21 学院2
カリミナリ領地へいく許可が出るまでは誰にも何も気づかれないように平常通り学院へ通わなければいけない。
朝の仕度をするためにローラが私の部屋へ来るとニンマリと微笑みながらいつもと違う下着を差し出した。
「これなら着心地もよくうっかり中身が溢れるような事もありませんわ」
それはローラ特製の私の下着でそれを身につけるだけで女性らしい身体つきに見えるように胸やお尻部分に分厚く具が縫い込まれていた。なるほどこれなら多少動いても何もズレないので気にしなくていい。
「助かるわ、ありがとう」
「いいえ、もう少しの辛抱ですわ姫様」
ローラにも一応の話はしてある。大猿になってしまう話をしたときはショックを受け泣き出しそうだったが何とか持ち直し、今は前より甲斐甲斐しく私の世話をすることで平静を保っているようだ。
ちなみに大猿から戻るために毎回気絶させられている事は言ってない。言えばローラが気絶しそうだ。
仕度を終え学院へ向かう馬車へ乗り込んだ。
過保護気味のローラが付いてきたがったがこれまで通りに振る舞う方が不審がられないだろうと説得し護衛の二人のみを連れいつも通り屋敷を出た。
「今日は貴婦人コースと経理コースですね。ですがその後に貴婦人コースの補習のお茶会がありますよ」
これまで騎士コースに全振りしていた私は他のコースが遅れ気味だ。今のうちにこなしておくほうが良いだろう。
「わかった、じゃあ今日はエミリオで」
「畏まりました……」
浮かない顔のエミリオだがお茶会の席にゴドウィンを連れていけば欠伸をされかねない。女性恐怖症にはキツいが仕方ない。
学院へ到着し馬車を降りるとゴドウィンと別れエミリオを連れて建物内へ入った。
「おはようございます、殿下。今日はいつもと違う装いですね」
すれ違う見知った生徒たちに声をかけられた。
「おはようございます。そ、そうかしら」
身体が男になってしまったことがバレないようにローラによっていつもと違うけっこうヒラヒラする女性らしさを強調する格好をさせられている。いつもはかなりシンプルなワンピースなので流石に気づかれてしまった。
「王位継承へ向けてご準備なさっているのですか?そのようになさらなくても私はリアーナ殿下のお味方ですよ」
貴婦人コースで時々一緒になる貴族のお嬢様がそう声をかけてきた。
「へ?あぁ、いえ私はそのようなつもりでは……今日は貴婦人コースの補習でお茶会がありますから」
まったく予想外の事を言われちょっと驚いたが何とかそう取り繕った。
「まぁ!お茶会にリアーナ殿下が!?私も参加いたしますわ!皆様にも知らせてこないと」
横で聞いていた他のお嬢様がそう言うとお淑やかに見える限界ギリギリの速さで去っていった。そのせいで周りもザワつき私とエミリオは慌てて教室へ急いだ。
「なんだか大変な事になりそうですね?」
エミリオが心配そうに後ろを振り返った。
「そうね、何故あんなに張り切っているのかわからないけど、今回のお茶会は補習の人のみのはずだから大丈夫でしょう」
私も振り返ると何故かゾロゾロとお嬢様が付いて来ていて驚いた。みんな貴婦人コースの子達かな?
ちょっと心配になっていたが進むに連れバラバラと各々自分の教室へ散っていった。残った十数人は同じ教室だったのでそのまま一緒に行き、エミリオと廊下で別れ部屋へ入り席に着いた。
貴婦人コースへ出るのは本当に久しぶりだ。アーネストにバッサリと切られて以来、より真剣に訓練に打ち込んでいたのでますます他のコースは疎かになってしまっていた。
だがそれも甘えかと思い筆記試験だけでも頑張ろうと夜に屋敷で勉強して点数をあげていた。おかげで後は殆ど実技試験ばかりが残されており、今回のカリミナリ領地への許可待ちで実技の補習を受けれるのはかなり都合が良かった。
「お隣り失礼致します」
あと僅かに残った講義の資料を見ていると声をかけられそちらを向いた。
「えぇ、どうぞ」
顔をあげるとそこには可愛らしい感じのお嬢様がニッコリと微笑み座った。その瞬間後ろがザワつき「まぁ!」とか「どなたなの?」口々に言い合う声が聞こえ驚いて振り返ると何故か集まっていた数人の女生徒達が何気ない感じで散っていった。
何かあった?
