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竜の女王  作者: M.D
2170年冬
39/688

24

「私たちを追跡しているのはどういった人達か、先生はご存知ですか?」

「おそらく反魔法使い連盟か魔法連合国のどちらかに関係する者たちだろうね。どちらとも名前は聞いたことがあるだろう?」

「はい。最近連続爆破事件もありましたし、反魔法使い連盟も魔法連合国もよくニュースに出てくるのでだいたいのことは知っていますが、何故彼らが私たちを追跡しているのかが分かりません。」


「理由を説明する前に、彼らについて、まずは反魔法使い連盟、通称反魔連から説明しようか。」

「はい。」

「2人は知っていると思うが、反魔連は魔法使いが権力を握っている現状を良しとせず、権力を普通の人に取り戻すことを目的としている。とは言っても、悪魔から自分たちを守ることができるのは魔法使いだけだと普通の人も知っているから、そんなに支持を集められていない。その鬱屈した気持ちをテロ活動によって慰めている。」

「なんて自分勝手な考え方なんですか。」

「そうだね。人は生まれた時から皆異なっているにも関わらず、彼らのように『人は皆平等でなければならない』と考える者は魔法使いと自身の待遇の差に不満を感じ、その不満が反魔連を生み出した。そして、彼らはそれは現在の社会体制が原因だと考えている。」


(そう考える人が一定数いるのはいつの時代も同じだな。)

(そうね。今はその不満が魔法使いに向いていることが問題よね。)


「彼らの不満が魔法使いとの待遇の差にあり、社会体制の被害者だと考えているのであれば、それを解消するようにはできないのでしょうか?」

「それは難しいね。東大附属高校の魔法科に入学して分かったと思うんだけれど、魔法使いを育てるためには巨額の資金を必要とするんだよ。高価な魔法の腕輪や、魔法の訓練に耐えられるだけの施設が必要だからね。」

「こっちに来てそれは感じました。」

「しかし、資金には限りがあって、魔力量が少なかったり魔法の腕輪への適性が低かったりする者に同じような教育を受けさせてあげることはできない。そのために魔力検査で線を引くのだけれど、補講でも話したように、魔法の腕輪への適性の7~8割は母親から受け継がれるから、魔法使いの家系以外の生徒が魔力検査に合格することは稀だ。」

「魔法使いの人達も、その力を継承させるために少なくない犠牲を払っている、と思うのですが。」

「彼らはそれを知っているが、些細なことだと無視して魔力検査での線引きを身分の固定化と考えて差別だと言い、自分が報われないのは差別されているからだと非難する。」


(努力はしたくないけれど、いい思いはしたい、というのを正当化するための詭弁ね。)

(同感。差別という言葉は、自分の主義主張を正当化するのに有効な言葉だから。)


「確かに、魔法使いには社会的地位があるので、魔法使いの家系出身者は魔法使いになれるのに、自分は努力しても魔法使いになれないと考えると、差別されていると感じる気持ちは分からなくはないですが、自分が報われないのは差別されているからだと非難するのは論点のすり替えに近いと思います。」

「それに、自分が報われないのは出自のせい、というのであれば、資産家についても同じ感情を抱いてもおかしくないのではないでしょうか?」

「昔は共産主義や社会主義といって、資産家を批判し財産の一部または全部を共同所有することで平等な社会をめざそうとした国もあったんだけれど、結局、特権階級が生まれて瓦解してしまったんだよ。今は、魔法使いが資産家であることも多いから、共産主義者も反魔連と共闘しているみたいだね。」


「反魔連が言っている、魔力検査での線引き以外の差別のひとつに東京シールドがある。魔法使い達は東京シールドの中にいて悪魔が襲ってきても守られるのに対して、東京シールド外にいる普通の人は守られないというのは差別だと。」

