です。お茶会につける宝石がいるだろうと仰って」
あさイチに屋敷に送られてきたらしい。
「そう……」
首元の美しいネックレスの大きな石を指で触れ、冷たいつるりとした感触を確かめる。
帰国して以来彼には会っていない。王位継承争いの件も大詰めに差し掛かりあちらも精力的に支持集めを行っているようで、学院にも来ていない。
領主の命令で屋敷には来なくても学院では会う機会があるかもと思っていたので残念だったが、ローラやゴドウィン達にそれを知られないよう気にしていないふりをしていた。心配かけてはいけないからね。
それにいま大いに気になることがある。
「ねぇ、コレ寄せ過ぎじゃない?」
美しいドレスの胸元が寄せて上げて見事な谷間が出現している。ローラは鏡越しに私の姿を確認するとこっくり頷く。
「大丈夫です、これくらいなら下品過ぎず大人感があり魅力的ですから。訳のわからない姫様が男だなんて言い出す輩が現れても胸を見れば黙るでしょう」
ローラの発言に鏡に映る、後ろで片付けをしている女中たちも噂を聞いていたのかうんうん頷いている。
結構広がっていたのかも知れない。馬鹿らしいけど、そんな事も支持率に影響するのならちょっと恥ずかしいが仕方がない。
準備が整い護衛達を部屋へ入れた。今日は流石に三人共連れて行き、ローラも同行する。名簿があるとはいえ顔を知らない学生達の親族が来るのだ、油断は出来ない。
「あぁ、素晴らしいですね姫様」
入ってくるなりエミリオが柔らかく微笑み褒めてくれた。
「フフッ、ありがとう」
相変わらず美しいエミリオを見ていると自信を無くしそうだが今日の私は結構イケてるだろう。
「雰囲気が変わりましたね……王妃様に、似ておられる」
いつもと違いゴドウィンが真剣な目で見てくるのでちょっと驚いた。
「ふぁ……リアーナ……綺麗だ。グハッ!!」
呆けた顔で口をぽかんと開けたサンドロがそう呟きゴドウィンから肘を腹に食らっていた。こっちは今、王女であなたは護衛だからね。
うずくまるサンドロはそのままの状態で今日の警備体制を復習していく。
「姫様はとにかくお一人にならないようにお気をつけ下さい。必ずローラか護衛は離さずに」
エミリオの話に黙って頷く。
「今回はお茶会ということで出来るだけ護衛は目のつかない所に配備されますが一人だけはお側に置けるよう手配してあります。ですがその役目は我々三人だけです」
他の人にはついて行くなって事ね。
学院へ到着するとまだ開始まで時間があるというのに沢山の馬車が玄関付近に停まり順番に並んでいた。
「チッ、サンドロ!優先的に道を開けさせろ」
ゴドウィンが御者台にいたサンドロに指示すると馬車は少しずつ進み玄関前につくとゴドウィンが真っ先に出て安全確保をし私達は素早く建物へ入っていった。
「ちょっと!後から来た馬車が先に案内されるってどういうことよ!!」
後ろでイライラした感じのマクシーネの声が聞こえたが関わっては面倒な事になりそうだと思い振り返らずに廊下を進んだ。良い部下に恵まれていないらしい。
一旦、用意されていた個室へ連れていかれそこで時間まで待機する。
部屋に入り少しホッとした。ここに来るまでの廊下には既に多くの人が行き交っていて落ち着かず不安な気持ちがした。
最近いつもいるリトルシスターズ達もお茶会の最後の確認のためか出迎えてくれなくてちょっと寂しく感じてしまい毒されて来た自分に驚いた。
「お姉さま、お待たせ致しました」
時間通りにヴィヴィアンが部屋へ準備ができたと知らせに来てくれた。朝から走り回っていてくれたのか、少し頬を上気させ目を輝かせている。
「ありがとう、ヴィヴィアン。大変だったでしょう?」
準備の殆どを任せっぱなしで申し訳ない気持ちになってしまう。
「何を仰っていらっしゃるのですか!今からが本番ですよ、お姉さま」
「ふふっ、そうね」
私はひと呼吸すると待機していた部屋から外へ出た。ここからお茶会の行われる庭園まではすぐだが、その廊下の左右にはリトルシスターズのメンバーがずらりと並び緊張した面持ちで私を見ていた。
「皆様、ご機嫌よう」
王女らしく笑みを湛えると優雅に足を踏み出した。
「「「「ご機嫌よう、お姉さま!」」」」
私の動きに合わせて次々と頭を垂れる女生徒達。緊張が高まると同時に力強い味方が一緒だと安心感も与えてくれる。庭園に出る寸前、振り返ると皆が集まり私を見つめる。
「行くわよ」
「「「はいっ!」」」
建物から一歩踏み出し陽光が降り注ぐ庭園に入って行く。
ざわざわと騒がしい庭に大勢の招待客がいて、私達が来ると一斉にこちらを見た。
既に庭園にいたフランソワーズ先生が私達と並び立ち、貴族らしい優雅な微笑みを浮かべるとおもむろに口を開く。
「皆様、ご機嫌よう。本日は貴婦人コースの大規模お茶会へお越し頂きありがとうございます。
このような取り組みは初めてのことですが、ここにいる生徒達が学んだ成果をお見せする良い機会と思い生徒の親族限定ですが御招待致しました。
準備の全てを生徒達の手で行われ至らぬ点があるかと存じますがその際はご指導ご鞭撻宜しくお願いいたします。
さて、今回の主催はリアーナ殿下という事になっております。ここにいる皆さまは王族のご招待を受ける可能性がありますから本番さながらの振る舞いで生徒たちに対応していただきたいと思います。
ではごゆっくりお楽しみ下さい」
お茶会には不似合いだが大きな拍手と共に始まった。
「あちらのテーブルに菓子が足りていないようです」
ローラが私にお茶のお代わりを入れながら他の人へ聞こえないようにコソッと教えてくれた。
庭園では想像より人が多く行き交い、交流も盛んなようで落ち着いたお茶会というよりはパーティのようだった。
各テーブルを主催者として挨拶に回るっていたがその中の数人がマジマジと私の胸の谷間を凝視していたのがかなり恥ずかしかったが男説を払拭するためには我慢するしかなかった。
一応テーブルは準備されていたがパトリシア先生の助言にしたがい自由に自分で菓子やお茶を選べるように別にスペースも設けていた。そこには生徒の親族ということで幼い弟妹も何人かいてじっと出来ない子供達がうろうろと歩き回り賑わっていた。
「あのテーブルをお願い」
女中たちにさっき教えてもらったテーブルをフォローさせると、少し疲れを感じ後ろへさがった。
「姫様、大丈夫ですか?」
ローラが冷たいおしぼりを用意してくれそっと額にあてた。
「あぁ〜気持ちいぃ〜ありがとう」
スタート時から各テーブルをまわり支持を勝ち取ろうとアピールしていたが流石に喉が痛くなってきた。そんな私を見てローラがポーションを差し出し受け取ると素早く飲んだ。
まさかお茶会でポーションを使うはめになるとはね。




