100 決戦1
馬車へ乗り込み発表がある王城へ向かう。
本来ならアーネストを伴って行くべきだろうけど、彼も来ないし私も呼ばなかった。
城が近づくにつれ少し緊張してきた。何度も剣の鞘を確かめながら息を吐く。
「決戦は何だと思う?」
向かいに座るゴドウィンに緊張を紛らわせようと話しかける。
「マリアナ陛下は奇抜な方では無いですから。順当に考えれば剣による決闘でしょうね」
決戦で一番多く選ばれるのは剣での決闘で、変わった所でいかに自分が王に相応しいか弁論で争うって事もあったらしい。もし弁論だったら私に勝ち目はないかも。イスラは優秀な成績で学院を修了していると聞いている。
「つきます」
エミリオがそう言って馬車の扉を開けて外へ出た。続いてゴドウィンが出ると私も後に続いた。
城の玄関前には既にイスラ達が来ていてた。美しいドレス姿の姉様が婚約者のデズモンドにエスコートされていて、私をチラリと見るとそのまま建物の中へ入っていった。
私も続いて進もうとするとそこに独りたたずむ美男がいた。
「アーネスト……」
来てたのか。まぁ来るか、今日は王が決まる日だ。
グランフェルト領の隊服に身を包んだアーネストが美しい銀髪を揺らせて私に手を差し出す。
「イスラ姉様についていなくていいの?」
ここで意地を張るのも時間の無駄だ。私は素直に彼の手を取った。
「私の婚約者は君だからな」
鍛えられた腕に掴まると並んで歩き出す。淡々と答える彼にイラッとする。
「私が負けるのを間近で見たいのね」
震えているのを悟られないよう前を向いたまま横を見ない。きっと気づいているだろうけど。
向かった先は謁見の間だった。
アーネストは扉の前で待機し、一人で中へ入っていく。そこに王の姿はなく、並んだ二つの玉座の一つに正妃マリアナ陛下が静かに座っていた。
イスラの横に並び立ち礼をとると正妃マリアナが口を開いた。
「昨夜の上位貴族の投票の結果、一位はイスラであったが過半数には達しませんでした。よって法典にのっとり決戦を行います」
疲れた表情の正妃マリアナはじっとイスラを見ているようにみえる。
「当初の予想とは違う結果によりある種の感情を感じますがそれも直ぐに決着がつくでしょう。両者優れた剣豪を円形闘技場へ向かわせなさい」
正妃は私をチラリとだけ見た。なんだか優しく微笑まれた気がしたが気のせいだろうか。
イスラと一緒に謁見の間から出るとアーネストとデズモンドが並んで立っていた。
「決戦はなんだ?」
デズモンドが待ちきれず口を開く。
「剣よ」
それだけ言うとイスラはそのまま立ち止まらず行ってしまい、デズモンドが後を追う。
私も用意された控室へ向かうとアーネストが後をついてくる。
「リアーナ」
「わかってる」
振り向かず答えた。
「貴方はグランフェルトの人よ。ここまででいいわ」
彼を振り切り一人で控室へ戻るとそこにゴドウィン達がいて、私を見るなり尋ねる。
「決戦は?」
「剣よ」
ゴドウィンが大きく息を吸い込み首をまわし準備を始める。彼はバルバロディア領で個人最強と言われている。王立騎士団でも一目置かれる存在だったし、今も腕は鈍っていない。
「ではあちらはアーネスト様ですね」
私は部屋の奥にある窓へ向かうとそこからコロッセオを見下ろした。
「でしょうね、イスラ姉様のジスカールブラド領にゴドウィンより強い剣豪がいるとは聞いたことない。デズモンド様も強いらしいけどアーネストが一番でしょう?」
「私の次に、ですけど」
ゴドウィンは自信満々に答えるが実際はやってみなければわからない。アーネストは魔術では国内屈指の腕だが剣術も相当なものだ。直接対決はしたことがないが熟練の技があるゴドウィンと若手ナンバーワンのアーネストとの対決だ。