私は不思議に思いながらも前に向き直ると隣に座ったお嬢様が話しかけてきた。
「あの……リアーナ殿下、私はヴィヴィアンと申します。以前国王陛下主催の夜会でお会いしたのですが覚えていらっしゃいますか?」
ちょっと頬を染めて小首を傾げる可愛らしい顔に見覚えがあった。
「あら、あの時の……お久しぶりね」
パーティ会場のど真ん中で見事にすってんころりんしていたお嬢様だ。確かお隣のベルトナ国の貴族だ。
「覚えていてくださったのですか!嬉しい……」
「あの時は大勢の人がいて大変でしたものね」
アーネストの取り巻きたちが私達に付いて移動していたその人波のせいで転んだのだ。まぁアレくらいで転ぶのもどうかと思うがそこは仕方がない。
ベルトナ国は小国でこのエルデバレン国よりもかなり規模が小さい国だ。そのため学院のレベルが高いこの国へ貴族の子女が留学生としてやって来る事がよくある。
「私はあの時この国の学院へ来る事を決心致しましたの。リアーナ殿下のお傍にいたくて……」
へ、私の?アーネストじゃなくて?
驚いて一瞬固まってしまったがいいタイミングで先生が教室へ入ってきた。
美しく結いあげた髪にすっと伸びた背筋、優雅で気品あふれる所作で教壇へ向かうのは教師のフランソワーズ先生だ。
フランソワーズは教壇へ資料を置くとお手本になるほど美しく微笑んだ。
「皆様、おはようございます。授業を始めますのでご準備をお願い致します」
フランソワーズが来たことでそれぞれが席につき授業が始まる。私に身体を向けていたヴィヴィアンも残念そうに前を向いた。
なんだか先生のおかげで助かったって気がする。
フランソワーズは皆が席についたことを確認すると笑みを湛えたまま私にチラリと視線を向けた。
「本日はこの後、サロンでお茶会を行いますがそこへの参加は補習で呼ばれている方だけに限ります」
まぁそうでしょうね、補習なんだから。
一瞬の間のあと教室内に悲鳴が響き渡った。
「えぇーー!!」
「何故ですか先生!」
「今日だけはお願いします!!だって今日は……」
教室内の殆どの女生徒が立ち上がって抗議を訴え、数人は顔を両手で覆って嘆いているように見える。
皆そんなに補習が受けたいの?
私は驚いてキョロキョロと周りを見ていた。隣に座っているヴィヴィアンは何故か勝ち誇ったように口の端を上げている。
騒然とした中、抑えるようにフランソワーズがそっと手をあげるとピタリと騒ぎが止まった。
「皆様、お静かに。どんなときも淑女というのは優雅さを忘れてはいけません。取り乱すなど以ての外です」
その言葉に我に返った皆が何とか落ち着きを取り戻し席に座り直した。
するとひとりの女生徒が静かに手をあげた。
「フランソワーズ先生、本日の補習には何人の方が出席なさるのですか?」
先生は仕方なさそうにため息をつくと名簿を確認した。
「五名ですわ」
それを聞いた他の生徒がスッと立ち上がった。
「先生、それでは本来の授業にそった内容のお茶会が出来ませんわ。確かあの授業は幾つかの席に挨拶に訪れる主催側の振る舞いを学ぶ場のはず。このままでは一つのテーブルしか用意できません」
「先生それではこれまでの授業を受けてきた者と内容が違います。それは不公平です。幾つかのテーブルをまわるということはそれぞれ違う方々が集まった異なる集団へいかにまんべんなく話題を投げかけるか、という歓待の方法を学ぶということです」
「それがテーブルが一つでは足りないと思います」
「そうです、不公平です!」
何故か真剣に次々と生徒達が先生に意見をしている。
このコースの皆様って積極的だな。
さっきよりは控え目だがまたザワつく生徒達にフランソワーズが仕方なさそうに名簿を教壇へ置いた。
「わかりました。この問題で本日の授業を潰したくはありませんから、特別にあと五名だけお茶会への参加を認めます。ただし選出はこちらから、成績の良い者に上から順番にお声がけし五名に達した時点で決まりです。
以上、もうこの話は終わりにします」
数秒嘆きと歓喜の声が入り乱れその後はどんよりした感じで授業が進められた。
一体なんだったの?




