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27百乃木の会社

 百乃木の会社であるビルに入ってすぐ、彼は受付の女性に声をかけた。受付にいた女性は愛理の姿を一瞥するが、また百乃木に視線を移した。百乃木は愛理のことを説明しているのだろう。話を聞く気にもなれなかったので、愛理は、受付近くのソファに座って百乃木を待つことにした。


「朱鷺さんのことを説明していたら、結構な時間がかかりました。やはり、小学生がこんな時間に外をうろついているのは、怪しまれるみたいです。私があなたを連れまわしているのではないかと疑われてしまいました」


「実際には、私が百乃木さんと話をしたいと頼み込んだんですけど」


「そんなことを気にしていても仕方ありません。時間は有限。まずは、私が仕事をしているフロアまで行きましょう」


 エレベーターで、百乃木が仕事をしているというフロアまで上がると、何やら騒がしい声があちこちで聞こえてきた。何か、会社で不測の事態でも起きたのだろうか。



「何かありましたか?」


 百乃木が近くにいた社員に声をかけると、助かったとばかりに、その社員は百乃木に助けを求めた。


「百乃木さん、ちょうどよかった。今日、学校で起きた児童の不審死についての事件を知っていますか?その件で、うちに問い合わせが殺到していて」


「なにかわかったことがあるんですか?」


 今朝の事件とは、愛理の学校で起きたことに違いない。愛理は思わず、二人の会話に割り込んでしまった。


「誰です、この子。百乃木さん、今の状況がわかってます?児童が不審死したという事件があったのに、なぜここに小学生を連れてきたんですか」


 じろりと社員に睨みつけられて、その視線に耐え切れず、愛理は百乃木の後ろに隠れた。百乃木は苦笑して、社員に落ち着くよう伝える。


「まあまあ、落ち着きなさい。時任ときとう君、そんなに怒っていたら、かわいい笑顔が台無しだよ。この子は事件の詳細を聞きたいと言ってきたんだ。話してやるのが筋だろう」


「どうして!この子はどう見ても小学生でしょう。そんな子に事件の詳細を話すなんて!それに未成年は、時間売買を法律で禁止さ」


「それを言うのはなし。この子は特別だ。ああ、君の力は時読みの力ではなかったね。それじゃあわからないか」


「いったい何の話です。この子が何だというんですか?」


「彼女の力は」


 時任と呼ばれた社員に、百乃木が耳打ちする。耳もとでささやかれた内容に時任は目を見開いて、愛理と百乃木の両方を交互に見比べる。



「それは本当ですか。でも、そんな人が現実にいるわけ」


「弟も認めていたよ。そして気にかけていた。それで十分じゃないかな」


「確かに弟さんの実力は知っていますが、でも」




「私に何かあるのですか」


 百乃木と時任は、愛理を無視して会話を続ける。そんな様子が愛理には面白くない。それに、時任が難しそうな顔をしていたのが気になり、つい話に割り込んでしまった。




「何もないよ。こんなところで話していては、他の社員の通行の邪魔になるね。私たちは客間で話をしているから、私に追うがあったら、呼んでくれて構わない」



「用事はたくさんありますよ、今朝の事件に、この前時間売買した富豪の老人の件、そのほかにも、百乃木さんに聞きたいことはたくさんあります」


「却下。緊急の用事がないのなら、部屋に入らないように」



 話は終わったとばかりに、百乃木が客間に向かって歩き出す。愛理はぺこりと頭を下げて百乃木の後ろに続いた。




「やっと静かになりましたね」


 客間に入ったとたん、百乃木はばたんとドアを閉めた。愛理に配慮してか、鍵をかけることはしていない。しかし、部屋の中は二人きりの状態となった。愛理が緊張していると、百乃木は棚からお菓子を取り出して机の上に置く。


「まずは座ってください。お茶も出したいところですが、あいにく茶葉を切らしていまして。冷蔵庫に入っていたこれで我慢してください」


 応接間と呼ばれたこの部屋には、ソファと机がセットで配置されていた。愛理は百乃木の言う通りに、とりあえず、ソファに座ることにした。その正面に百乃木も腰かける。


お菓子とともに机の上に置かれたのは、ミネラルウォーターが入ったペットボトルだった。愛理はのどが渇いていたことに、今さながらに気付き、ありがたくいただくことにした。


「ありがとうございます」


 一息に水を飲むと、喉に潤いが戻ってくる。頭もクリアになってきて、ようやく人心地着くことができた。


「いえいえ、こんなものしか出せなくて申し訳ありません。それで、今朝の事件のことですが」


「はい」


 いよいよ、事件のことを知ることができるのだ。息をのみ、百乃木の言葉を一言も漏らすまいと、愛理は真剣に耳をそばだてる。


「今朝の事件を簡単に言うと、あなたの学校の児童が何者かに殺された、殺人事件です」


「さ、殺人事件ですか」


 殺人事件とは、穏やかではない。とはいえ、あり得る事態である。



「知っています。ニュースでも話題になっていますし、その死に方があまりに特徴的で」


「その通り。そして今回の被害者の児童も同じような死因だった」



 愛理は百乃木の話から、犯人が今までの事件と同一であると予測する。百乃木も愛理の考えと同じようだ。


「ここまでくると、わかると思いますが、私は今朝の事件の犯人も以前の犯人と同じだと考えています。つまり、犯人はまだこの周辺をうろついていて、次のターゲットを探しているのかもしれない」


「百乃木さんたちは、犯人が誰か目星がついているみたいですが」


 愛理は車の中での会話を思い出す。百乃木は時間関係者が犯人だと話していた気がする。


「ああ、そういえば、朱鷺さんの前で話していましたね。ええ。知っていますよ。ですが、犯人を止めるすべを私たちは持ちません。相手は私たち時間売買という同業者ですから。まあ、訴えても、誰も信じないとは思いますが」


 百乃木はまるで、事件に興味がないかのように軽く話していることに愛理は違和感だった。


「人が、子供が死んでいるのに、なんでそんな楽観的なのですか。犯人がわかっていて、どうして警察に通報しな」


「通報するということは、時間売買のデメリット、副作用を世間に知らせることになるからです。人から時間をもらうのですから、当然、身体に負担がかかるに決まっている。しかし、政府は時間売買のメリットしか話さない。だから、世間は時間売買の恐ろしさを知らないし、信じたくない。だから、話しても信じない。信じてもらえたら、我々のビジネスが終わりを告げてしまう」


 

 愛理の言葉を遮るように百乃木が言葉をかぶせる。話し終えると同時に、百乃木のスマホが着信を告げた。



「はい、もしもし。百乃木です。そうですか。今日は予定がありますが、明日なら何とか。わかりました」


 仕事の話だろうか。愛理に聞く権利はないが、電話に出た百乃木の表情が徐々に難しい顔になっているのを見たので、聞いてみたい衝動に駆られる。電話を終えた百乃木は愛理に衝撃の事実を告げた。


「あの老人が亡くなったそうです」



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