「悪魔が襲ってきたときには東京シールド内の避難場所を東京シールド外の人たちにも開放するし、そのための避難訓練も年に1回行っているに。」

「東京シールド内に避難はできるが、都市国家東京に入れないのが差別になるんだそうだ。」


「それも詭弁ですね。」

「同感。僕は東京シールド外に居たときには東京シールド内の生活に憧れがありましたが、魔法使いから差別されているとか感じたことはなかったです。彼らは何故差別されていると感じるんでしょうか?」

「本当にそう感じている人はほんの少しで、大半の人たちはそう感じるよう思考を誘導されているんだよ。」

「どういうことですか?」

「例えば、生活に困っている人達や誰の助けもえられないと感じている人達がいて、彼らの手助けをする。手助けをしてもらった人達は、手助けをしてくれた人は親切な人だ、彼らが言っていることが本当だ、と思ってしまうようになるから、『原因は魔法使いにある』と言われると信じてしまうんだよ。」

「心の隙間を利用するんですね。」

「そのとおり。」


「それって、一種の洗脳ではないですか?」

「そうとも言える。その他には、自分で考えたくない、人に導いてほしい、と考えることを放棄している人達で、耳障りのいい言葉を簡単に信じてしまうんだ。」

「そんな人達はいるんですか?」

「東大附属高校にはいないだろうけど、そういう人達も一定数はいるんだよ。」

「そうなんですか。」



「次に、魔法連合国だけれども、地球連邦には魔法理事国と魔法連合国という2つの魔法使い都市国家群があるのは知っているよね。」

「はい。第一次悪魔大戦前に魔法使いを保有していた都市国家群を主にするのが魔法理事国で、第一次悪魔大戦後に魔法使いの育成を始めた都市国家群が魔法連合国ですね。」

「そのとおり。魔法使いがいない都市国家群は中立国とも呼ばれ、大半の都市国家は中立国に分類される。それで、魔法連合国は魔法使いの能力や技術が劣っているために、魔法理事国から魔法技術を盗み出したいと考えているんだよ。だから、魔法連合国の目的は魔法使いの誘拐と、魔法の腕輪の製造方法の取得にある。」

「どうして魔法連合国はそんなことをしようとするんでしょう?魔法理事国から支援してもらえばいいのに。」

「魔法理事国も最新の魔法技術は秘匿しているから。そして、第二次悪魔大戦によって魔法連合国の思いは加速した。魔法理事国のように優秀な魔法使いをそろえていないと、悪魔に襲われたときにやりたい放題される、と。

 しかし、魔法使いと魔法の腕輪についての最新技術は魔法理事国に参加していない都市国家には情報が与えられず、結果として魔法使いの能力や技術が劣っている魔法連合国の都市国家群は国民を守ることができない、と感じるようになった。」

「だから、魔法使いを誘拐したり、魔法の腕輪の製造方法を手に入れようとしたりした、ということですか?」

「そのとおり。ただ、それを大っぴらに行うと、魔法理事国から報復されてしまうため、できるだけ証拠を残さないよう秘密裏に行う必要があった。その隠れ蓑に反魔連が使われている、というわけだよ。」


 純一先生の話を聞きながら前方を見ていると、こちらに向かってくる対向車が見えた。


「先生、前からトラックが近いづいてきます。久しぶりの対向車がトラックというのも珍しいですね。」

「確かに、通常であれば地下の自動配送網が使われるはずなのに、地上をトラックが走っている、というのは奇妙だな。何かあったときのために自動運転を切って運転をするから、魔法連合国の話はここまでにしよう。」

「はい。」


 純一先生が座りなおして前を向きハンドルを握る。


「少し速度を上げるから、シートベルトをして、取っ手に捕まっていて。」

「はい。」


 車が加速するのを感じ、トラックともう少しですれ違うという時だった。

 

 ピカッ


「樹君、今後ろで何か光らなかった?」

「うん、僕も見えた。それに、ピシッという音も聞こえたような気がする。」

「そう?私は聞こえなかったけど。」

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