世界を色付かせる色彩家
「まさか……真白ちゃんがこの奇病に罹患するなんて……」
「医者には行ったのか?」
「行ったわ……だけどどうする事も出来ないって……薬もないって……どうしよう花織君」
深刻な顔つきで話すママとパパ。真白ちゃんの身になにがあったんだろう。
「どうしたの? 真白ちゃん何処か悪いの?」
「彩果ちゃん……真白ちゃんはね……」
私は真白ちゃんの身に起こっている事について詳しく聞いた。そしてその深刻さを理解した。
「真白ちゃん、まだ九歳なのに……もっと色んな景色を見せてあげたかったな……色とりどりに輝く世界を見て……色んな事を感じて……学んで……母親として自分の無力さが情けない」
ママが泣いている。嫌だ、大好きなママのそんな顔は見たくない。
「……大丈夫だよ。私だったら何とかしてあげられるかも。だから泣かないでママ」
「彩果ちゃん……」
「おいおい彩果。これはどんな名医でも治せないと言われてる病気だぞ。中途半端な優しさは人を傷付けるだけだ」
パパの言う事は最もだ。見た目は幼くて小学生男児みたいだけどやっぱりちゃんとした大人なんだなと実感した。これでデリカシーのないセクハラ発言さえしなければ……中身が性に興味津々な小学生男児そのものなんだもん。
「私の魔法だったら……真白ちゃんの色を取り戻せるかもしれない……この力は好きじゃないけど……いやそもそも魔法なのかも分からないけど……誰かの役に立つかも知れない。私は色彩果! 世界中を色をもたらす色彩家なんだ!」
……夢か。随分と懐かしい夢を見たな……真白ちゃんが九歳の頃だから……九年前か。あんな事もあったな。真白ちゃんが色を失った日の事だ。
魔法が存在していて同性間で子供を成す技術が確立していて宇宙人や地底人が存在して仲良く共生している世界だ。常識ではあり得ないような病気も存在している。何もおかしな事はない。
真白ちゃんが罹患したのは『モノクロームシンドローム』という奇病。『単色症候群』『白黒症候群』とも。その名の通り色を失う。識別出来なくなる。その世の全てが透明に見えるというものだ。
特定の色が識別出来なくなる色盲とは違う。全ての色が認識出来なくなる。世界が無色透明に見えてしまう。真っ白な世界……想像しただけで恐怖で震える。
文献によると今までにも発症した人が何人もいるらしいけど根本的な治療方法が確立されていない。科学じゃこの病気は治せない。それ故に呪いと称されている。人によって症状が多少違うらしく、白黒に見えたり、セピア調の一色に見えたり……どの道色を失うのは同じ。
……だけど不治の病ではない。治す方法はある。科学ではどうする事も出来ないけれど、この世界には科学と双璧をなす魔法が存在する。その魔法の中にその呪いを解くものも存在している……私の魔法がそれだったんだ。
以前私は魔法が使えないと言った。だって今でも魔法とは思っていないからだ。みなもの物体浮遊魔法や雪菜の心を絆す魔法……水を一瞬で沸かしたり、どんな材料からでも好きな食材が作れたり、真白ちゃんの物体サイズ変更魔法みたいな日常でも役に立つ魔法じゃないから……
幼い頃この魔法を初めて使った時はびっくりしたけど何の役に立つのか分からず落ち込んだものだ。もっと普段の生活の中で役立つ魔法が欲しかった。それこそ真白ちゃんが使える魔法みたいに便利なものが。
だけどこの力を産まれ持った事を今では誇りに思ってる。そのお陰で真白ちゃんを救う事が出来たんだから。でも普段は使い道がないなぁ……
「お姉ちゃん! 今日こそは姉御とエッチしてくれる?」
