第23話 魂石と声
「おー、おー、聞こえますね。随分と未練があるようで」
リーネは魂石を耳にあて嬉しそうに言った。
「死者の声か……どういう感じなんだ?」
「おや、興味がおありですか? えー、そうですね。一言で言えば、世界を呪っているような感じでしょうか」
事実、魂石から聞こえてくるクレインの声は、自分の運命を呪うようなものだった。
「ほうほう、なるほど、それで?」
怨嗟の声を聞きながら、しかし、リーネは涼しい顔でその声の内容を聞き取っていく。
「会話できるのか?」
「いえ? できませんが? どうもこっちの声は聞こえていないようですね」
「それで知りたい情報は知れるのか?」
「なんとなくわかりますよ。聞こえてくるのは彼の後悔のようなものですからね」
もちろん、聞こえてくるのはすべてではない。自分が後悔していることや怒っていること、呪っていること、そういう生前に強く記憶に残ったことだけが聞こえてくる。
「なるほど……それだったらリーネ嬢の目的は果たせるわけか」
「ええ、そうですね。あ、ちょうど、襲われたときの状況とかも聞こえてきましたよ。どうやら、レイヴン様の予想の通り、暗殺ギルドから派遣されたと名乗ったそうです」
暗殺者が自分でそう名乗るのは滑稽だが、死に行くものへの礼儀でもあったのだろうか。少しリーネは笑ってしまった。
(随分と律儀な暗殺者もいたものです)
「大丈夫か?」
思わず笑いが漏れたリーネを見て、レイヴンが心配そうに尋ねてきた。
「ええ、おっと、どうやら、暗殺者は叔父から依頼されたそうですね」
この暗殺者、情報を漏らしすぎである。まさかこんな形で漏れるとは思わなかったのだろうが。
「なるほど、その理由もわかったのか?」
「ええ、案の定というところですかね」
リーネの予想はほぼ全てが的中していた。
「レイヴン様を拒否したのも、叔父の差し金と疑っていたようですね。どうやら処分される前兆を感じていたみたいです」
「処分か……」
叔父からしてみれば、秘密を知っているクレイン氏は邪魔な存在だったのだろう。
忍び込んだ時にクビにするみたいなことを言っていたが、あの時からこの流れを考えていたのかもしれない。
(文字通り首を切られた……いえ、それは直前でレイヴン様が止めたんでしたね。残念でした)
「ふむ、おおよそ知りたことは知れましたね」
しばらくした後、リーネはそう言って立ち上がった。
「それでこれからどうする? 君の叔父が関与していたことは確定したんだろう?」
「ええ、私としては事件の真相は掴めましたが。逆に聞きますが、これでいいんですか?」
「というと?」
「だって、私が嘘を言っている可能性だってあるわけですよ? 魂石から声が聞こえるなんてただのでっち上げや妄想の可能性だってある」
そう、あくまでもリーネが知っただけで、証拠にはなっていないのだ。
「ああ、そういうことか」
レイヴンはそれを聞いて納得したように頷いた。
「そもそもの話だが、君が叔父を追求するのに証拠など必要ない」
「そうなんですか?」
「ああ、だって君は死神だからね。そもそも何をしようと誰も文句を言えないんだ」
「わぁ、とんでもない特権ですね」
今すぐ断罪してもいいなんて軽く思っていたが、それが本当に可能なのは少し驚いた。
(まあ、仮に駄目でも場合によっては私はやりますけどね)
「単純に君が今からその叔父を断罪したとしても、お小言は入るかもしれないが、逆にそれだけで終わる」
もっとも僕の方は大変だが、とレイヴンは困ったように言う。
「ふむ、そういうものですが……」
(それはそれで見たい気もしますが)
改めて許可を得たリーネは少し考える。
これからどうしたものか……
「よし、決めましたよ。今度はこちらから行きましょうか」
「叔父のところに攻め込むのかい?」
困るという表情を隠すことなく、レイヴンは尋ねてきた。
「いえ、攻め込むのは別のところです」
それに対して、リーネは首を横に振った。
「私たちが今から行くところは……」
「……はぁ!?」
リーネが口にした場所を聞いて、レイヴンは開いた口が塞がらなくなった。
§
数時間後、王国のスラムの一角にある廃倉庫で巨大な爆発音がした。
「何があった!?」
中にいた四人の男がパニックになりながら、音がした方向を見た。
その方向には扉があったが、今は吹き飛んでなくなっている。
そして、一人のローブを被った怪しげな人間が立っていた。
「こんにちは。暗殺者ギルドの皆さんですね? あなた達に死をお届けに来ましたよ」
ふらふらと中へ入ってきながらその人物は笑うようにそう言った。




