第21話 デートと香水
「できたわぁん」
しばらく待つと、マルコがアリアを連れて戻ってきた。
「可愛くなったわよぉん」
マルコに促されて、リーネとレイヴンの前に立ったアリアは、シスター服ではなかった。
「ふむ、印象そのままにさらに洗練されたという感じでしょうか」
冷静に評価するリーネ。
「ほぅ、これはまた随分と……」
レイヴンは思わず息を漏らしていた。
「い、いいのでしょうか、私なんかがこんな綺麗な服……」
アリアは恥ずかしそうに顔を赤らめている。
「どこからどう見ても似合っていますね」
「ええ、どう見ても、お忍びの貴族にしか見えません」
アリアの服装は、シスター服から一転して、淡いピンク色のワンピースに白いカーディガン、そして、リボンで髪を結んだ清楚な女性の服装になっていた。
元々あった品性がさらに引き立っていて、レイヴンの言う通り、貴族がお忍びで庶民の振りをしているようにしか見えなかった。
「テーマは初めての普通の女の子よん」
マルコが満面の笑みでそう言った。
「なるほど、いいんじゃないでしょうか。正直、私よりも女の子してますね」
ちなみに、リーネはいつもの制服姿だ。
私服を持っていないわけではないが、もう随分と着ていない。
「私の自信作だもの。さあて、次はリーネちゃんよぉ」
マルコがリーネにぎょろりと視線を向けた。
「私は遠慮……と言いたいところですがね、まあ、どうせ言っても無駄でしょう」
ため息をついたリーネに、レイヴンが驚いたような目を向けてきた。
リーネがこんなにあっさりと折れたのが珍しかったのだろう。
「面倒なことはすぐにすませるほうが結果的にいいこともあるんです」
そんなレイヴンにリーネは一言添えて、マルコに促されて店の奥へと歩いていくのだった。
一時間後。
「わぁ……」
リーネとアリア、ついでにレイヴンは近くにある雑貨屋店に来ていた。
マルコがリーネのために選んだ服は、アリアとおそろいの色違いのワンピースだった。
おそろいの服になった二人が仲が良いことは一目でわかるようになっている。
ちなみに、そんな二人の後ろをレイヴンがついてまわっているという状況だ。
女性向けの雑貨店ということもあり、レイヴンが居心地が悪そうにしているのが、振り返るまでもなくわかる。
「なにか気になるものでもありましたか?」
そんなレイヴンを気にすることなく、リーネはアリアに問いかけた。
「あ、いえ……なんでもありません」
すぐにアリアは首を振った。しかし、リーネはその前にアリアが見ていたものを見逃さなかった。
「香水ですか?」
アリアがちらりと見ていた棚には、色とりどりの香水瓶が並んでいた。
「はい……あの、綺麗な瓶だなって……」
アリアは少し恥ずかしそうに視線をそらした。
「欲しいのでしょう?」
「い、いえ! 私、シスターですし、こういうのは……」
「シスターは香水を使ってはいけないのですか?」
リーネの問いかけに、アリアは言葉に詰まった。
「そういうわけでは……ないのですが……」
「でしたら、問題ありませんね……ふむ……」
リーネはアリアをじっと見つめたあとに、にやりと笑った。
「これですかね?」
そして棚の中から、一つの香水瓶を取り出した。
「あ、それは……」
「アリアはわかりやすくて助かります」
目線をそらしたつもりでも、ちらりちらりとその香水に目がいっていたのだ。
「ふむ、確かに、いい香りですね。アリアに似合いそうです」
「え……本当ですか?」
アリアの表情がぱっと明るくなった。
「では、これを買いましょう」
「だ、ダメです! 私、お金を……」
「プレゼントですよ」
「プレゼント!? そんな、受け取れません!」
「どうしてですか? 私たちは友だちでしょう?」
リーネの言葉に、アリアは黙り込んだ。
「それとも、レイヴン様からの方がよかったですか?」
リーネはにやりと笑って後ろにいるレイヴンを見た。
「うん? なんだい?」
レイヴンがわざとらしく首をかしげた。
「い、いえ! それはもっと駄目です!」
アリアはそれを見て、ブンブンと首を振った。
「では、私が買いますね」
言うが早いが、リーネは香水を手にしてさっさとレジへ行き買ってから、香水瓶をアリアに手渡した。
「……ありがとうございます。大切にします」
アリアは嬉しそうに香水瓶を見つめている。その表情は、まるで宝物を手にした子どものようだった。
(まあ、餌にした代金ということで)
誰にともなく、心の中でそう呟いたリーネ。
アリアの喜ぶ顔を見て、顔がほころんでいる自分には当然気がついていたのだった。




