66 街歩き
そのまま店先で熱い肉に齧りつく。私がタレでドレスを汚さないようにローラが子供に構うようにいそいそと世話を焼くなか、気をつけながらモグモグと噛み締め味わう。
「あっ、熱い。でも美味しい、やっぱりエルデバレン国とは少し味付が違うわね」
あっさりとした塩コショウ味が主流の自国と違いベルトナ国の串肉はハーブを効かせた独特な風味がある。皆で店の横のにある空間に集まりながら食べていた。ゴドウィンは早々に食べ終わり他に目を向けていて、私が半分ほど食べ終わっているのにアーネストはじっとこちらを見て肉を口にしていない。
「もしかして食べたこと無いの?」
さっき聞かれたことをそのまま聞き返した。彼は大領地の三男だから庶民の食事は口にしないとか?
「王族の君だって食べているのにそんなわけ無いだろう。学院に通っていたときに私も街へ出ていた」
そう言ってやっと一口齧った。
「美味いな、久しぶりだ」
最近は仕事が忙しくて街へ行けなかったらしく、嬉しそうに食べる姿がちょっと可愛く見える。
アーネストのこんな顔、久しぶりだな。
全員が食べ終わったことを確認し、私は通りを歩き始めた。
「馬車に戻らないのか?」
アーネストが隣に並びながら話しかけてくる。
「折角だから見て回りたい。本当はジェロームが案内してくれるって言ってたけど」
私は色々な屋台の店先に立ち寄り品物を見ながら言った。
「随分親しいな。今回初めて会ったんだろう?」
「えぇ、でもジェロームって優しいし、ヴィヴィアンのお兄様だから何となく親近感があって話しやすい」
私は一軒の屋台の前で立ち止まり並べられてあるアクセサリーを見ながら答えた。
「彼は独身で婚約者もいない」
「だから?」
目についたネックレスを手に取りその飾りをじっと見つめる。
「あまり親しげだと周りの目がうるさくなる。ヴォルガン様は昔エリザベス王女殿下に執心していたようだし」
「あなたもその話を知っているの?驚きよね」
もしかしてゴドウィンのことも知ってるのか。
振り返って聞こえないふりをしているゴドウィンをニヤついて見てやった。ちょっと嫌そうに顔をそらすのを見てローラと目を合わせクスッと笑う。
「エリザベス様に似ていると評判の君と息子であるジェローム様を結びつけようと動いているのかもしれないぞ」
「へぇ〜、似てるなんて初めて言われた。母上は美人だとよく褒められているけど私には誰もそんな事言わないし」
「そんなこと、姫様はいつでもお美しいですわ。特に最近は花が咲くように美しさがあふれるようです」
ローラがいくら褒めてくれても身びいきなのは分かっているがそれでもちょっと嬉しい。
「ふふっありがとう。お世辞でも嬉しいわ」
手にしていたネックレスを元に戻しその隣にあるイヤリングを持ち上げた。さっきのネックレスもそうだがついている石は安物だが土台の細工や全体のデザインのセンスがいい。
「リ、リアーナ、君は……」
「すみません!これって貴方が作ったものですか?」
アーネストが何か言いかけていたがそれと同時に私は手にしたイヤリングを店先で座っていた青年に見せると話かけた。
「ん、なにか言った?」
一応アーネストの話を聞こうと振り返った。
「いや、別にいい」
何だったのかなと思いながらもさっきの青年へ顔を向けた。
「それで、誰が作っているの?」
青年は私達がその辺の平民とは違うことはひと目見て分っていたのだろう。緊張の面持ちで立ち上がるとボソリと答える。
「わ、私です」
「デザインも?」
「い、いえ、デザインは妻が」
キョロキョロと辺りを見回しお目当ての人が見つかったのか慌てて誰かを手招きした。
「ルー、来てくれ!」
