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命をなげうつ覚悟

「……なるほど、そういうことか」


(やはり、頭の回転が速い)


 小さなヒントから答えを導き出す明晰な頭脳は厄介だ。

 嘘をついても簡単に暴かれる。


 しかし今回、明日斗は嘘をついていない。

 その回転の速さを利用して、真実であるように思い込ませたのだ。


「だからお前は、ゲートが出現する前にあの丘で待機してたんだな。ってことは、こんなに早く起きたのは、ゲート目当てか」

「ああ」


 これからとあるゲートに向かう。

 もしそのゲートの出現に立ち会うことになれば、アミィは必ず明日斗を疑う。

 偶然という言い訳は、もはや通用するまい。


 ならばと明日斗は先手を打ち、〈リターン〉ではない、別の能力があるかのように勘違いをさせた。


 アミィはステータスが見られない。

 だから明日斗が〝嘘は言っていないが、真実も言ってない〟ことに気がつくことが出来ない。


(これで、準備は万全だ)


 御茶ノ水にあるとある広場にやってきた。


 ここは江戸時代、お寺の境内から綺麗な水が湧き出ており、これを将軍にお茶用の水として献上したことから、その名が付いた。

 現代においても水が湧く場所があるが、当時と同じ味かどうかは不明である。


 目の前を流れる神田川を眺めながら、明日斗はその時を待った。

 広場に着いてから、一時間が経過した頃だった。


「……きた」


 空間が歪み、ゲートが出現した。

 そのサイズは、人が横に五人並んで入れるレベルだ。


「こりゃ、すげぇ高いランクのゲートが出たな。本当に行くのか?」

「もちろん、行くさ」

「お前のレベルじゃ死ぬだけだと思うぜ?」

「死んでも成すべきことがあるんだ」


 今回、神咲の人生に迂闊に足を踏み入れたせいで、本来あるべき未来が大幅に変化した。


 良い変化ならば問題なかった。


 だが実際に出来たことは、オオカミの入れ墨集団から神咲の純潔を守ったくらい。

 彼女の夢は砕かれ、母親は未だ昏睡したままだ。

 最悪、今回介入したことで将来ランカーになる可能性すらも消してしまった可能性さえある。


(このままでは、終われない)


 神咲の力は、将来必ず必要になる。

 だから明日斗は、最低でも彼女を元のランカールートに乗せなくてはならない。

 その上で、最良の未来をつかみ取るのだ。


 ハンター協会にゲート出現の報告を行う。

 職員が現われ、権利が確定すると同時に、明日斗はゲートに足を踏み入れた。


 ゲートに入るとすぐに、魔物の気配を感じた。

 記憶によるとここは、Bランクのボス討伐型ゲートだ。


 今の明日斗の実力では、クリア可能な難易度ではない。

 ――あくまで、今の明日斗ならば、の話だ。



>>メモリポイントを上書きしました。

・ポイントA 2030年4月5日12:00

・ポイントB 2030年4月8日03:37 NEW


 メモリポイントをしっかり上書きし、走り出した。


 通路の向こうから現われたのは、明日斗よりも二回り以上大きな人型の魔物――オークだった。

 体は丸くずんぐりむっくりして見えるが、侮ってはいけない。

 あの丸い体型はほとんどが筋肉だ。


 防具もない明日斗は、一撃でも食らえば死ぬ。

 だがそれは、これまでも同じ。


「シッ!!」


 勢いよく短剣を突き出した。

 オークの体に突き刺さるも、浅い。

 慌てずバックステップ。

 刹那、眼前を何かが通り過ぎた。

 オークの棍棒だ。


 万一回避が遅れていれば、今頃明日斗の頭は地面に落ちたスイカのように弾けていたに違いない。

 棍棒が残した風圧が、その威力の高さを物語っている。


 ――だからなんだ!


 明日斗は足を使い、オークを攪乱する。

 斬って、突いて、殴って、蹴って。

 フェイント、回避、一撃必殺。


 明日斗の攻撃が、やっと急所に到達した。

 だが、まだ殺すには至らない。


(さすがBランクのモンスターだ……)


 殴打や蹴りを用いたが、まるで大木を攻撃したような手応えが返ってくる。

 ちっとも通じた気がしない。


 Dランクだったリザードマンとはまるで手応えが違う。

 それも、無理はない。


 ランクは一つ上がる毎に、戦闘能力が十倍近く膨れ上がるのだ。

 おまけに現在、ここには神咲がいない。〈大征伐〉バフがないため、リザードマンの時のようには戦えない。


 ――それがどうした!!


 明日斗はいつだって、戦いたかった。

 だがずっと戦えなかった。

 戦うチャンスすら与えられなかった。


 それがどうだ。

 今は、自由に戦えるじゃないか!

 どんなに高いハードルだろうと、自由に立ち向かうことが出来る。

 目の前に分厚い壁があるのなら、砕けるまで殴り続ける自由がある!


 再び急接近、相手の攻撃の勢いに、合わせる。

 紙一重で棍棒を回避。

 風圧が、三半規管を揺さぶった。

 だが、


 ――ザクッ!!


 明日斗の短剣が、今度こそ胸の奥まで深々と突き刺さった。


 自分の力だけで足りないのなら、相手の力を利用する、カウンターが綺麗に決まった。

 巨大な体躯が、音を立てて地面に倒れ込んだ。


「はぁ……はぁ……」


 呼吸が熱い。

 たった一分そこそこの戦闘だというのに、これまでにないほど体力を消耗している。

 より大きく、力強く動いているせいだ。


 しかし呼吸を整える暇はなさそうだ。

 周りにはすでに、オークの新手が現われている。


「いいさ」


 ――命が欲しければくれてやる。

 ――ただし、勝つのは俺だ。


「うおおおおおおお!!」


 獣のような雄叫びを上げ、オークに挑みかかった。



>>条件:スキル主の死亡を確認

>>スキル:〈リターン〉が発動

>>メモリポイントBにて復帰します


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