ジィサン、バーサン、幼児と新人冒険者と妖精さんのマジカル薬草ツアー(笑)
山歩きも楽しいかも!
「さて、エスカイヤ。私のエールもなくなったし、『ハマグリの日』の成功も確認できた。
屋敷に戻るか。」
変装している伯爵は横に立つ4女のギルドマスター、エスカイヤにつぶやいて、人でごった返す焼き台のコーナーから離れる。
そして季節が流れること4か月後。
秋も深まり、もうすぐ町の南側。
カミサマ山脈の山裾の高原、ミケローネ樹林にも雪が降り始める季節。
「ユンカー、冬の分の薬草を揃えてきてちょうだい。
明日から”薬草部隊”を臨時編成して1週間ほどかき集めてきて。」
アルフレッド牧場からさらに大陸の奥にホリデー川を遡ってゆくと魔素が濃くなりミケローネダンジョンより湧きだした、といわれる低レベルの魔獣がミケローネ樹林の中を徘徊し冒険者たちも単独で入るのは厳しい環境だ。
翌朝、ギルドに集まったのは野良着を着た老婆が7人、幼児が7人、いかにも新人という冒険者の少年少女が4人(男女各2人)。
一応、、冒険者の少年少女は弓や剣で武装しているが他の者たちは手に鎌を持つだけ。
近所の畑にサツマイモ掘りに行く面持ち。
御者台に冒険者の少年少女たちが座り、2台のおんぼろ馬車に皆がめいめいに乗り込む。
朝一番の冒険者たちの出発ピークが過ぎた9時過ぎ。
なんとも、間延びした空気である。
「さて、”薬草部隊”のみなさん。
今日も手つかずの穴場に案内しますので遠慮なく稼いでください。
子供たちはお婆ちゃんに分からないことは聞く。
大人と冒険者は分からないことは僕に聞いてください、では出発。」
ユンカーの号令と共に馬車はゆっくりと歩きだす。
乗ってる人間もだが、引っ張る馬も退役寸前の老馬。
されど、若い馬には無い賢さを持っている。
ノンビリと馬車はアルフレッド牧場を通過しもうすぐミケローネ樹林の入り口。
そこでトイレ休憩。
アルフレッド牧場の事務所のトイレを借り、馬車から降りて体をほぐす。
「休憩を終わる前に大事な注意をします。
先頭の馬、”リモーネ”の頭の上に小さな白いヒカリが見えますね。
あの子は妖精ティンカーベルの”チカちゃん”です。
よく見ると分かりますが30センチくらいの羽のある可愛いお嬢さんです。
なお注意ですが歳の話はしないように(笑)。
”チカちゃん”の特徴は魔力のあるものが近寄れないことです。
ですので、魔獣は絶対に”チカちゃん”に近寄りませんし、”チカちゃん”が来ると全力で逃げ出します。
”チカちゃん”の話では”魔王”ですら近づけないそうです。
皆さんは魔力が無いからボクも含めて”チカちゃん”に守ってもらえる、時には魔力が無いのもいいことですね。
でも魔力のない猛獣は”チカちゃん”がいても近づいてきます。
気が付いたら”チカチャン助けて、!”と心の中で叫んでください。
”チカチャン”が猛獣の体内にとんでもない量の魔力を押し込んで体内異物である魔力を暴走させ、一瞬で猛獣の心臓を止めてくれます。
難しい話はこれまで、魔力のある人は気持ち悪くなるはずです。
遠慮なく言ってください、アルフレッド牧場で預かってもらい帰りの馬車で一緒に帰ります。
少し待ちますので具合が悪い人は言ってください。」
ユンカーは話し終わって、5分ほど待つ。
「では馬車に乗り込んでください。
妖精様が護衛の夢の”薬草採取”ツアーに出発です。」
『久しぶりだな、ユンカー。
元気にしてるか?』
ご先祖である勇者”オオムラ サトシ”が久々に夢に出てきたのは3か月前のこと。
しごく当たり前のあいさつのやり取りの後。
『実はなー、お前の近所ミケローネ樹林に昔からの付き合いの妖精ティンカーベルが住んでるんだが可愛そうなヤツでな。
ずっと気にしてたんだが友達になってやってくれないか?』
翌日、アルフレッド牧場の南端、ミケローネ樹林の入り口でユンカーは叫ぶ。
「”チカチャン”、友達になってくれないか?」
風に乗ってユンカーの声が消えてゆく。
3回大きな声でまだ見ぬ妖精の名を叫び、反応がないので帰ろうと思った瞬間。
目の前に光に包まれた妖精が現れた。
『なに、ボケッとしてるの!あんたから呼び出したんでしょ。
最近、”オオムラ サトシ”と似た匂いの小僧がこの辺、うろついてるなと思ってたのよね。』
矢継ぎ早にユンカーの心の中に大音量の念話が響く。
驚いて反応できないユンカー。
『その間抜けさ加減、オオムラとそっくりね。
で、でもそっちから呼びかけて来たんだからね。
そ、そうね!お友達くらいなって上げるから遊びにいらっしゃい。』
それからはチョコチョコとユンカーは”チカチャン”と話をしに通った。
“オオムラ サトシ”がものすごい泣き虫で寂しがりだった話。
”オオムラ”に頼まれていたので、ホリデーの町を襲撃に来たギガントロプス(一つ目巨人)の群れを、”チカチャン”が一人で追い返して町を守った話。
”オオムラ サトシ”が異世界”チキュウ”に戻る前の日に別れの挨拶をしに来てくれた話、・・・
まるで昨日のことのように500年前の勇者の話をする”チカチャン”。
ユンカーは風に吹かれながら”チカチャン”の溢れ出る言葉(念話)を静かに聞いて相槌を打つ。
「あれ、そう言えばオオムラ、ってすごい勇者だったんでしょ?すごい魔力とかあったわけでしょ?」
「オオムラはバカみたいにデカい魔力持ちだったわよ、魔族でも全然かなわないレベルで規格外!
