31 お茶会4
ブクマありがとうございます!
今日は楽しく仕事に行けそうです
お茶会って確か授業では主催者が招待客を持て成すって習ったんだけど。
何故かヴィヴィアンは私の隣に座ったままどこにも行かず陣取っている。他の招待客もそれぞれが用意されたテーブルにはつかず、私とヴィヴィアンが座っている周りを取り囲んでいた。このままでは永久にお茶会は始まらないし終わらない。
「皆様、そろそろ席についてはいかがですか?」
何も言わずに皆がただ私を見つめる異常事態にちょっと顔が引きつりそうだ。こっちは早く帰りたいというのに。
「あの、リアーナ殿下。私もお姉さまとお呼びしてもいいでしょうか?」
ひとりのお嬢様がおずおずと尋ねてきた。
「勿論構いませんよ。皆と距離が近くなったようで嬉しいですわ」
そう言うと他のお嬢様が急に口を挟んできた。
「パトリシアさまは駄目よ、貴方の一族はイスラ王女殿下を支持なさっているでしょう?」
そう言われたパトリシアが悲しそうに顔を歪ませた。
「それは、父が決めたことで私の意志では無いんです!
リアーナ殿下、私はリアーナ王女殿下を支持したいのです。信じて下さい」
必死に訴えかけてくるパトリシアの目からポロリと涙が溢れた。私は立ち上がるとパトリシアのそばへ近寄り頬の涙を指でぬぐった。
「泣かないでパトリシアさま。誰が誰を支持するなんてことここでは気にしなくて良いのよ。ほら、あなたもここに来て」
さっきパトリシアに私をお姉さまと呼ぶなと言ってきたお嬢様もそばへ呼ぶとそれぞれ優しく二人の手をとった。
「あなたも私の事を思って言ってくださったのでしょうね、ありがとうございます。
確かに私は王位継承の権利を行使しようとしていますがその為だからといって貴方達のどちらかとしか親しくなれないなんて寂しいわ。そんな事気にしないでお茶会を楽しみましょう、ね?」
ここで揉められちゃヴィヴィアンが困るだろう。私は何とかその場を収めようとした。
あれ?でもこれって主催者であるヴィヴィアンの役目かな?
ヴィヴィアンを振り返ると頬を赤らめ近寄って来て私の両手を二人から奪い取ると自分の方へ向かせた。
「大変素晴らしいおことばです、お姉さまのおっしゃる通りですわ。
皆様早くどこかへ行って……いえ、席におつきになってください」
心の声が隠しきれていないヴィヴィアンの言葉を聞いた他の招待客達が不満の声をあげた。
「そんなぁ、ヴィヴィアンさまだけズルいですわ!」
「ずっとリアーナお姉さまをここで独り占めなさる気でしょう?」
「主催者は各テーブルをまわらなきゃいけないのよ!」
皆が口々に文句を言い出し段々と収拾がつかなくなってきた。少しずつお嬢様達が私の方へ押し寄せてきてちょっと恐怖を感じ始めたとき席の後方にいたゴドウィンが控え目に低い声で彼女達を牽制する声を出した。
「皆様お下がり下さい」
突然響いた男性の声にお嬢様達がハッと我にかえる。
「もう少しお下がり頂けなければ、王女殿下にはこの場を直ぐにお帰り頂くことになります」
危険を感じたエミリオが真剣にまわりを窺っている。流石に今は任務が優先され女性恐怖症も出ていないようだ。
護衛二人からの警告にお嬢様達は直ぐに数歩後ろに下がったがそれでも席につこうとしなかった。どうしたもんかと困っていると後ろからローラが小声で囁いてきた。
「姫様、いっそ姫様とヴィヴィアンさまで各席をまわられては?」
直ぐ傍に居たヴィヴィアンがそれを聞くとパッと顔を輝かせると叫んだ。
「皆様、私のお姉さまが有り難くも各テーブルをまわってお話しくださるようです!準備が出来た所から回りますわ、さぁお早く席についてくださぁい!」
ちょっと、誰が誰のお姉さまって?
