34 オロギラス 二匹目2
「キャンディさん、文官になるテストって難しいですか?」
ナザリオが書類を処理してくれている女性職員キャンディに尋ねた。日頃からお世話になっている彼女と学院の生徒は気安い間柄だ。
「どこの職員でもいいなら経理コースを卒業しているだけで後は面接だけでいいはずよ。王城や領地の城に勤めるっていうんなら難しい試験があるわね」
ナザリオはこれから就職活動を始めなければいけないらしく不安そうだ。
「最悪うちに来る?」
何だか元気がないナザリオに何かしてあげたい気持ちになってそう言うとサンドロがまた複雑そうな顔をした。
「リアーナのうちってどこだよ。城か、領地か?お前王位につくんだろ?」
あ、忘れてた。急がなきゃ。
「オホホ、そうなんですの。私って王位を目指しているのよ。なのでナザリオは死ぬほど勉強してから私の所で働いてちょうだい」
私は急いで書類をキャンディに提出した。
「今日から十日間のお休みですね、承りました。気をつけて行ってらっしゃい」
キャンディはニッコリ笑って受け取ってくれた。
「どっかへ行くのか?じゃ今日は一人か……」
ナザリオが同じ経理コースを受けている為、一緒に講義が受けれない事を残念そうに言った。
「ごめん、母上の課題なの」
急いで二人と別れ事務所を出た。
え?
「あんっ!お姉さま、待っていましたわ」
きゅるるんっと振り返るヴィヴィアンはともかく後ろにいる沢山の娘達は一体なんだ?
事務所前にはわらわらとお嬢様が集まっていて外で待っていたエミリオの顔が少し引きつっていた。エミリオは大人の女性が駄目な為まだ若い学生達にはそれ程恐怖は感じないようだ。
なんだか複雑だな、大人が駄目って……
「ヴィヴィアンこれはなんなの?」
目の前で目一杯カワイイ顔をしているヴィヴィアンに尋ねると書類を渡してくれながらフフンと微笑んだ。
「昨日言ったではありませんか、明日から学院でお姉さまが注目されると。私の言ったことは本当だったでしょう?」
小首を傾げて褒めてほしそうなヴィヴィアンの頬をそっと撫でた。
「ホントだったのね……」
ヴィヴィアンを撫でながら見まわすとお嬢様達が小さく手を振ってくる。
「皆様、おはようございます」
「「「お姉さま、おはようございます!」」」
一斉に挨拶され何だかとても変な気分だ。
「そろそろ講義の時間ですよ、気をつけて教室へ行って下さいね」
お嬢様で混み合う廊下は混乱気味で危ない感じだ。大丈夫かなと心配しているとヴィヴィアンふらりと私にもたれかかってきた。
「ヴィヴィアン大丈夫!?」
うっかりちょっとだけ褒めるつもりで撫でていた頬をいつの間にかフニフニと揉み込んでしまいヴィヴィアンの限界を突破してしまったようだ。
「お姉さま……」
頬を上気させキュッとしがみついてきた。それを見たお嬢様の集団から少し悲鳴があがった。すると後ろのドアが開き中からナザリオとサンドロが出てきてギョッとしていた。
「うわっ、リアーナ、コレなんだよ!?」
ナザリオは声をあげて驚いていたがサンドロは咄嗟に私を庇うと前に立ちはだかった。
「早く中へお入り下さい!」
どうやら王立騎士団で仕込まれているのか王族を危険と思われる事から護る行動のようだ。
「おっと……大丈夫だよ。ありがとう、ございます」
友達だと思っている奴に丁寧にお礼を言うのはちょっと恥ずかしさがある。
「まぁ及第点ですね」
エミリオがサンドロを見て先輩風を吹かす。
「姫様、皆を解散させて下さい」
私は何とかヴィヴィアンを引き剥がすとお嬢様達を講義へ向かわせた。ある程度人数が減ったところで出口へ向かうために移動しだした。
「私も同行します」
サンドロが仕事用の顔をすると人をかき分け先頭を歩き出した。後方をいつもの様にエミリオがついてくる。両隣をナザリオとヴィヴィアンで固められた。
「あなた達も講義の時間でしょう?」
二人にも教室へ向かうように言ったが離れる様子はない。
「俺はこれから朝食、講義まで時間がある」
「私はお姉さまを待つために早目に来ただけですから一旦帰ります」
もし私が休むなら書類を提出しに朝から来るだろうと予測して来ていたらしい。
尽くす娘だなぁ……
感心してヴィヴィアンを見ていたが何だか少し心配そうに私を見ていた。
「資料は参考にさせていただくわね。本当にありがとう」
今度は不用意に触らずお礼を述べた。ヴィヴィアンも冷静な感じで「いいんですよ」と可愛く微笑んだ。
「それよりさっきの騒ぎは何だったんだ?」
ナザリオが不思議そうに聞いてきた。
「なんというか、私の支持者」
「え、お前の支持者ってお前をお姉さまって呼ばなきゃいけないのか?」
「そんなわけないでしょ!ちょっと私にもよく分からない事情があって」
何故みんながお姉さまと呼びたがるかは不明のままだ。
「あら、素敵なお姉さまを見つけたらお姉さまと呼びたいと思うことは自然なことですわ」
ヴィヴィアンはさも当たり前のように説明してくれた。先を行くサンドロがチラッと後ろを振り返り嫌そうな顔した。
私も嫌なんだよ。
学院の出口に到着するとゴドウィンが素早く馬車のドアを開けてくれた。ちょっと嫌な事を思い出し中に誰もいないことを確認してから乗り込むと窓から顔を出しヴィヴィアンとナザリオ、サンドロにまたねと手を振った。
「はぁ……なんでここでいつも疲れちゃうんだろう」
最近は学院へ来るとゴッソリ気力を奪われる。
「そうも言ってられませんよ。向こうへついたらすぐに馬で二日間駆け通しですからね」
エミリオがニッコリ微笑んだ。
美しい顔だねぇ……
直ぐにカリミナリ領地へ向かう為の転移装置がある塔へ着いた。馬車から降りると早速塔の中の転移装置を利用しあっという間にカリミナリ領地の城へ到着しそのまま領主コーニーリアスに面会だ。
カリミナリ領の執事に誘導され領主の部屋へ案内される。
「リアーナ王女殿下、ようこそカリミナリへ御出くださいました」
「歓迎してくださりありがとうございます。ですがこれ以上の口上は結構です。申し訳ございませんが直ぐに出発したいので着替える為の部屋へ案内してください」
ろくに挨拶もせず大変失礼ではあるが事情はわかってくれているらしくなんの支障も無く直ぐに部屋へ案内された。冒険者風の服に着替え準備を整えるとローラだけは残し三人で城を出発した。
先にカリミナリへ来ているガルムに指示してあり行く先々の村や町に替えの馬を用意してもらっていたので馬だけ替えるとほぼ休みなく走っていた。
これでも騎士コースの学生なので疾駆けは問題無いが休憩が最低限なのと蛇を見ないよう気遣うのが辛かった。前を行くゴドウィンの背だけを追いながら脇見せず止まったり減速したりする合図だけを見逃さないようにただただ馬を走らせ、予定より数時間早くガルムがいるワイン用の畑が作れるか見定める農園についた。先頭のゴドウィンが優秀なのでかなり時間が短縮出来たようだ。
ガルムが直ぐに私達の到着に気づくと既に用意してあった部屋へ案内されベッドに倒れ込んだ。