私は真白ちゃんに対してまたそれか……と思う気持ちよりも彼女が元気な姿にほっとしていた。あの時は本当に落ち込んでいたからな……可愛い妹のあんな姿は見たくない。もう二度と……だから私は妹に甘いのかもね。だからと言ってそれとこれとは別だ。みなもとのエッチは見せる訳にはいかない。どうにかして諦めさせないとね。
「見せないもん! 真白ちゃんの前では絶対我慢するもん!」
「強情だなぁ……気長に待つ事にするよ」
「もう……今日は大学休みだから外にでて絵を描こうと思っているんだよ。真白ちゃんも来る?」
「何処にいくつもり?」
「家族で良く行ってた公園だよ」
それに今日はあれが見えるかも知れないからね。なんとなくだけど……女の勘ってやつだね。あんな夢を見たから当時を思い出した。そして見たくなったんだ。真白ちゃんと一緒に。
ちなみにみなもは二度寝していた。休みの日はいつもゴロゴロしている。だからスタミナがつかないんだと思う……
私達は川沿いの公園にやって来た。以前雪菜達と来て百合カップルを描いて……挟まってしまった公園だ。プールにテニスコートにボートに乗れる大きな池……幼い頃はママとパパに連れられて良く遊んだ思い出の場所だ。真白ちゃんはすぐ人見知りするから私の後ろにぴったりとついて隠れてたっけ……
「真白ちゃん、昔に比べて人見知りする事が減ったよね。その代わり自虐も凄いけど」
「自分の駄目な所はいくらでも気付くんだよね。でもそれって大事な事じゃないの?」
「勿論だよ。だけど私の事を観察し過ぎじゃないかな……」
「お姉ちゃん観察は僕の趣味だからね」
「あの……観察を辞めるという発想はなかったのかな?」
「特になし」
「新月の真似しなくて良いから! 私にもプライバシーというものがあるんですけど! ひとりエッチの時くらい見ないで欲しかった……」
「大丈夫! お姉ちゃんのヒメゴトは墓場まで持っていくつもり……だったけど姉御の前で披露しちゃったね」
「私の観察してて楽しかった?」
「勿論!」
本当に私の事を良く見ているんだなぁ……私がひとりエッチしてるとこまで見られていたんだから当然なんだろう。その時の真白ちゃんの満面の笑顔が何もよりも眩しかった。それを見るだけで許せてしまった。つくづく妹に甘いな……
「もういいや、私の創作風景を見せてあげる」
「昔に何度も見てたよ。お姉ちゃんが描きたい自然体の百合絵が中々描けなくて苦戦してたよね」
そんな事まで……真白ちゃんは私の事なら何でも知ってるんだ。
「お姉ちゃんの百合観察は対象の百合カップルさん達に毎回許可を取ってるよね」
「当たり前だよ! 勝手に描いたら肖像権の侵害だし何よりアウティングになるもん!」
同性と恋仲である事を知られたくない人達だっている……私が脅かす訳にはいかない。
「何よりカップルに近づかないと描けないからね……描いてる時に気づかれちゃうから許可を貰ってからにしないと……結局自然体ではなくなるけど」
「つまりバレずに描いて後で許可を貰えばいいって事だよね」
「バレずにって……どうやって」
「何かになりきるんだよ! お姉ちゃんを人間だと認識させないように!」
真白ちゃんは何を言ってるんだ……変装でもしろって事なのかな?
「そうすれば自然体のカップルを描ける! お姉ちゃんの絵を見たら尊さで悶えてきっと認めてくれる! これならいけるよ!」
「……で、どうすればバレないでいられるの」
真白ちゃんは手取り足取りアドバイスしてくれた。
「ツリー!」
「凄いよお姉ちゃん! 完璧に木になりきってるよ!」
私は両腕をYの字に広げ木のポーズをしていた。なるほどこれなら木と勘違いされるしバレずにすむ……訳あるかぁ!
