28
「樹、お・み・や・げ、頂戴。」
修学旅行から帰ってきて初日の登校日、さっそく百合子さんに捕まった。
「すいません。鞄にお土産を入れる空間がなかったから買えませんでした。」
「えー。将来のお嫁さんにお土産を買ってこないなんて。シクシク。」
「泣きまねをしても樹君からは何も出てきませんよ。はい、樹君と私からのお土産です。生徒会の人達と食べて下さい。」
「ありがとう、美姫さん。共同でお土産を買ってくれているんだったら、樹も最初から言ってくれれば良かったのに。」
(百合子さんへのお土産を買ってくれていたんだ。ありがとう。)
(ザグレドを鞄に入れないといけなくなったときに、こうなるだろうと予測できたから。)
(樹と違って美姫は気が利くからのう。)
(僕がお土産を買えなくなった元凶のエレナ様に言われても。。。)
「気が利かなくて、すみません。」
「もう、しょうがないんだから。将来の旦那様と第一婦人からの共同のお土産、ってことで我慢しておくわ。折角だから、生徒会室で一緒に食べましょう。今日は純一先生の補講はないんでしょう?」
「百合子さんがどうしてそのことを知っているんですか?」
「樹の予定を把握しておくなんて、当然じゃない。さぁ、早く行きましょう。修学旅行の話も聞きたいし。」
「僕の予定を把握しておくのが当然って。。。美姫さん、どうする?」
「百合子さんのことだから、強引にでも樹君を連れて行こうとするだろうし、仕方がないから行きましょう。」
「はい、どうぞ。」
生徒会室で紅茶の準備をした百合子さんがテーブルにカップをおいた後、僕の隣に座る。
「どうして樹君の隣なんですか!」
「どうしてって、私が樹の隣に座ってもおかしくないじゃない。」
前に聞いたことのある会話が繰り返される。
「おかしいです!百合子さんは対面に移動して下さい。」
「この前、ハンバーガー屋では美姫さんが対面に座っていたでしょう。だらか、今日も美姫さんが移動すればいいと思うけど?」
「あの時は最初は樹君と私の2人だったからです。いい加減にして下さい!」
「ちぇっ、しょうがないなぁ。」
百合子さんが対面に移動する。
「あーぁ、私も修学旅行に行きたかったなぁ。」
「実習と日程が重なったって、生徒会の人が言っていました。」
「そうなのよ。折角、樹と婚前旅行に行けると期待していたのに、突然実習の日程が変わってしまったの。ひどい話だと思わない?」
「思いません。それに婚前旅行って何ですか!」
「私と樹は将来結婚するんだし、婚前旅行でも間違いはないじゃないでしょう。美姫さん、もしかしていやらしい想像でもした?」
「していません。」
「その割には少し顔が赤いけど?美姫さんは修学旅行先で樹といやらしいこととしたとか?」
「し、していません!」
「むきになって反論するところが怪しいわね。」
「あまり美姫さんをからかわないで下さい。」
「樹がそう言うんだったら、もうやめておくわ。で、修学旅行は楽しかったの?」
「えぇ、それなりに。」
「やっぱり私がいなかったからそれなりに楽しい修学旅行になってしまったのね。」
「いや、そいうことではなく、、、」
「どういう事?」
「いろいろ大変だったんですよ。」
「もしかして、悪魔の幽霊に会ったとか?」
「そうなんです。やっぱり百合子さんも知っていたんですね。」
「わりと有名な話だから。先生達も警戒しているわりには穴だらけで、生徒が悪魔の幽霊を見に行くのを絶対にやめさせようとはしていないみたいだし。」
「それで、すんなりホテルの廃墟に入れたのか。」
「東大附属高校出身の先生が多いし、先生達も自分が学生の頃に悪魔の幽霊を見に行っているから強くは言えないのかもしれないわね。それに、危なくないようにホテルの廃墟の修理とかもお願いしているみたいだから。」
「そうだったんですね。」
「でも、悪魔の幽霊に会えたなんて、羨ましいわ。」
「百合子さんは会えなかったんですか?」
「そうなのよ。悪魔の幽霊を見たら一発ぶんなぐってやろうと思っていたのに、見つからなくて残念だったもの。」
「そんなことを考えているから悪魔の幽霊に会えなかったんじゃないですか?」
「あら、美姫さんも言うじゃないの。」
(グレンさんは2年前のことを覚えていますか?)
(覚えていないところを鑑みると、出会ったのは強い印象を与えない学生だったのでしょうな。)
(そうですか。グレンさんも百合子さんのように禍々しい精神エネルギーを持った学生は避けますよね?)
(百合子さんの精神エネルギーが禍々しいとか、実際に言ったらひどいことになりそう。)
(さすがに面と向かっては言わないよ。)
(ワシらも精神エネルギーの多い学生を選んでいましたが、猛々しい精神エネルギーを持った学生は面倒ごとになる可能性が高いので避けていましたからな。)
(百合子さんを避けて正解でしたね。)
「悪魔の幽霊はどうだったの?」
「見た目が非常に怖かったですよ。怖くて足がすくんでしまいました。」
「それに、うっすら透けていたので、悪魔の幽霊と言われている意味が分かりました。」
「美姫さんも悪魔の幽霊を見たの?ということは、樹と同じ班だったわけ?」
「そうですが、それがなにか?」
「樹と同じ班になって日光を見て回れるなんて、羨ましいわ。」
「百合子さんが修学旅行に来れたとしても、生徒会役員として見回りがあるから、樹君と一緒に行動なんてできなかったと思いますよ。」
「分かってるわよ、そんなこと。」
「でも、あのホテルって、屋上に混浴の露天風呂があるでしょ。こっそり夜に樹と2人で入って、しっぽりしたかったなぁ。」
「「・・・。」」
「何よ、2人して黙ってしまって。もしかして、あなたたち、2人だけであの露天風呂に入ったの?」
「「・・・。」」
「そうね。そうなのね。ひどいわ!私だけのけ者にして。」
百合子さんはむくれた顔をしている。
「これからそんな機会がないとも限らないので、機嫌を直して下さい。」
「そんな機会なんてあるかしら、、、そうだわ!機会がなければ作ればいいのよ。」
(あぁ、これは僕が面倒ごとに巻き込まれるやつだ。)
笑顔になった百合子さんを見てそう思った。




