44 夜会のエスコート1
すみません、なんか昨日は投稿出来ていなかったようです
毎日少しずつ体力回復のために身体を動かしていた。歩いたり柔軟体操したり軽い筋トレなど、もともと筋力はつきにくいタイプの私だが流石に衰えを感じて焦った。たった七日間では元の状態に戻ることはなかったが鍛えていたこともあり普段の生活に差し障り内程度にはなり当日をむかえた。
コーネリアスの屋敷へ向かう馬車の中、ゴドウィンと並んで座り少しだけカーテンを開いた窓から外を眺めていた。あれからアーネストは花を贈ってこなくなり彼も来なくなった。花をいらないと言った言葉を来るなということだと解釈したのだろう。最後の花はデンファレだった。
婚約したばかりの幼い頃、アーネストと図書室の植物の本を片手に、実際に見に行こうと温室へ行った事があった。
彼はどんな本も興味のおもむくままに見るタイプでそれはたまたま手に取った物であり意図はなかった。本と実物とを見比べている彼の隣で私は白い美しい花を突いていた。
「アーネスト、これはなんて花?」
私が適当に選んだその花の名を彼が本で調べていく。
「デンファレだな、デンファレはコチョウランに似た花を咲かせる。『デンドロビウム・ファレノプシス』が正式名称で、蘭の一種に分類される。デンファレという名は『デンドロビウム・ファレノプシス』を略したもので、花の咲き方や花の形がコチョウランに似ているデンドロビウムであることからつけられたと言われているそうだ」
「へぇ〜、デンドロビ……なんだか難しいね」
つらつらと言葉を並べられ殆ど意味がわからなかった私は彼が見ている本を覗き込んだ。
「この花言葉って何?」
説明の一番下に補足のように書かれてあるそれを指差した。
「花などの植物に対し象徴的な意味を持たせたもので、何ら科学的な根拠はないものだ。一応デンファレには『有能』『わがままな美人』などというものがある」
「あははっ、アーネストの事だね。似合ってるよ」
そう言うと彼は少しムッとした。
「私は花が似合ってると言われても嬉しくない。リアーナが似合えばいい」
「でも私は『有能』とか『わがままな美人』じゃない」
兄姉達の中には有能な者や美人の者がいていつも比べられ幼心に傷ついたこともあり俯いた。
「これからそうなればいい」
そう言ってニコリと笑った彼を見て胸がドキドキしていた。
「着きましたよ」
そう言うとゴドウィンが開けられたドアからサッと出た。続いてローラが出て独りになるとそっと髪に飾られたデンファレの花に手を触れ確かめた。
別に花に意味なんてない、ただ綺麗だったから着けてきただけだ。
その後に差し出されたゴドウィンの手にエスコートされ馬車から優雅に王女らしく顔を上げ出ていった。
「リアーナ殿下よ」
「もうお怪我はよろしいのかしら」
周りからヒソヒソと囁やく声が聞える。
「では私は控室におりますから」
ローラが夜会の間に休憩出来るように私の為に用意されている女性専用控室に向かった。本来ならコーネリアスの屋敷の者がそこで招待客の世話をするのだが、私が以前控室へ行ってから勝手に屋敷へひとりで帰り引きこもった事があったせいでそこからはローラがついてきている。
もう子供じゃないんだけどなぁ……
あの時はアーネストの密会シーンを見てしまったせいでショックを受けたが事実を知ってしまった今はもうそんな事はない。
ゴドウィンにエスコートされコーネリアスの屋敷の玄関へ向かう。
今夜のゴドウィンはいつもの護衛姿とは全く違い、筋肉質で体格の良い身体をシンプルだが上品な刺繍が施された夜会用の黒の燕尾服に身を包み大人の男の色気を漂わせている。流石にモテ男と評されるだけあって洗練された身のこなしにそつのないリードをしてくれる。
私は全く繋がりのない相手の夜会に、しかも支持を集めてくるようにという指令付きでの参加は初めてだったので少し、いやかなり緊張していた。
「いけますか?」
