第22話 遺体と魂石
「ふむ、濃厚な死の気配。これは無理ですね」
リーネも倒れたクレインを確認したが、やはり彼の息はもう止まっていた。
「残念ながらなんでもできる死神でも、死の運命を覆すことはできないんですよ」
見下ろすリーネの表情は少し残念そうだった。
「おかげで軽々と実験できないんですよね……」
人が死んで悲しんでいるわけではなく、あくまでも実験ができないことに対しての不満らしい。当然だ。彼女に悲しみの感情はないのだから。
「……っ……はぁ……」
リーネのあまりに的外れな言葉に、レイヴンはピクリと反応した後、深い溜息をついた。
大げさに肩を落としてクレインの遺体を見る。
「しかし、まさかクレイン氏が襲われるとはな……」
「何者でしょうか? 暗殺者のような風貌をしていましたけれど」
黒い服装に、顔を隠すようなマスク。物語から出てきたかのような姿だ。
(あんなのじゃ逆に目立つでしょうに)
「そのまま暗殺者だろう。僕も詳しくは知らないが、王国には暗殺者ギルドなるものがあるという話を聞いたことがある」
「へぇ、そんなものがあるんですね」
平和な王国の闇の部分だ。
貴族であるレイヴンがその存在を知っているということが、まさに闇の部分だ。
(レイヴン様もスパイですし、実はさほど変わらないのかもしれませんね)
そう考えると暗殺ギルドなんてものがあっても不思議ではない。
「しかし、どうしたものか、これで手がかりを失ってしまったぞ」
何か知っていそうな人物を失ってしまった。これで話は振り出しに戻ってしまった……わけはない。
「いやいや、そんなことはありませんよ。むしろ、これで好都合です」
リーネは薄ら笑って、クレインの遺体を見下ろすとそう言った。
「あなたの目の前にいる存在がなんだか忘れていませんか?」
そう、リーネは死神。
「今ならまだ彼から話を聞くことができますからね」
死者の扱いについてのプロフェッショナルなのだから。
「死神が死者の声まで聞けるなんて聞いたことがないぞ」
どこか心配そうに離れて見守るレイヴン。その前でリーネは黒いローブをつけた死神姿になった。
「他の死神のことは知りませんが。私にはできるみたいです」
なぜなんて説明はできない。できるものはできる。死神になった時に、そういう能力が身についたというだけだ。
「リーネ嬢特有の能力ということかな? 死神にはそれぞれ個別に能力があるらしいが」
「ああ、多分、それですね」
もちろん、確証なんてないが。
他の死神にでも聞いてみたいところではあるが、残念ながらこの王都ではリーネしかいないので会うことはできない。
「まあ、死神の中でも地味な能力でしょうね」
ただ声が聞こえるだけ。できるのは心残りを聞くようなことだけだ。
(しかし、これはこれで使い道はあります)
むしろリーネとしては、ストレートにその人の感情を聞くことができるので好都合な能力だ。
「さて、では……」
リーネはおもむろに背中の大鎌を取り出すと、クレインの遺体に向けて振りかぶった。
「あなたの死神の祝福を……」
「何を!?」
レイヴンが驚いて声を上げたが、リーネは気にせずに大鎌を振り下ろした。
クレインの遺体から煙が吹き出し、魂石だけが残った。
「声を聞くためには、魂石が必要ですからね」
「……先に言っておいてほしかったよ。後で説明が大変だ……」
レイヴンからしてみたら、死体が消えてしまったということになるのだろう。確かにギルドや国に報告するのは大変そうだ。
(どう言い訳するのでしょうね)
「まあ、その辺りは頑張ってください。魂石さえあればどうにかなるでしょう」
そんなレイヴンの後の苦労など知ったことではないリーネは魂石を持ち上げ、手で弄ぶ。