少し離れた場所から籠を手に買い物から帰ってきた感じの女性が私達に気づくと小走りで近づいてきた。念の為エミリオ少し警戒して一歩前へ出ると女性はそこで立ち止まり丁寧に礼を取った。
「恐れ入ります。私はそちらのジャンの妻、ルーと申します。もしかして夫が何か無礼を働きましたでしょうか?」
見た目の素朴な感じとは裏腹にキッチリとした対応に少し驚く。
「エミリオ、下がって。ルーと言いましたか、驚かせてしまってごめんなさい」
ルーはエミリオが引くと目を下げたまま夫の側に並びそこでもまた礼を取った。
「ご要件はなんでございますか?」
その所作からルーがどこかの貴族の屋敷で働いていたかその関係者である事が窺えた。
「実はここにあるアクセサリーの出来が素晴らしいのでデザインした者と作った者を知りたかったのです」
「お褒め頂きありがとうございます。ここにある品はいずれも私がデザインし、夫が作ったものです」
数は少ないがこれだけの物が出来るなら相当腕のいい職人だ。
「どこかに所属しているのですか?」
「いいえ、実は最近、夫は店の親方と折り合いが悪くクビになりまして」
ルーは隣の夫を仕方がない人という感じで見やる。なんとか二人でやりくりして生活しているようで、屋台の品も売れている様子はない。
「ここにある品は全部私が買います」
夫のジャンがハッとして顔をあげたが慌ててまた下を向いた。
「あ、ありがとうございます」
二人が嬉しそうに笑顔を交わす姿が思い合っているのだと伝わりこちらも笑顔になってしまう。
「ルーはどこか貴族の屋敷で働いていたのですか?」
平民でここまでのセンスはなかなか磨けない無いだろう。
「あの、恥ずかしながら私は生まれは貴族でした。父にジャンと結婚するというと屋敷を追い出されまして」
なるほど、それで完璧な礼儀を身に着けていたのね。最近は資産のない貴族が資産家の平民と婚姻を結ぶこともあるようだが、まさか資産のない平民が相手などどこの貴族の親も許す事は無いだろう。それでも二人が微笑む姿は幸せそうに見える。
「そうでしたか、では話は早そうですね。私はここで身分を明かすことは出来ませんが貴方達に私が懇意にしている店に紹介したいと思うのですがどうでしょう?」
急な提案にジャンは顔色を青くしたがルーは私とアーネストの顔を見比べゴクリと喉を鳴らした。
「私は以前エルデバレン国に留学していたことがございます」
きっと有名な『月冴ゆる君』のアーネストの事を見たことがあるのだろう。銀髪、深い蒼の瞳は目立つ。
「では了承という事でいいですね?」
私とルーで話を進めようとするとジャンがオロオロと彼女の袖を引っ張る。
「大丈夫なのか?」
「大丈夫よ、とても素晴らしい方々なのよ」
「そうじゃなくて、お前の父上に知れたら」
ジャンはルーの父に知られることが気になるようだ。
「そちらの事情はわかりませんが、貴方達がこのままここで商売を続けてもすぐに立ちいかなくなりますよ」
私がそう言うとジャンは自分の腕を否定されたと思ったのか少しムッとした顔してルーに窘められた。
「貴方の細工の腕は良いし、ルーのデザインも素晴らしいけどこれほど派手な作りは平民の間では売れないわ。値段もこの場所じゃ高すぎるし、かと言って富裕層に売るには素材が安すぎる。この場所では薄利多売が主流でしょう?ここで商売を続けるならもっとシンプルでアッサリした物でないと」
一人で作って売るには薄利多売では生活が苦しくなるばかりのはずだ。
「もし、この国で働くのが嫌ならエルデバレン国でもいいわよ」
どこで働くかは考えるとして、取り敢えず二人は私の提案を受け入れると約束し住まいを確認してその場を後にした。店先の品は買い占めたので数日は暮らせるだろうからその間にゆっくりと考えればいい。




