第20話 服屋とオネェ
「ほ、本当に私がここに入ってよいのでしょうか……」
リーネの手を握りしめながら、アリアは不安そうに目の前の建物を見上げた。
「別に普通の商店です。気にすることはありませんよ」
そう、アリアが見上げているのは、王都の中にある服を中心に扱う商店だった。
ちなみに、リーネも普段から利用している店ではあるが、特に高級なものを扱っているわけではない。
「もっと高級店の方が良ければレイヴン様にご紹介してもらいましょうか?」
「うん、うちで使っている商会はここから少し遠いけど、案内はできるよ」
「そ、そんな! ここで大丈夫です!」
レイヴンの言葉にアリアは慌てて首を振った。
「そうですか? では、入りましょうか」
「はい……」
リーネがアリアの手を引いたことでアリアも諦めたようだ。
「僕は……」
「レイヴン様も行くんですよ」
「了解した……」
ちなみにここは女性向けの店。レイヴンにとっては居心地が悪いだろう。
しかし、レイヴンは他にも役割があるから、二人と離れるわけにはいかないというのもある。
それをわかっていて、リーネはにやりと笑って言ってやったのだ。
「いらっしゃーい。あらぁ、リーネちゃんじゃないのぉ」
店に入ると、店員がリーネに早速かけよってきた。
「最近来てくれなくて寂しかったわぁ」
くねくねと身を捩らせながら、話しかけてくるオネェ言葉の筋骨隆々な男性。
ハートのエプロンが妙に似合っている。
「お久しぶりです。マルコさん。最近ちょっと忙しかったんです」
「あらあら、そうなのねぇん。まあ、今日はゆっくりしていってねぇん」
「ええ、もっとも今日は私の買い物ではありませんけど」
「あらあら、そうなのぉ? ということはひょっとすると、そちらのお友だちかしら?」
マルコはリーネの隣にいるアリア、そして、後ろで俯いているレイヴンを見て言った。
なお、レイヴンを見た瞬間、目がキラリと光ったのをリーネは見逃さなかった。
「ええ、友人とまぁ、友人ですね。マルコがレイヴン様に興味があるのはわかりますが、レイヴン様はおまけです」
「あらぁ、そうなのねぇ。それじゃあ、そっちの子の買い物かしら?」
じろりとアリアを見つめるマルコ。見られたアリアは少しビクッとしたあと、一歩前に出た。
「あ、アリアと申します。リーネ様にはお世話になっております」
「アリアちゃんねぇ。私はマルコよぉ。よろしくぅ」
マルコはにこやかにアリアに手を差し出した。
「あ、はい。よろしくお願いします」
アリアは緊張しながらも、マルコと握手を交わした。
「今日はこの子の服を見繕ってほしいんですけど」
「それならお安い御用よ! ふふっ、素材は良さそう! この子を好きにしちゃっていいのねぇ?」
「えぇ、お願いします」
「任されたわぁ。それじゃあ、アリアちゃん、こっちにいらっしゃーい」
「は、はい……」
不安そうにリーネを見た後、アリアはマルコに促されて店の奥へと歩いていった。
「ふふっ、いい反応が見れましたね」
「知ってはいたが、さすがに驚くな……」
「あれでも立派な貴族家の人間ですからね」
あのマルコ。フルネームではマルコ・ユランシエルという名前だ。
その名の通り、ユランシエル伯爵家の出身者で、現在の当主との関係は弟にあたる。
ちなみに、リーネの友人である、ノエラとの関係は叔父となる。
なお、それを本人に言うと、
「私は叔母よぉ」
なんて返ってくる。つまり、そういうことである。
「それはそうと、レイヴン様、気がついていますか?」
リーネは少し口を小さくして、レイヴンに問いかけた。
「ああ、確かに……スラムを出た時辺りから我々……いや、アリア嬢への視線が増えた気がするな。敵意というほどではないが」
「そうですか。つまり、餌としては機能しているってところですかね」
そう、リーネは無駄にアリアを買い物に誘ったわけではない。
そこには単に遊ぶだけではなく、きちんと目的があった。
昨日のことだった。
「アリア嬢を餌に? どういうことだい?」
レイヴンはリーネの言葉に首をかしげた。
「単刀直入に言いますと、私としては、カルド商会が神父の行方不明に関与しているのでは? と思っています」
「カルド商会? ああ、あのスラムで教会に支援をしている商会かい?」
「ええ、そうです。簡単に言えば、アリアを狙っているのでは? ということですね」
「あー、アリア嬢は確かに器量が良いし、そういう意味で狙われていてもおかしくはないかもね……」
「まあ、もちろん、根拠はありませんけどね。 ただ、商会が教会に支援をしている理由もよくわかりませんし。現状の可能性としては一番高いのではないかと」
「確かに、アリア嬢を狙っていたとしたら、神父は邪魔になるか……理由はあるってことだね」
「そういうことです」
「それで、アリア嬢を餌にするっていうのは?」
「ええ、王都の中をアリアと一緒に歩いて、敵をおびき出すみたいなイメージのことができればと」
「狙っているものがいるのではあれば、それもありえるか……なるほどね。だけど、そんなにうまくいくかな?」
「まあ、駄目で元々です。私はアリアと買い物できればそれで満足ですし」
「……それが目的ってことか」
レイヴンの言葉にリーネはにっこりと笑って返すのだった。
そうして、現在、アリアを連れて王都の商店街へとやってきたのだ。
「考えたんだが、アリア嬢の服を変えても、今度は別の視線が飛んでくるだけじゃないか?」
真っ先に服を買いに来たのは、シスター服であるアリアがそのせいで目立ったからだ。
「ええ、そうかもしれませんね。かわいい女の子二人が歩いていて視線を向けるのは罪ではありませんからね」
「今、ナチュラルに自分も含めたね」
「ええ、その二人を守るのが、騎士のあなたの仕事ですよ。役得と思ってがんばってくださいね」
「……はぁ……了解したよ」
あまりにも他人事なリーネの言葉に、レイヴンはため息をついたのだった。