「もう……プルプルしないでよお姉ちゃん。木はそんな風に動かないよ」
「いや……木がツリー! とか喋ったのを見た事ないんですけど」
何やってんだ私……妹の提案とは言え木の真似をするなんて……でも真白ちゃんが考えてくれたんだし断る訳にもいかない。
「あっ! 近くのベンチに仲良さそうな百合カップルさんが座ったよ」
「本当だ。バレないようにしないと……」
木になりきれ! 今の私は色彩果じゃない。木なんだ! 思い出せ。高校の文化祭の演劇で木の役をやっていた時の事を! 木Hの役をやりきって褒められたじゃないか! あの天才ギター少女だって文化祭で木の役をやっていたじゃないか! 木の役を出来る事は誉れなんだ。脇役じゃない。
「あはは、何あの子! カカシの真似なんかやってるよ!」
「小学生かな? 可愛いー!」
「カカシじゃないです! カカシだと真横に両腕を広げるので私は木です! あと大学生ですから!」
あっさりとバラてしまった。そのカップルは私の方に近づいて来て私を挟み撃ちにした。
「カカシごっこも良いけどせっかくだから私達と遊ぼ!」
「え? え? え? 結構ですから……お二人の邪魔になるので……」
「そんなの気にしないで! さぁ公園中を一緒に周ろ!」
「そんな……挟まってしまったぁ!」
真白ちゃんが楽しそうに私を見ている。彼女の笑顔を見ると許せてしまう。妹馬鹿な私……
「ぜぇ……ぜぇ……お昼になるまであの二人に連れ回された……」
「良かったねお姉ちゃん。お昼までご馳走させて貰ったしあの二人の絵も描かせて貰って」
確かにそれは嬉しい。けど本来あの二人で公園デートをする予定だった筈……百合の邪魔を私が邪魔してしまうなんて。伝道師失格!
「お姉ちゃんの絵を見て二人共嬉しそうだったね。お姉ちゃんの絵はやっぱり凄いよ。魔法みたいだ」
魔法か……私はやっぱり百合絵を描いて色んな人達を悶えさせるのが好きだ。この魔法では出来ない事だ。
「今度はバレないようにしないとね」
そう言って真白ちゃんはまた私にアドバイスをくれた。真白ちゃんが多分一生懸命考えてくれたんだろうから断る訳にはいかなかった。
「凄いよ! 完璧にプランクトンになりきってる!」
池の近くで私はプランクトンになりきって……なりきれるかぁ!
「真白ちゃん! プランクトンのふりしてボートを漕ぐカップルを観察なんて無理だから!」
「駄目……? 僕がお姉ちゃんの為に考えたんだけど……」
「うう……悲しそうな顔しないで真白ちゃん。私、プランクトンになりきってみせるから!」
真白ちゃんの悲しむ顔は見たくない。思い出せ! 高校の文化祭の演劇でプランクトンの役をやった事を! プランクトンGの役をやって主役より目立った事を! 今の私はプランクトン彩果。プランクトンの一種のミジンコになっているんだ。漂え! ここは陸地だけどミジンコのように漂うんだ!
「ぷかーぷかー」
「あはは、あの子あそこで何やってるの?」
「可愛いー!」
バレた。観察していた百合カップルに見つかった。二人はボートから降りて私を挟み撃ちにした。
「一緒にボートに乗りたかった?」
「三人乗りのもあるから私達と一緒に乗る?」
「結構ですから……お二人に迷惑ですし……」
「遠慮しなくていいから! ほら乗った乗った」
「君中学生くらいかな?」
おお……いつも小学生と間違われていたから中学生扱いされて少し嬉しい。けどやっぱり納得いかない!
「大学生ですから! また挟まってしまったぁ!」
「ぜぇ……ぜぇ……また邪魔してしまった……あの二人だけでボートに乗ってるから尊いのに……」
「また描かせて貰ったね。お姉ちゃんの絵はやっぱり凄いよ」
真白ちゃんはとても満足そうだった。カップル達に挟まる私を楽しそうに見ていた。彼女がこうやって楽しいと思ってくれるなら体を張った甲斐がある。
「真白ちゃんが喜んでくれて嬉しいよ。やっぱり真白ちゃんは笑顔が似合うから……落ち込んだ顔なんて見たくないもん」
「僕が落ち込まないようにしてくれてるんだよね。お姉ちゃんは昔からそうだった。僕が……色を失った時とかさ……」
「お姉ちゃん……僕の目はおかしくなっちゃったみたい……何の色も見えないんだ」
