33 オロギラス 二匹目1
長かったお茶会も皆のお見送りが済みやっと終了した。何故か私が長い列が出来た招待客一人ひとりに挨拶して送り出していった。
これってヴィヴィアンの役目じゃないの?
「いやぁ疲れた……」
ここはまだヴィヴィアンのお屋敷だというのに気が抜けて案内された応接間のソファに倒れ込んだ。
「本当にお疲れ様でしたね、姫様」
ローラが改めてお茶を淹れてくれた。テーブルをまわってばかりで喉もカラカラです。
ヴィヴィアンが会場の片付けの様子を確認した後、応接間にやって来ると嬉しそうに隣へ座った。
「お姉さま、まずまずの手応えだと思います」
ヴィヴィアンはさっきのお茶会で私の評判がまた上がったと確信したようだ。
「私は別に何も感じなかったけどそうなの?」
ゴドウィンやエミリオを見たが何とも言えない顔している。
「まぁ、二、三人目つきが変わった娘がいましたがね」
ゴドウィンは興味無さそうだ。
「そこまで危険な感じはありませんでしたが、警備は強化したほうがいいでしょう」
エミリオもそれなりに変化を感じたようだった。
「これで明日から学院内でお姉さまが注目の的ですわ。私がさっきお見送りした時、五人からお姉さまのドレスはどこのものか聞かれましたからガルム商会の評判も上がったでしょうし、菓子店『パルス』もまた人気に拍車がかかってくるでしょうし、そこから飛び火してお姉さまの話が出ますから」
オススメした菓子のマカロンが売れるとオススメした私も名が売れるのか?よくわからないが話のネタにはなるのだろう。
「お姉さま、明日は学院へいらっしゃいますか?」
明日は一応経理コースの講義がある。
「何も無ければ行く予定だけど、お母様からの課題が出ればお休みするわ」
もしカリミナリ領地へ入る許可が出れば直ぐに向かわなければいけない。体調が悪いからと騎士コースは当分欠席としているが経理と貴婦人、帝王学コースへは行くつもりだ。
みんなには私が母上から王になるための課題が出されていると思わせることにして緊急時に対応することになっている。オロギラスの目撃情報に直ぐに対応しなければいけないからだ。
「そうですか、では明日お会いできることを願っております。それまでに資料をまとめておきますね」
ヴィヴィアンは今日得られた情報をレポートにして提出してくれるらしい。よく出来た娘だよ。
別れ際に感謝を伝えるために頭を撫でてあげるとぶるっと身体を震わせて頬を赤らめたのでこれからは不用意に触るのは止めようと思った。これ以上イケナイ世界に足を踏み入れたくない。
翌朝、昨日のハードな作戦遂行のせいかグッスリと深く眠り、まだ寝たりないくらいなのにローラが起こしてきた。
「姫様、カリミナリ領へ入る許可が出ましたよ」
それを聞いて飛び起きると直ぐに仕度を始めた。
「思ったより早かったわね」
私の髪を結上げるローラに尋ねると同じ様に驚いていた。
「ガルム商会がワインを作る畑を早く見に行かないと時期を逸すると言って急かしたそうです。皆がガルム商会のワイン『シャーヴィンデイル』を取り合ってますから事務官も早急に対応してくれたようですね。
世間的にはコレット殿下があぁなった以上一時的にも領地が落ち込むのは目に見えているでしょうから、先手を打ってリアーナ殿下支持を表明して少しでも被害を防ぐのが目的だろうと思わせるようです」
一度立った悪評は覆したとしても記憶から消えることはない。冤罪であっても火の無いところに……などと言われこれからもコレットにはついてまわる話だろう。そういう意味でもバルバロディア領地と懇意になるのはカリミナリ領地にとってコレットの冤罪をはらすことを抜きにしても悪く無い話だ。
「直ぐに出発出来るの?」
「はい、全ての書類は揃っておりますから学院へ欠席の書類を届けてそのままカリミナリ領地への転移装置へ向かう予定です」