「王位がかかってないところでゆっくりと見たかったわ」
こんな見ものを純粋に楽しめない状況に腹立たしささえ感じる。コロッセオの周りはぐるりと観客席で囲まれている。剣闘大会が行われるときは大勢の人でごった返すが今回は神聖な王位がかかった決戦だ。王族やその関係者以外は見学出来ないはず。
「行きましょう」
ゴドウィン達を連れコロッセオへ向かった。
入口に到着すると案内人がいて中へ導かれる。エミリオとサンドロは別の入口から関係者席へ向かった。
ゴドウィンと二人で案内されるまま薄暗い廊下を歩いていた。
「ごめんね、貴方を危険な目にあわせて」
まさか命を落とすまで戦うわけじゃないだろうが一歩間違えば死ぬことだってあるだろう。
「なにを仰います。こういう時の為に最強の私がお側にいるのです。それに」
「それに?」
「いいアドバイスも頂きましたから」
ニヤリと笑うゴドウィン。
「貴方まさか……」
「答えは決戦後に頂けるそうなので、私も負けるわけにはいかんのです」
モテ男の速攻に驚いたよ。母上も何も言ってくれないなんて水くさいな。
驚きがおさまらないが建物から出ると、いよいよ戦いの場である闘技場に足を踏み入れた。
屋根がなく拓かれた空間で、晴天の空が眩しくて目を細めた。遠く向かい側に正妃マリアナが観客席より高い位置に鎮座しその横に母エリザベス。反対側に七番目のイスラの母、王妃ジャンヌがいた。
関係者席にはマクシーネもいて、ゲイルと母親のテレーズがいる。投票ではギリギリ敗退したが結果を見に来たのだろう。
エミリオとサンドロも関係者席にいて、伯父のバルバロディア領主フィンレーも来てくれていたがその隣の……ヴィヴィアン!?どうしてここに?また何か奥の手を使ったのか。両手を胸の前で組み涙ぐんでいるように見える。
ゴドウィンと一緒に正妃の前まで行くと立ち止まってイスラ側の到着を待つ。
後ろからザクザクと二人分の足音が聞こえ近づいてくるのがわかる。心臓が高鳴り呼吸が苦しくなってくる。今度こそ本当にアーネストは私と敵対するのだと思うと身体が震えてくる。
すぐ隣にイスラが並んだ。
顔を横に向けると隣にアーネストが真っ直ぐ前を向いて立っていてこちらを見ようともしない。真剣な気迫がこもったような表情を見ていると胸にナイフを突き立てられたように感じる。
絶対に勝つという気持ちがありありと表されている態度を見て何かがブチっと切れた気がした。
「チッ……」
舌打ちをするとゴドウィンがビクリとした。
「姫様」
口元を動かさず小声で話しかけてくる。
「うるさい」
正妃の御前で余計な振舞いは出来ない。しかも今は武器をたずさえているのだ。下手すれば反抗的だと連行、投獄されてしまう。
「二人揃いましたね。先程言った通り今回の決戦は剣での戦いです。それぞれ戦士を連れてきましたね。勝敗はどちらかが降参したり意識が失われた時、もしくは死亡した時。
ではイスラ、其方の戦士の名を宣言しなさい」
イスラは礼を取るとよく通る声で宣言する。
「私、王女イスラの代わりに戦うは、グランフェルト領アーネスト!」
アーネストは一歩前に出ると正妃に向けて一礼した。正妃マリアナは勿論アーネストが私の婚約者であることは知っているだろう。一瞬目を細めた気がした。
「次に、リアーナ、其方の代わりに戦う者の名を宣言しなさい」
私は礼を取ると高らかに宣言した。
「私、リアーナの戦士は……私、リアーナ!」
しんと静まり返ったアレーナにゴドウィンの声だけがボソッと聞こえた。
「やっぱり……王妃様に殺される」
ゴドウィンのくせによくわかったね。