蜘蛛の子を散らすようにお嬢様達は出来るだけ優雅に散開しあてがわれた席に素早くついていった。
やっと皆が席についた事で給仕達がお茶を淹れ始めお茶会スタートだ。
ここまで長かった……
流石にちょっと疲れてしまい自分の席に座るとローラが淹れてくれたお茶を飲んで落ち着いた。招待された客ではあるが人手も足りなさそうだし、多数の見知らぬ人がいるこの場は安全面で考えても自分の侍女に任せたほうが護衛達も安心だろう。
私が休んでいる事を気遣ってくれたのか少し時間を置いてヴィヴィアンが声をかけてきた。
「まだ落ち着かない感じではありますが少しよろしいでしょうか?」
ヴィヴィアンはそう言って数枚の資料を渡してきた。そこには本日のお茶会の席次表と共に出席者やその一族が王位継承に関して誰を支持しているかが記されていた。
「この○がついている人はイスラ殿下を支持されているかたで、△がマクシーネ殿下、□がゲイル殿下、⬛がオスカリ殿下です。オスカリ殿下に関しては未だ婚約者も決まっておりませんし御本人もやる気がないと公言されております。ですが以前リアーナ殿下もその気はないと仰ってましたが今はそうではないようですので用心に越したことは無いと思われます」
ヴィヴィアンはまるで私の秘書のように情報を細々と説明し始めた。
「今回のお茶会には元々リアーナ殿下信奉者の私のお友達だけで集まる予定でした。
『ベルトナ国民の私達がリアーナ殿下の為に出来ることは何かを考える会』と銘打っていて殆どがベルトナ国の者の集まりで一人だけエルデバレン国のパトリシアさまがいらっしゃったのです。
パトリシアさまのお父様はイスラ殿下支持と公言されていて、リアーナ殿下のことを慕ってらしたパトリシアさまは大変悲しまれて、私達と同じ立場だと励まし合っていましたのです」
何か私の預り知らぬところで特殊な組織が出来上がっていくようで何とも言えない気持ちになる。
「今回の追加の招待客は大体それぞれの支持者を同じ割合で選んであります」
「それはその方たちがわざわざここへ来たいと仰られたということですか?」
私を支持する訳では無いけど一度見てみたかったということ?
「はい、支持は成人した上位貴族にだけ権利がありますからここにいらっしゃる方の殆どは権利を有しておりませんが私は逆にこれはチャンスだと思うのです」
ヴィヴィアンはまるで商会長のガルムが絶対に売れると確信した商品を見つけたときと同じ顔をした。
「権利が無い私達が何を言っても王位継承には関係無いと思われています。つまり自分達が思っている本当の事を遠慮なく言えるということです」
「なるほど、何を口にしても気兼ねが無いということね」
未成年の戯言だと聞き流されるってことだろうけど……
「ですけど、噂話は耳には入ります。今一番必死に情報を集めている者はまだ誰を支持するか決めかねている人達です。
そこで私達若い世代が支持するのは誰か、これからの国を支えて行くのは誰なのかを考えたとき選ぶべきはリアーナ王女殿下だと気づくはずです」
「それはどうかしら。他の王女や王子だってお茶会や夜会で若い世代と交流があるでしょう?」
「いいえ、若い世代に断トツで人気があるのはリアーナ王女殿下です」
ヴィヴィアンがくすりと意味ありげに笑った。
「ご自覚されていらっしゃらないところがまた胸キュンポイントなのですがお姉さまは学院内でとっても気さくに振る舞っていらっしゃいますよね。
それが凄ぉ〜くイイのです♡」
頬を染めて近寄らないで、何だか怖い。
「そ、そうかしら?意識したことは無いのだけど」
じわっと距離を詰めてくるヴィヴィアンから熱を感じる。大丈夫なの?
「他の王族の方々は学院のカフェテリアでお食事なさったりせずに、専用のお部屋で寛がれるので家の繋がりで元から親しい方しか近寄れない雰囲気なのです」
「そう、知らなかったわ」
「ですけど私のお姉さまは、あっ、私のって言ってしまって申し訳ございません、つい、うふっ♡
お姉さまは気安くお声をかけてくださるし、ご挨拶もさせてくださいます」
「言われてみれば普通の王族とは違うのかしら?」
「はい、お姉さまは特別なんです」
満面の笑みのヴィヴィアンにそろそろ準備が整ったと知らせが入った。
なんかお茶会って怖い。