人目があるため王女仕様のドレスに着替え軽く朝食を済ませるとゴドウィンとエミリオを連れローラと馬車へ乗り込み直ぐに学院へ向けて出発する。
馬車の中でエミリオが現地での行動を説明し始めた。
「まずはカリミナリ領主コーニーリアス様にご挨拶して山岳地帯に近い地方へ二日かけて移動するという予定です。あくまでワイン用の畑を見に行くという理由ですのでそこは省けません」
風蛇はその名の通り風の攻撃を使うがその性質のせいか強い風が吹く山間を好んで棲息しているという。
今回はカリミナリ領地の南に位置する山岳地帯で目撃情報があった為そこへ向かう。うまい具合にそこから近いところにワインの為の畑が作れそうな場所が本当にあるという。
「南の方って境界に近い所でしょう、二日で行けるの?」
山岳地帯はグランフェルトとの境界にあたるはず。
「はい、ですからガルムには畑作りに詳しいチャドを伴って先に向かわせております。姫様は馬で急ぎ追い駆ける形になります。移動に時間を取れられますと風蛇を探して倒す時間が無くなりますから」
王女である私が予定を越えて滞在することは難しい。今回も十日と時間が決められている。
行って帰るだけで四日取られる。もし炎蛇のように探すのに時間がかかれば一旦戻らなくてはいけないかもしれない。
学院へ到着し馬車から出ると周りがザワッとした。
「あぁっ!お姉さま、おはようございます!」
いきなりそう挨拶されビクリとする。
「お、おはようございます、ナタリー」
この娘もそうなの?昨日のお茶会にいなかったけど。
そこまで多く話した事が無かったのにお姉さま呼ばわりされてちょっとビビったが気を取り直して階段をのぼり始めた。早く書類を提出しなければいけない。
「おはようございます!お姉さま」
「アメリ、おはようございます。今日も元気ね」
コイツもか。
そこからはまるで嘘のようにお姉さまと挨拶する女生徒達が数人いてちょっと驚いた。
「からかわれているのかしら?」
後ろのエミリオにそう言うと美しい微笑みで否定された。
「普段から姫様にご挨拶されている方もいますから本気なのでしょうね」
複雑な心境ながら取りあえず普通に挨拶を返し書類を提出するために学院の事務所を訪れた。
「失礼致します」
ノックして中へ入るとそこにナザリオとサンドロがいた。
「よう、リアーナ、元気か……あ、もうマズイか」
久しぶりに会ったサンドロがしまったという顔をした。サンドロは王立騎士団の訓練用の格好をしている。学院の騎士コースにでも用があったのだろうか。
「別に構わないわよ。そいつだって普通にしてるし」
ナザリオがこちらに向けて軽く手を上げている。それを見たサンドロが複雑なそうな顔をする。
「俺はもう正式に王立騎士団に入ったんだからそろそろ駄目だろ」
サンドロは平民で私とナザリオの同期だが半年前に学院を修了し今は王立騎士団に所属している。王立騎士団といえば王族を護衛することが最重要任務だ。
「やだ、嫌味かしら?」
「王立騎士団に入ったからって急に大人ぶってやがる、騎士コースで一緒に馬鹿なことをした俺達のことはもう忘れたんだ」
この二人を含め新人五人一組でグループを組まされ、訓練したり当番の武器の手入れや先輩達の手伝いをして苦難を乗り越えて仲良くなった。
王立騎士団へ入ったのはサンドロだけで一人はどこかの文官へもう一人は自領へ戻ってそこの騎士団へ入っている。
「何言ってんだよ。それよりお前ら二人とも王立騎士団へは来ないって?」
サンドロが先んじて学院を出るとき必ず追いついてやるって宣言していた私達は顔を見合わせてため息をついた。
「無理そう」
「同じく、俺はもう文官になるって決めた」
ナザリオはヒラヒラと一枚の書類を振るとそのまま職員の前に提出した。
「あなた達なんです、王女殿下に対してその態度は」
書類を受け取ったお年を召した女性職員が一応という感じで注意してきた。




