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ギルド職員ユンカーの平凡な毎日  作者: アルデンテ
19/29

背走

ダンジョン・つづき

 「逃げましょう!」

 レイミは偵察から戻ってくるなり言う。


 「あたしは魔力が無いから分からない。

 でも、多分ゴブリンシャーマン、それも歳をとって相当に狡猾な奴がいるわ。」


 「今は感じないけど確実に見つかって、監視されてた。

 完全にロックオンされてる、”姫狩り”、ニャ。」


 「奴らの砦を見つけるのはたやすかった、でも確実に誰かに見つかった。

 砦が見える場所まで行って、ヤツラの匂いが拾えなかった。

 あたしの方から砦に気流が流れていた、ヤツラは地形を熟知してる。

 あたしの匂いは拾われた、間違いなく。

 申し訳ニャイ、昨日から”オンナノコの日”。

 悪い予感しかしない。

 8階層にヤツラのコロニーの敵になる勢力はいないはず。

 下手をすると9階層までヤツラの圏内かもしれない。

 静かに逃げながら階段を探しましょう。

 回り込まれたら終わり、数で圧倒されるニャ。」


 「ネコは捕食者、狩られる怖さも本能で感じるニャ。」


 数分間の沈黙。

 「・・・、帰りましょう!」

 重い空気の中、リーダーのスミレが口を開く。

 

 「効率の良い狩りのおかげで稼ぎにはならなかったけど赤字にはなってません。

 命があるうちに帰ってギルドと相談しましょう。」


 「でも、最後にモナとレイミでもう一回だけ索敵に行って頂戴。

 レイミは魔力は分からないからカン、だと言ってた。

 でも”フルーツパフェ”がカン、だけで撤退してたら笑いものでしょ。

 ギルドにも報告できないわ。」


 そしてわずか10分後、モナとレイミが戻る。

 「言われなきゃ分からなかった、隠蔽されたマジックスキルがあちこち。

 追われてるわ、魔力が動いてる。

 多分、”女の匂い”、を追っている。

 巧妙で希薄なマジックトラップの形跡もそこかしこ。

 あれはタチが悪い。

 下手をすると精神攻撃を仕掛けてくるレベルかもしれない。

 術師のレベルが高いわ。

 レイミの言う通り、敵を認識してなければ撤退すらもおぼつかないピンチ。

 撤退、いや、逃げましょう!急いで。

 急がないとこの階層で挟撃される!」


 「OK,ありがとう。

 無理させたわね。

 撤退しましょう、即座に!」

 

 モナの報告のあと、全員が注意深く撤退。

 

 行き同様に徒歩の行軍。

 7階層から上は魔獣も把握しており、戦闘を回避し体力を温存しながら地上の出口に戻った時には夕方になっていた。


 「全員、気を付け!」

 ダンジョンの地上出口から100メートルほど離れた平地。

 ハーフ・ドワーフのレベッカの号令が飛ぶ。

 前に立つリーダーのスミレと他の隊員たちが向かい合って立つ。


 「みんな、ご苦労様。

 ダンジョンから出ればこの近辺ではあたしたちは絶対的強者、8割方の危険を脱しましたね。

 40キロ離れた王都までは帰れませんから、いつもの2キロ程離れた丘の上で野営をしましょう。

 では、なお気を引き締めて行軍開始!」


 50メートルほどの高さから見下ろすダンジョンの入り口は、もう暗闇に溶けている。

 木々の払われた、丘の上の平地はダンジョンから帰りに夜営をする冒険者たちが道々で整備して帰る。


 「はい、引っ張って。」

 レイミがブリキでできたバケツの上に手をかざすと10センチ角の柱の頭がバケツの水面から浮き上がるように現れる。

 

 それを皆が分担してどんどん引っ張ると長さ3メートルの角材がどんどん出てくる。


 「はい、角材は終わり。どんどん組んでね。

 はい、板を出すよ!引っ張って。」


 バケツの水面から板の角がつまめる。

 それを引っ張るとたたみ1畳の大きさの板が次から次から。


 「はい、脚立と工具出すから引っ張って。」

 バケツの水面から脚立の頭を掴むとズルズルと全体が現れる。


 「はい、最後に釘とトンカチ。」

 工具箱が出てきてオシマイ。


 みんな慣れたもので、あっという間に屋根と壁を釘で打って6畳一間の木造プレハブが出来上がり。

 ドアはないのでそこだけは、牛の革でできた防水シート。 


 みんなでジャンケンで夜の見張りを決める。

 モナとレイミを除いた3人でジャンケン。


 モナは魔力を消耗するために見張り役は罷免している。

 野盗が来たり、と戦闘になった時のためにモナの魔力、体力は温存したい。


 で、レイミは小屋の中でせっせとモナと働いている。

 モナと二人で地面に板を並べ、バケツに手をかざすと木でできた、縦横1M、1.5M。

 深さ1Mの風呂桶をバケツからズルズル(笑)。


 その風呂桶の中にバケツを置くと水がバケツから吹き出し、みるみる浴槽を満たす。

 ほどよく張られた浴槽の水の上にバケツがプカプカ。


 続いてバケツに重しの漬物石一個みたいのを入れて、オハジキくらいの魔石を一個バケツに入れて浴槽の水の中にバケツを沈めると、ナント湯をわかしはじめる。


 「今日は隊長とアイリスが最初の夜番だ。

 雨が降りそうだから、風呂が沸いたら番小屋を出してやってくれ。」

 ハーフ・ドワーフのレベッカが部屋に入ってきて言う。


 モナとレベッカは先刻、バケツより引きずり出した、カーテンのような生地を天井にわたる張に引っ掛けて風呂の目隠し。


 湯が沸くと重しの石を中に入れたまま、いつの間にか外に出ている不思議バケツ。

 重し石をバケツに収納すると”パッ”と石が消えて軽くなるマジックショー。


 レイミはバケツを持って表に行くと

 「隊長、番小屋の材料引っ張ってください。」


 レイミとアイリス、スミレが柱や板をズルズルと引っ張り出す。


 「番小屋組みは隊長、二人でやって下さいね。

 あたし、飯炊きネコですから。

 今夜の晩御飯は奮発しますよ。」


 レイミが楽しそうに言うとスミレ(隊長)も

 「あー、よろしく頼む。それと。晩飯前にトイレも頼む。

 窓が付いたトイレで野営中に用が足せるなんて王国広しといえど、ここだけの贅沢だからな。」

 楽しそうに言う。


 「あー、いつも忘れちゃう。

 隊長、頻尿だったんだっけ(笑)。」

 「こらレイミ、余計なことは記憶しなくていいといつも言ってるだろう。」

 スミレの声にアイリスも思わず笑う。


 「モネー、まだお風呂入ってないでしょ?

 トイレの設営忘れたー、手伝いをお願いー!」

 バタバタと大騒ぎしながら小屋の中に走りこむレイミ。


 「あれが噂の”サイレントキラー”とはな。

 わたしではレイミが暗闇に溶けたら捕捉するのは不可能だ。

 つくずく敵にならなくて良かった。」


 スミレの言葉に

 「メシも旨いですしね!」

 アイリスも相槌を打つ。


 小屋の中からはレベッカとモネが風呂に入る音と、夕飯のいい匂い。

 今夜はホワイトシチューのようだ。


 うまそうな匂いが小高い丘の上からあたり一面に広がる。

 腹を減らした野盗やオオカミに用心しなきゃな、とスミレは心に思う。










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