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『美姫ちゃん、高校に入学したら一度我が家にいらっしゃい。ゆっくり話がしたいわ。』
という龍野家当主である亜紀様が病院で言った言葉を実現すべく、美姫さんのところへ招待状が届いた。
「なんて書いてあったの?」
「再来週の土曜日に龍野家本家まで来てほしいんだって。樹君も一緒に、って書いてあったよ。」
「どうして僕も?」
「正式にお礼が言いたいんだって。」
「僕が崖から落ちたことで美姫さんを見つけられたなんて偶然なんだから、入院費とここでの生活費を出してもらっているだけで十分なのに。。。」
「亜紀様はそう思っていらっしゃらないんじゃないかな?それに、1人で行くのは不安だから私も樹君に一緒に行ってほしいと思っているの。」
「龍野家本家に1人で行くなんて緊張するだろうし、美姫さんが不安に思うのも無理はないと思う。」
「でしょ。」
「それに、龍野家当主って雲の上の存在みたいな感じで、魔法使いのことをよく知らなかった昔ならまだしも、今はどれだけ偉い人なのか認識できてしまっているから、美姫さんみたいに普通に話せそうにないし。」
「私も亜紀様と話をするときには少し緊張するよ。」
「そう?昔からの知り合いみたいだし、病院では普通に話してなかった?」
「亜紀様と母は仲が良くて、昔は母を訪ねてたまに家にいらしていたから、その時によく話しかけて下さっていたの。その時のことがあるから、他の人よりは普通に話せるのかもしれない。」
「昔から知っていたから、亜紀様は美姫さんのことを『美姫ちゃん』って親しい感じで呼んでいたのか。」
「うん。かわいがってもらってはいたのだけれど、やっぱり本家筋の人だから粗相してはいけない、と思ってしまって少し緊張するの。」
「そうなんだ。僕なんて前に病院で会っただけだから、ちゃんと話をするのは初めて見たいなものだし。」
「私も病院で会うまで3年間会っていないかったから、樹君と同じようなものよ。それに、亜紀様のことだから、私と一緒に行かなかったら今度は樹君だけに招待状が届くかもしれないよ。」
「1人で行くのは嫌だな。それに、招待されて行かないというのも失礼な気もするし、美姫さんと一緒に行ったほうが気が楽かもしれない。」
「じゃあ、決まりね。私が返事を出しておくから。」
「お願い。」
◆ ◇ ◆ ◇
当日、迎えの車には純一先生も乗っていた。
「先生も亜紀様に呼ばれたのですか?」
「『君達2人だけだと道中不安だろうから』と亜紀様が言われて、付き添いとして君たちがよく知っている私が指名された、というわけだよ。」
「私たちのためにご迷惑をおかけして、すみません。」
「これも仕事のうちだから。そんなことより、早く乗って。」
「「はい。」」
僕らが乗り込むとすぐに発車した。
「・・・。」
「樹君、先程から何も話していないけど 、緊張しているのかい?」
「はい。」
「そんなに緊張しなくてもいいよ。亜紀様は気難しい人じゃないから。怖い人ではあるが。」
「脅かさないで下さい。僕は帰りたくなってきました。」
「樹君、そんなこと言わないでよ。私まで緊張してくるじゃない。」
「ごめん。」
「外の景色を眺めると、緊張が和らぐかもしれないよ。」
「ありがとうございます。そうします。」
車は地上に出て高速を走っている。
「これだけ工場が多いと壮観ですね。」
「知ってのとおり、疑似光合成で太陽光なしでも糖や油を作れるようになってきたけれど、まだまだ効率が悪いから、太陽光を必要とする人工光合成工場が沢山必要なんだよ。」
「工場ばかりで緑がない、というところが何度見ても生活感がなくて無機質な感じがします。」
「東京シールドの外から来た樹君だから、なおさらそう思うんだろうね。」
「そうかもしれません。」
「地上に人工光合成工場が必要だから人が住む街を地下に作る、という発想は単純だけど、それを実行した昔の人の行動力はすごいと思います。」
「地下水脈を、街を流れる川、として利用しているのもいい案ですよね。」
「昔の人は悪魔から身を守ることに必死だったんだろうね。私も含めてだけど、今の人は昔の人と比べると活力が落ちているような気がするんだ。」
「もう一度同じことをやれ、と言われても、誰もやりたがらないでしょうし。」
「昔と比べるとそれだけ環境が改善された、ということだろうけどね。」
他の車がほとんど走っていない道を順調に進んでいく。
「都市国家東京に来てから地上に出ることはあまりなかったから、地上を移動するって新鮮な感じがする。」
「そうね。そういえば、地下からでも行けるのに、どうして地上なんですか?」
「一応襲われた時のためだよ。」
えっ!?
「私たち襲われたりするんですか?」
「美姫さんは龍野家分家筋だからね。念のためだよ。」
「念のため、ですか。」
「地下からだと、襲われたときに逃げ道が限られてしまうだろう?地上だと逃げるための選択肢を多くできるから、こうやって地上を移動しているんだ。気づいていないと思うけど、この車も追跡されているみたいだし。」
「そうなんですか?なにも見つからないですけど。」
車の窓からは何も見当たらない。
「小型遠操機が見つからないようについてきている。」
「大丈夫なんですか?」
「龍野家の監視網でちゃんと捉えているから、慌てる必要はないよ。」
純一先生は耳の中の情報端末を見せた。ちなみに、遠操機は遠隔操作機の略で、空中や海中など人間では行動不可能な場所で活躍する機器のことだ。
「こんな状況は映画の中だけだと思っていました。」
「現実は小説より奇なり、って言うしね。私も国防軍に入って訓練を受けていなかったら、今頃あたふたしてただろうね。」
「先生が動じてなくて心強いです。美姫さんは経験があったりする?」
「私もないよ。普通に小学校に通っていても襲われるなんてことはなかったし、こんなことは初めて。」
「美姫さんが小学校に通っていたときには護衛がついていたからね。」
「そうだったんですか!?知りませんでした。」
「美姫さんは一度誘拐されかかったことがあって、その時の犯人がそれはそれはむごい仕打ちを受けたことを知らしめたから、それからは美姫さんを襲おうなんて考える輩がほとんどいなかった、という理由もある。」
「そんなことがあったことも知りませんでした。」
「美姫さんが心配するといけないから、龍野教授が美姫さんに知られないように、と注意されていたからね。美姫さんが隠遁生活から表舞台に戻ってきてすぐに追跡をかけられるなんて、何者かの意図が感じられるな。」




