天使な婚約者は完璧である
美琴は思う。
「良い子」の規定は分からないが、「完璧」の規定は分かる。
目の前に居る彼女に言った所でそれを全て否定するだろう。だが目の前で2年生時にするはずの勉強を取り込んでいる彼女を見れば「完璧」の範囲内にいる事は分かる。
数分前、お風呂上がり、リビングに入ったら勉強をしている桜木優姫の姿を見てピシッと体が硬直したが、やっと意識が戻った。
「、、、、あのさ、優姫、何やってんの?」
「ぁ、美琴君。勉強です、生徒会の先輩から使わなくなった教科書を貰ったので」
「へー、、、、2年生の勉強って、まだ半年も近く2年生になるまで時間あるのに良くやるな」
「変でしょうか?早く勉強範囲を知っておきたいので」
と、至極真っ当に言う純粋無垢な彼女の顔を見て仕舞えば、「それはそうなんだが」と思いながら黙ってしまった。
だが、美琴は「良い子」と言う事に囚われて勉強をしているんではないか、と思ってしまっている部分がある。今日の彼女を見て仕舞えば思ってしまう事に悪気などない。
そんな事を素直に消えるか、と言われて仕舞えば違うのだが聞いてしまいたいと言う気持ちがある美琴は対面になる様に椅子に座る。
「優姫ってさ、めんどくさがり屋だろ?」
「?、はい、そうですけど、それがどうかなさいましたか?」
「いや、そのさ。勉強とか運動?あとは家事は好きなのか?」
「、、、、そう言う質問ですか。嫌いではないです、寧ろ好きですね」
「マジ?、、、、なんか凄いな」
「そうですか?美琴君はテストの成績も運動神経も良いと見受けられますが」
「それは普通に出来るだけだし好きって言われたら微妙と言うか」
出来ると好きは全くの別物として捉えている美琴は、生まれ付き得意分野ではあった勉学や運動を好きだとは思った事はないが苦手や嫌いとは思った事はなかった。
寧ろ勉学を好きだと言っている人間をあまり見た事がない為か優姫の言葉に驚きさえあった。
彼女の好きと言う言葉が本心かと疑ってしまっているのは、演じて来た姿を見てしまったからだろう。
「ぁ、信じてませんね?ちゃんと理由はありますからね」
「なら、教えてくれよ」
「良いですよ。ちゃんと目に見て良くなってるのが分かるからなんです」
「?、どう言う事だ?」
「テストの結果と言えば良いでしょうか。定期的に行う事で前回よりもテスト結果が良かったとか悪かったと言うのが目を見て確認出来るから好きなんです」
「、、、、へー」
「信じてないですね?」
「いや、信じてる信じてる」
ただ、美琴にとってはちょっと別次元の話過ぎただけだった。
目に見えて実感出来るって言うのは何となく理解は出来る、絵だってそうだろう。数年前の絵より現在の絵の方が上手くなっているって言うのは絵として分かる。
だがその理由で勉学や運動が好きと言うケースはレア中のレアだった。
「良い子」にこだわりを持っていて、「良い子」に囚われていた彼女だったが、どれだけ自分が「完璧」なのかをイマイチ理解をしてない。
「料理も好きですね。練習すれば腕を上げて美味しく作れますから」
「大変とか疲れるとか思わないのか?いくら好きだからって」
「そうですね、思った事は特にないですね。それに好きって気持ちには変わりがないので」
「なんか、変な所で隙がないよな、優姫って」
「?、そうでしょうか。良く分かりませんが」
「分かんなくて良いっての。まぁでも、そんな優姫から好意を向けられてる俺の方も隙があるんだろうが」
そう言いながら話を変えようと思いソファから立ち上がり冷蔵庫から麦茶を取り出しコップに注ぐ美琴。
隙がある自覚はあるのだろうが、好意を向ける事に関しては人の自由なので強くは言えないのだろう。
それを聞いて何故か嬉しそうな表情をし同じくソファから立ち上がり美琴の背後に立つ優姫。
「なんだ?」
「いえ、、そう言えば私もう1つ好きな事がありました」
「?そうなのか?」
「はい。美琴君の事を知る事が好きです」
「ッ、、冗談でもそう言う事は言うな」
「冗談じゃありません!」
「はいはい」
「はいはい、ってちゃんと話を聞いてますか!?」
「聞いてるっての。風呂入ってくる」
「、、、、分かりました」
軽くあしらいながらコップに入った麦茶を一飲みし、顔を合わせない様にしてコップを洗う。
背後からでもムスッとしているのを察せられるぐらいには彼女が考えている事をある程度わかる様になった美琴は、そそくさとリビングから出てお風呂へと向かった。
シャツを脱ぎ下着を脱ぐのに差し掛かりゴム部分を指で引っ張りかけてた時、美琴は気付く。
(アイツは俺の事沢山知ってるけど、俺全然優姫の事知らないわ)
知っている事と言えば名前身長好きな人性格勉強運動、料理が好きと言う事しか知らなかった。
当たり前だと言うべきだろうか。事なかれ主義を貫き目立つ人と関わらない生活を送ろうと思っていた美琴にして仕舞えば、桜木優姫と関わる事自体がイレギュラーだったからだ。
だが、彼女と婚約関係になっている今、ぞんざいに扱う事は美琴の心情が許さないと同時に、知りたいと言う気持ちが芽生えていた。
「少しくらいは知らないとだよな」
ボソッと湯船に浸かりながら呟いた。誰にも聞かせるつもりのないただの独り言を。
この時彼女の嬉しそうな顔が頭の中で浮かび上がったのは美琴だけの秘密だ。




