新たな切り札
「あ……れ?」
リターンで戻った明日斗は、ゲートの内部に光が灯っていることに気がついた。
その光は絶えず動き、点滅を繰り返している。
視ようと思えば明るく見え、視ようとしなければ薄くなる。
「ん、どうした?」
「なんか、目がおかしくなったのか、やけにチカチカする」
目の異常か。明日斗は瞼をこする。
だが、光はなくならない。
「昨日の疲れがたまってんじゃねぇのか?」
「いや、それはない」
明日斗はすぐに否定する。
なぜなら先ほどまで、明日斗は何度もオークを倒し続けていたからだ。
その時にはこのような光は浮かんでいなかった。
(〈リターン〉に不具合でも出たのか?)
ステータスを開き、確認する。
するとすぐさま、魔眼アップグレードのポップアップが目に入った。
(これか!)
看破の魔眼が変化するとは、完全に予想外だ。
その条件が百度死に触れること。
この条件を達成出来る者が明日斗以外にいるとは思えない。
つまり、この〈可死の魔眼〉は実質明日斗専用のスキルということになる。
○可死の魔眼
説明:生死の流れを看破するスキル。相手の命脈を看破することで、どのような〝物〟をも断てるようになる。
(……つまり、急所が覗き放題ってこと?)
とてつもないスキルになったものだ。
この説明を素直に受け取れば、レジェンドスキルに匹敵する性能だ。
かといって、このまま素直には受け取れない。
いい話には、裏があるものだ。
長年底辺を這いずり回った明日斗は、この手のものへの警戒感が強かった。
(何度うまい話に騙されたことか)
ちらり、明日斗はアミィを見る。
その体にも、うっすらと光が灯っていた。
(……もしかして、あの線を斬れば)
今すぐ試してみたい。
だが、万一上手くいってアミィを殺した場合、どうなるかがまるで想像も付かない。
下手をすれば、ハンターの能力そのものを失う可能性がある。
なぜならハンタースキルは、天使の出現とともに覚醒するからだ。
ハンターとして覚醒するから天使が見えるのか、はたまた天使が現われるから覚醒するのか。
万一後者だとすれば、アミィを斬ったあとあらゆるスキルが消えて、〈リターン〉で過去に戻れなくなる。
可死の魔眼の効果を、天使で試すべきではなさそうだ。
(効果は追々調べればいいか)
明日斗は一旦疑問を棚上げし、ゴールドショップをチェックする。
その中から、現在最も最適と思われる武器を見つけ出す。
○黒鋼の短剣
攻撃力:24
説明:黒い鋼で作られた短剣。初級素材を使った武器としては最高峰の攻撃力を持つ。
使用条件:初級短剣術Lv4
現在購入出来る武器の中で、もっとも性能が良い『黒鋼の短剣』を購入。
カートから取り出して、使い勝手を確認する。
(少し重いが、問題ないな)
逆にいえば、前まで使っていた短剣が軽すぎたのだ。
その重みは信頼の証だ。
これならば戦闘中に武器が壊れることもない。
早速、ゲートの奥から練習相手がやってきた。
明日斗は柄を軽く握り、一気に地面を踏み込んだ。
たった一歩で、十メートルの間を詰める。
オークが慌てたように棍棒を構えるが、遅い。
明日斗は短剣でオークの横っ腹――光のある場所を撫でた。
「――ッ!?」
手応えが、ほとんどない。
ミスったか。
明日斗は体を返してバックステップ。
相手の出方を待つ。
オークはゆっくりと振り返った。
その目にはまだ強い闘志が浮かんでいる。
しかし――、
「ッ――!?」
突如胴体が音もなく、真っ二つに分かれて地面に転がった。
「なな、なんだこれは! お前、一体何をしやがったんだ!?」
「……いや、わからない」
「嘘をつくな!」
「嘘じゃない」
実際攻撃した明日斗も、上手く事態を飲み込めていなかった。
明日斗は先ほど〈可死の魔眼〉を通して見えた、光のある場所を。
その結果が、これだ。
(まさかこんなに凄いスキルだとは思わなかった……)
無論、新たに手に入れた武器が、とても良い性能だったことも要因の一つではあるだろう。
だが一番は間違いなく、〈可死の魔眼〉の効果だ。
「オイラは魔物の胴体があんな別れ方をしたのを初めて見たぞ! 一体どんなズルをしやがったんだお前!」
「……さっき、短剣術が中級になったんだ」
「いやそれだけじゃ無理だろ」
「武器も更新しただろ。スキルと武器の両方がかみ合ったから、この結果になったんじゃないか?」
「それで、これか? ……エグいな」
スキルや武器が、実戦でどれくらいの威力が出るのかを知らないのか。明日斗の怪しげな説明に、アミィが納得した様子を見せた。
(これ以上追及されなくてよかった)
明日斗は内心胸をなで下ろした。
購入型のスキルや武器は基本的に、天使に筒抜けになる。
彼らはカートに入ったものが見えるからだ。
しかし〈可死の魔眼〉は、ステータス上でアップグレードしたスキルだ。
アミィはステータスが見られないため、〈リターン〉と同様に認知していない。
認知されていないスキルは、対天使の切り札だ。
〈リターン〉と併せて、気づかれぬようにするべきだ。
新たな短剣を体の一部にすべく、明日斗は戦いながら奥へと進んでいく。
ステータスは既にBランク近い。おまけに、なぞれば即致命傷になる光が見える〈可死の魔眼〉もある。
明日斗にとって、オークはもはやたいした相手ではなかった。
すべてのオークを倒し終えた明日斗は、ボス部屋の前で呼吸を整える。
「化け物め。短期間でどんだけ強くなるんだ」