色を失った真白ちゃんはとても不安そうな顔をしていた。彼女の目には私は透明に見えているようだ。
「お姉ちゃんの髪の色ってどんな色だっけ……目の色ってどんな色だっけ……もう僕には見ることは出来なくなっちゃった……」
本当は今すぐにでも泣きたい程に不安だろうに真白ちゃんはそんな素振りを見せない。強い子だな。
「大丈夫だよ。私が助けてあげる。私がこの力を産まれ持ったのはきっとこの時の為だったんだ」
私は真白ちゃんの目の前で人差し指をかざした。そして虚空をなぞり始めた。
「お姉ちゃん? 何して……」
「真白ちゃん。私の髪の毛の色はね、灰色だよ。皆からは雪みたいで綺麗って言われるんだ。喜んで良いのかよくわかんないや」
「あれ……お姉ちゃんの指からなにか……これって……色? 灰色!」
私が人差し指でなぞった場所に灰色の一本線が残る。色を失った真白ちゃんにも見えているみたいだ。
「良かった! 私が思っていた通りこの力は奇病に有効だったんだ!」
「お姉ちゃん……何をしたの? 透明だった景色に灰色が浮かんで来たよ。お姉ちゃんの髪の色が分かるよ!」
「他の色も見えるようにしないとね。私の目の色彩は茶色だよ。日本人に多いブラウンアイで真白ちゃんも同じ色だよ」
私の指から出る色が灰色から茶色に変わった。
「お姉ちゃん……僕の色を取り戻してくれているの? どうやって……」
「色彩家という魔法だよ。何もない所を指でなぞると色が出て絵や文字を描く事が出来るんだ。出す色は自分の意思で自由に変えられるんだよ」
全く自分でも何を言っているのやら……でも今起きている現象は夢なんかじゃない。現実だ。私はこの力を産まれた時から持っていた。絵を描くときにママの口紅だと赤しかないから他の色を出したい時にこの魔法を使って絵を描いていたんだよね。画材を買って貰ってからは殆ど使う事が無くなったけど。
「これが赤。これが青。真白ちゃんの世界に色を取り戻してあげるよ」
「凄い……もう何の色も見る事が出来ないと思っていたのに、お姉ちゃんの魔法でまた見える!」
「私も自信なかったんだよね。未知の奇病にこの力が通用するのかって……でも何故か治せると思ったんだ。女の勘ってやつかな?」
正直この力は日常では殆ど役に立つことがない。だからどうでも良いと思っていた。まさかこうやって誰かの役に立つ時が来たなんて……この魔法で失った色を取り戻す事が出来たなんて…それも可愛い妹の為になるなんて。この魔法を産まれ持って良かった。
「お姉ちゃんって綺麗な色してるよね」
「そんな褒められ方されたの初めてだよ。でも嬉しいな」
失って初めて大切さに気づくものがある。彼女の場所それが色だった。色のない世界なんて想像したくもない。
私は時間をかけて全ての色を出し真白ちゃんに見せてあげた。真白ちゃんは目をキラキラ輝かせながら周囲を見渡していた。さっきまで何も無い光景を見ていたから感動しているのだろう。
「どう真白ちゃん。前みたいに見えてる?」
「うん……お姉ちゃんのお陰だよ! ありがとう」
「どういたしまして。せっかくだから綺麗な景色を見に行こうよ。今丁度夕方だからね」
私は真白ちゃんを連れて外へ出た。ちゃんと晩御飯の時間までには帰るとママに伝えてから……
「あの時……お姉ちゃんが色を取り戻してくれたから今の僕があるんだよ。全部お姉ちゃんのお陰なんだよ」
「私はただ真白ちゃんを助けたかっただけだよ」
「あの時僕は一生をかけて恩返ししようと心に誓ったんだよね。伴侶としてお姉ちゃん隣で……だけどなれなかった。お姉ちゃんは僕を選んでくれなかった」
「真白ちゃん……」
やっぱり私の事が好きだったんだ。性愛の対象として見てたんだ。あの出来事がきっかけだったんだ。私って真白ちゃんの事何も理解してあげられてないな。
「でももういいや。僕には穂積さんが居るし、お姉ちゃんが姉御と幸せになれているからね。だからエッチを見せて貰わないとね!」
結局そこに繋がるのか……見せなきゃいけない空気を作られた……
「もう帰らない? 姉御が晩御飯作ってくれてるよ?か」
「あっ! もう夕方じゃん! あれを見れるよ真白ちゃん!」
私は真白ちゃんを車に乗せて公園の近くにある川の橋の上までやって来た。