ゴドウィンがリラックスさせようといつもの軽い口調で話してくれる。
「いくしかないでしょう」
玄関ホールへ入ると招待客を確認する長い列に阻まれ進めなくなった。ゴドウィンはすぐにホールに立つ使用人に合図すると私達は列の横を素通りし中へ導かれた。
王族の特権なのかな?今まで意識したことなかったけど。
これまではもっと人数の少ない限られた人達ばかりだったがここは違うようで。
「リアーナ王女殿下でございます!」
よく通る声が会場内へ響き渡り一歩踏み出すと皆が一斉に振り返った。入り口は会場が見渡せる少し高い位置になっていて先に来ていた人からは誰が来たかを確認できるようになっている。
数段ある階段をゴドウィンの腕に掴まりながら優雅に降りていく。久しぶりに履いた踵の高い靴が緊張感を高めるが、何とか足を滑らす事なく着地した私達の周りに早速人が集まりだした。
「リアーナ殿下、ここでお目にかかれると思いませんでした」
ひとりの紳士が驚いた顔をしている。
「私も成人を迎えましたから活動の場を広げなくてはいけないと思いまして」
父である国王が崩御してまだ二ヶ月ちょっと。兄であるサムエウの喪も明けておらず、本来なら今はこの国での喪に服する六ヶ月の期間だ。そのため私が成人した時の披露目のパーティも行われなかったし、皆からしても公共の場では御祝の言葉をかけるのも憚られる状態だ。
私の言葉を聞いた人達は「それはそれは……」と言葉を濁し笑顔に寿ぐ気持ちを含ませる形をとった。
「それで今夜はそのような美しいお姿なのですね」
女性達が私のドレスを興味深々の目で見ている。
私が身に着けているドレスはガルム商会の未発表の新作の生地で作られている。ヴィヴィアンのお茶会が開かれた屋敷の玄関ホールに敷かれていた絨毯を作っている小国エストリナの物で、光沢がありスベスベとした手触りの美しい稀少な生地と、同じくエストリナで作られた繊細なレースと組み合わせたふんわり軽い印象の、少しくすんだ水色のボールガウンドレスだ。勿論喉仏を隠すためにドレスとお揃いのチョーカーもつけている。
入り口付近で立ち止まるわけにもいかず、集まる人達を引き連れ会場の奥へ進んで行くと会いたくない人にあってしまった。
「珍しくリアーナ様がいらしていると聞きましたが……」
すぐ上の姉マクシーネ王女が私を見るなりポカンと口をあけた。
「マクシーネ姉様、相変わらず綺羅びやかですね」
ど派手なドレスはいつものことで、趣味が悪いと思われないギリギリのラインを突き進むマクシーネが慌てて口を閉じた。
「随分と……大人びてきましたね」
なんとか言葉を続け気持ちを持ち直したようだ。いつもアッサリした服装の私と違う今日の姿に驚いたのは他の姉も同じなようだ。
「リアーナ様、今日はまたなんとも言えない色香が漂いますね」
サクッと面倒くさい事を言ってきたのは私よりも夜会に顔を出さないフルールだった。
「妙なことを仰らないで下さい、フルール姉様」
「だけど今夜のリアーナ様はなんというか、ちょっと妖しげな感じだ」
その言葉に数人の者が頷いた。
妖しげ?なんだソレ?
ゴドウィンを見上げると面白そうにニヤついている。
「そうですね、性別を越えた美しさというか」
ゲッ、そういうことか。身体が男なのにドレスなんて着てるのが何か得体がしれない感じになっているのかもしれない。ローラ特製の下着で体のラインはごまかせているはずだが気をつけなきゃ。
フルールは今回エスコートもなくひとりで来ているようだ。夜会には殆ど出ない姉が来ていることに不思議に思っていた。
フルールはいまだに結婚もせず婚約者もいない。とっくに適齢期に突入済みの彼女は仕事に夢中で周りの話に耳を貸さないようだ。
「それにしても珍しいですわね。フルール姉様が姿を現すなんて」
マクシーネがなにか探るような目でジロジロと見ている。
「えぇ、今回この夜会で私がリアーナ様を支持することを表明しておこうと思いまして」
そう言ってフルールが私の手を取った。