ある日、とんでもない魔力があたしに近づいてきたの。
『ヤバイ!』って思って逃げたらその巨大な魔力があたしの近くに来るまでにどんどん小さくなって消失しちゃったの。
で、今度は『なんでだろう』って気になって見に行ったらそこに倒れていたのがオオムラだったのよ。」
「びっくりしたけど死なれても夢見も悪いし、とりあえず大急ぎで蘇生したわよ。」
「で、話を聞いたら、
『気持ち悪いけど、全開でキュアをかけまくってきた』って、」
「そうまでして、あたしの方に向かって来たのよ。」
「で、ついに魔力を使い切って倒れたの!
心臓が止まってたのよ、オオバカでしょ!
最初、っからオオバカだったのよ。」
「『何しに来たのよ?』って気が付いたオオムラに聞いたら『寂しい心を感じた気がしたから、・・』って、そう言って少し困ったような顔で笑ったのよ。」
「その笑顔を見て、『あ、こいつ天然だ!触っちゃいけないヤツだ!』って気が付いたけど後の祭り。
次からはなぜかオオムラだけは魔力をまとってもあたしに接近できたわ。
オオムラは『慣れだろ?』とか言って笑ってたけど。」
こうして、ユンカーは妖精と友達になった。
「あなたの笑顔、少しオオムラに似てる、・・・」
妖精のささやきが風に乗ってやがて消えていく。
ミケローネ樹林の奥、魔素の濃い方へと馬車はゆっくり歩む。
草木の様相が明らかに変わってくる。
(この辺でやりなさい。)
チカちゃんの念話が頭に響く。
この世界を知り尽くしたガイドさんだ、頼りになることこのうえなし。
「さー、皆さん!始めましょう。
この辺は中級ランクの冒険者でないと普段は来れない場所です。
値のいい薬草が多数あります。
薬草の種類はハッピー婆さんとミゲルじいさんに聞いてください。
それでも分からない時は僕に聞いてくださいね。
チカちゃんにおしえてもらいますから。」
ユンカーの掛け声とともにミケローネ樹林での薬草狩りが始まった。
「なんとエキゾ草が・・・。」
「ハッカユリじゃ、20年ぶりに見たぞえ。」
最初の1時間は爺さん婆さんたちが知識経験の深さで面目躍如。
貴重な薬草を採りまくっていたが、現物(薬草)の姿形を覚えたら幼児たちはなんせ”目がいい、覚えがいい、動きがいい”で老人部隊を圧倒。
圧巻の大漁である、ただしダメな奴も一杯とってる(笑)。
息の上がった老人は座りこんで孫たちが採った薬草を(雑草と)仕分けしながらその特徴やコツなどを近くの冒険者や子供たちに丁寧に説明をする。
行きが3時間、帰りも3時間、現地で3時間の薬草狩りはユンカーを除く全員で収穫の稼ぎを分ける。
一人当たり、金貨2枚と銀貨4枚。
お父さんの4日分くらいの稼ぎ!
新人冒険者もBランク冒険者くらいの稼ぎ。
新人冒険者も幼児も老人も、くしゃくしゃの笑顔でハイタッチ。
初雪が落ち始めるまで半月の間、メンツを毎日変えて冬前の(ボーナス)薬草ツアーは続く。
スラム街のお肉屋さんの話では1年でこの時期が一番いいお肉が売れるそうだ。
「おい、ベテラン冒険者共!
いい年こいて新人の稼ぎにたかってんじゃない。
若造が稼いできたんだ。
誉めてやれ、飲ませてやれ!」
「小僧ども、一杯飲んで先輩に『ごちそうさま』って言ったらその金を持って飲み屋じゃなくて装備屋に行くんだぞ。」
ギルド食堂調理人のギュンターさんの大声が半月の間、続いた。
ひっさびさの”躁”、状態。(今日はお休みなのです!)