「どうしたのお姉ちゃん。川でも見に来たの? 何の変哲もない入間川を見に来るなんて酔狂だね」
「えへへ、変わり者だからね……いやいやそうじゃなくて……真白ちゃん憶えてる? 色を取り戻した後私がここに連れてきたんだよ」
「……そういえばそんな事あったかも。あの時はお姉ちゃんに助けられた事しか憶えてないからその後何があったかまでは……」
「真白ちゃんに綺麗な景色を見せてあげたかったんだ。ここから富士山が見えるんだよね」
結構距離はあるけどここからでも富士山が見える。夕方だとより綺麗に見える。それを見せてあげたかったんだけどあの時は私の予期しない光景が見えたんだ。今みたいにね。
「真白ちゃん。天使の梯子だよ。雲の切れ間から太陽の光が振り注ぐ……綺麗でしょ?」
「ああそうだった……思い出したよ。僕がお姉ちゃんと一緒に見たこの光景。世界はこんなにも綺麗なんだって……実感して泣いてたんだ……」
「凄いねお姉ちゃん! これを僕に見せたかったんだね!」
「あれ? まさかこんな事になってるなんて想定してなかったよ。富士山を見に来たのに。でも真白ちゃんが嬉しそうで良かった」
小学生の私達にとってその光景は衝撃だった。天から振り注ぐ無数の光。川の水面にオレンジ色の光が反射して幻想的な光景が繰り広げられていた。私と真白ちゃんは暫く釘付けになっていた。
「もし……お姉ちゃんが助けてくれなかったらこの景色は見られなかったんだ……ありがとう……お姉ちゃん」
真白ちゃんは泣いていた。彼女が涙を流す姿を見るのは初めてかも知れない。感情を出す事が少ない子だったから……きっとずっと我慢してたんだろうな。不安で不安でそれでも周りを心配させないように泣くのを我慢してんだ。本当に強い子だ。
「真白ちゃん。真白ちゃんは将来何になりたい?」
気になったので聞いてみた。色を取り戻した真白ちゃんなら何でも出来るような気がしたから。奇病に打ち勝ったんだから不可能なんてないはずだ。
「絵を描いてみようかな……お姉ちゃんみたいに」
「あの後僕は絵を描き始めたんだよね。色んな色を使って……男の子同士の恋愛に興味を持つのはもう少し先の事だけど」
「それも私がきっかけだったんだ……」
そして今の私達はあの時と同じ光景を見ている。真白ちゃんが笑顔になっていた。喜んでくれたみたい。
「でも何で天使の梯子が見れると思ったの?」
「なんとなくだよ。女の勘ってやつ」
「お姉ちゃんの勘って当たるよね」
「えへへ、もしかしてこれも私の魔法なのかもね」
「お姉ちゃんはさ、色彩家の魔法を使って色んな人達を驚かせたりはしないの? お姉ちゃんの魔法を見てるとワクワクするんたよね」
この魔法はどうやら人の心にも作用するらしい。魔法で描いたものを見るだけで心躍るらしい。
「僕みたいに奇病に苦しんでる人もいるかも知れないよ。この魔法なら助けてあげられるかもだよ」
「勿論だよ。もし奇病に罹って色を失ったら私が助けてあげるってフォロワーの皆に伝えてるからね。でもそれ以外で使うつもりはないかな」
「魔法で百合絵を描けばその効果でもっと多くの人を惹きつけられるかもだよ? お姉ちゃんは絵を描くとき魔法を使ってないからさ……」
確かにそうだ。この魔法で百合絵を描けばもっと尊くなるかも知れない。伝道師として更に上へ行けるかも知れない。だけどそれは望んではいないんだ。だからずっと封印している。
「私はね、自分の実力で尊い百合絵を描いて悶えさせたいんだ。この魔法に頼らなくてもいいくらいにね」
「……お姉ちゃんならそう言うと思ったよ。今までだって魔法を使わずに沢山の人達を惹きつけられてるんだもん。やっぱり凄いなぁ……」
「まだまだだよ。もっと鍛錬して上達しないとね。私は自分の実力で百合絵を描いてその尊さで皆を悶えさせる! それが百合の伝道師、色彩果だから」
まだまだ描きたい絵が山程あるんだ。でも竜子様が仰ってた通り焦る必要はない。一歩ずつ一歩ずつだ。
「ねぇ……お姉ちゃん。僕……お姉ちゃんの妹で良かったよ」
「どうしたの? 急に改まって……」
真白ちゃんは今まで見た事のないような満面の笑顔で言った。
「あの時僕を助けてくれてありがとう! お姉ちゃん!」




