第32話 帳簿と行方
洞窟を出て、木にもたれかかって寝ているレイヴンを回収。
そのまま、スラムへと戻っていった。
なお、レイヴンは寝たままで、リーネによって浮かされた状態で運ばれた。
それを見て、子どもたちが大はしゃぎをしていたのは言うまでもない。
「本当にありがとうございます。無事に帰ってこれました……」
孤児院にたどり着くと、涙ながらに中へ走っていく子どもたち。
アリアがリーネと起きたレイヴンに深々と頭を下げた。
「友だちを助けに行っただけですから」
「……はい!」
「それよりも、もうちょっと子どもたちのそばにいてあげた方がいいですよ」
「はい。わかっています……リーネ様たちはこれからどうするのですか? せめてものお礼にご馳走でもいかがですか?」
「それはいいですね。是非に……と言いたいところなのですが……ちょっとやることがありまして」
「やること……ですか?」
「少し調べたいことがありますので」
リーネはちらりと振り返って、レイヴンに目を向けた。
「調べたいことですか?」
「ええ、それほど遅くはならないと思いますので、ご馳走を用意して待っていてください」
期待していますよ。そう言うと、リーネはアリアに軽く手を振って、孤児院を後にした。
「さて、行きましょうか」
「ああ、あの洞窟を調べるんだろう?」
「おや、よくおわかりで」
「スラムの人さらい、何かしら行方不明事件に関わっていると考えるのは自然な流れだからね」
「ですね。何かしらの組織が関わっている可能性もありますし、隠蔽が入る前に自分で調べるほうが確実ですからね」
「何かしらの組織……か」
「ええ、何が敵でもおかしくはないですからね」
リーネとレイヴンは再び洞窟へと戻った。
人さらいたちが酒盛りしていた広間から、アリアたちが囚われていた牢屋とは別方向へと進んでいく。
「おっと、こちらにも囚われのものがありましたか」
「今度は人じゃないけれどね」
見えてきたのは、再び檻のようなもの。
しかし、その中には人ではなく、金塊や宝石などが入っていた。
「人さらいたちのお宝部屋というところでしょうか」
リーネは何事もないように、扉に手をかけて金属の檻を開けた。
「どうです? お宝に興味は?」
「ないなあ、どこかから盗まれたものとか考えると、気分が悪くなるからね」
「そうですね……ああ、じゃあ、迷惑料ということで、アリアたちに寄付でもしましょうか」
「受け取るかな?」
「カルド商会を通せば大丈夫でしょう。うまいことやらせましょう」
「なるほどね」
二人は会話をしながらも、部屋の中を漁る。
金銀財宝は目当てではない。二人の目的のものは他にあった。
「おっと、これかな? 見つけたよ」
レイヴンが箱の中から、紙の束を取り出した。
「そっちでしたか、ええ、確かに……あるとは思っていましたが、本当にありましたね」
「ああ、なにせやつらも商売だからね。記録は残しているだろうとは思ったよ」
二人が見つけた書類には、人の名前と見た目、年齢、売り先などが細かく記されていた。
つまり、これは人さらいたちの帳簿だったのだ。
「ふむ、結構な割合で活動していたみたいですね」
「定期的に活動……売り先も色々だなぁ」
「ちらほらと見たことのある名前があるのに闇を感じますね」
「うちの名前は……さすがにないか」
「うちもですね」
人を買った側の中には、貴族や有力者の名前もあった。
「これを国に提出したら、大変なことになりますよね」
「どうだろうね? もみ消されておしまいかもしれないよ」
「それはそれで闇ですね……と? おや?」
「どうかしたのかい?」
「ふむ、これを見てください」
リーネが指さした先には、一人の男の名前が記されていた。
「ローガン……聞いたことあるね」
「アリアから聞いた神父の名前です」
「そうか……さらわれていたのか……」
「ようやく、手がかりがみつかりましたか、それで売り先は……うん?」
売り先を見て、リーネは眉をひそめた。
「……死神教団?」
「死神……教会じゃなくて、教団かい?」
「ええ、教会ではないですね。聞いたことは?」
「確か……死神を崇めるっていうカルト教団だったかな……? 他国では結構有名だけど、まさかこの国にも入ってきていたってことかな?」
「他国に輸出していた可能性もありますが、まあ、そんな面倒なことはしないでしょうね」
そうなるとだ……
「その死神教団とやらについて調べてみる必要がありますね」
リーネは楽しそうに笑ったのだった。
これにて第三幕 スラム調査編は終幕となります。
第四幕については、少し間が開きます。




