表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法災害隊  作者: 横浜あおば
マギアロスト計画編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

98/100

EX2話 魔法能力者至上主義

 十八時二十四分、世田谷区東北沢。

 雪乃が築五年の二階建てアパートの階段を上がり、二つ目のドアの前で立ち止まる。鍵を差し込み、くるっと回す。

『ガチャ』

 雪乃がドアを開けると、リビングから遥が顔を覗かせた。髪はぼさっとしていて、スウェットにジャージのズボンというラフな恰好をしている。

「ユッキー、おかえり〜」

「ただいま、ハルさん」

 雪乃はドアを閉め、鍵とチェーンをかける。

 間取りはワンルーム。玄関から短い廊下が伸びていて、そこに台所と冷蔵庫置き場、ユニットバスが並んでいる。リビングはフローリングで七畳ほど。ダブルベッドとテーブル、テレビ台と腰の高さほどの収納棚が配置され、床には小さめの丸いラグマットが敷かれている。

 遥はラグの上に座り、テーブルに置かれたスマホを操作していた。

「ご飯にする? それとも先お風呂入る?」

 遥が画面を見つめたまま問いかける。

 雪乃は鞄を部屋の端に置きながら答える。

「そうですね……。お風呂にしましょうかね」

「りょーかい。お湯は沸かしてあるよ」

 遥の言葉に、雪乃は「はーい」と適当な返事をする。

 そのやり取りはまるで熟年夫婦のようだ。


 雪乃が入浴を終える頃を見計らって、遥は冷蔵庫から昨日の残りの鮭の塩焼きを取り出し、電子レンジに入れる。

『ピッ、ウィーン……』

「ユッキー、お昼ご飯もコンビニの鮭おにぎりだろうに、飽きないものかねぇ」

 遥は呟き、テーブルのスマホを手に取った。

「よ〜し、ギリギリ千位以内!」

 スマホにはゲームのイベント結果が表示されていて、遥のランキング順位は九百九十二位だった。千位を境に獲得報酬が大きく異なるので、遥としては何としても千位以内に入りたかったのだ。

「推しが主役のイベントだもん。やっぱ称号欲しいよね」

 小さくガッツポーズをしたのと同時に、電子レンジが止まった。

『ピー、ピー』

 遥は温まった鮭の塩焼きをテーブルに持って行き、続けて炊飯器の蓋を開ける。

「ユッキー、もう出られる〜?」

 脱衣所にいるであろう雪乃に声をかけると、「すぐ出ま〜す」と返ってきた。

 遥は小さめの茶碗に半分ほどご飯を盛り付ける。

「こんなものかな」

 雪乃は少食なので、こんもりとしたご飯を見ると逆に食欲をなくすらしい。最初の一週間はなかなか分量を掴めなかったが、二週間も経てば慣れたものだ。

 遥が茶碗を鮭の塩焼きの横に並べると、雪乃が寝間着姿で出てきた。

「あれ? ハルさんは食べないんですか?」

 ラグの上に座りながら問いかける雪乃に、遥は「ごめん、昼遅かったから後でいいや」と答える。

「じゃあ、いただいちゃいますね」

 雪乃は手を合わせてから箸を持ち、鮭の塩焼きを口に運んだ。




 二十三時五十六分。

 暗い部屋の中で、ベッドの隣に置かれたLEDのナイトライトが枕元をぼんやりと照らす。

 二人は裸でベッドに入り、雪乃が遥の背中に手を回している。

「ねえユッキー? 魔法能力者至上主義って聞いたことある?」

「何ですか、それ?」

 遥の質問に、聞き返す雪乃。

「この前かわべぇが言ってたんだけど、最近友達が変な宗教に勧誘してくるんだって。マギアスプレマシスト? みたいな、確かそんな名前のやつ。そこに入信してから、その友達がよく使うようになったらしいんだ。魔法能力者至上主義って」

「う〜ん。なんか怪しいですね、その宗教」

 雪乃の言葉に、遥も同意する。

「そう、聞けば聞くほどすっごい怪しいんだよ。『魔法能力者はカーストの頂点だ』とか、『魔法能力者以外は人ではない』とか。かわべぇの友達を悪く言うもんじゃないけど、ちょっとやり過ぎだとは思う」

「それで、その話を何で私に?」

 不思議そうな顔を浮かべる雪乃に、遥が答える。

「いや、魔法能力者が襲われてる事件と、何か関係があるんじゃないかなって思ったから一応。その友達、家が高円寺みたいだから」

「そうですか、頭に入れておきますね。じゃあ、おやすみなさい、ハルさん……」

 雪乃が遥の胸元に顔をうずめ、ゆっくりと目を閉じる。

「うん。おやすみ、ユッキー」

 遥はナイトライトに手を伸ばし、明かりを消した。


 翌日、二〇二一年四月十四日。

『ブルルル、ブルルル……』

 スマホのバイブレーションに雪乃が目を覚ます。スマホを手に取り、電話に出る。

「おはようございます、藤島さん。何かありましたか?」

 電話の向こうからは、響華の焦ったような口調が聞こえてくる。

『どうしよう雪乃ちゃん。私、狙われてるかも……』

「え? 狙われてるって、誰にですか?」

 体を起こし、首を傾げる雪乃。響華は震えた声で呟いた。

『狙撃、されたの……』

「まさか、例の……! 安全なところで待っててください、私もすぐ行きます!」

 雪乃はベッドから出て急いで服を着ると、鞄を取ってリビングから出ていく。

「ユッキーも、気を付けるんだよ」

 ベッドから起き上がって言う遥に、雪乃は玄関で靴を履きながらこくりと頷いた。

「じゃあ、行ってきますね」

 ドアが開き、ガチャンと鍵が閉まる。

「行ってらっしゃい、ユッキー」

 一人残された遥は小声でそう言って、大きく伸びをした。

「さて、私も仕事行く準備しなきゃな……」




 祖師ヶ谷大蔵駅、改札口。

 響華が壁に寄りかかって待っていると、雪乃が改札を駆け抜けてきた。

「藤島さん、大丈夫ですか?」

 心配した様子で声をかける雪乃に、響華は笑顔を見せる。

「うん、平気。別に怪我とかもしてないし、撃ってきたのは一回だけだったから」

「そうなんですね。良かったです……」

 雪乃はホッとした表情をして、胸をなでおろした。

「もうすぐ守屋刑事も来ると思うから、ここで待ってよう」

 響華の言葉に、雪乃が首を縦に振る。

「それで、やっぱり狙撃してきたのは失踪したSATなんでしょうか?」

 問いかける雪乃に、響華はポケットから弾丸を取り出して答える。

「これ、昨日のやつと一緒だよね? だとしたら、同一人物なのは間違いないと思う」

 響華が雪乃に弾丸を手渡す。雪乃は弾丸をまじまじと見つめて、口を開く。

「SATの狙撃は正確ですからね。藤島さんも回避するのは大変だったんじゃないですか?」

 弾丸を返しながら聞く雪乃。

「でも、雪乃ちゃんの狙撃に比べたら全然大したことなかったよ」

 響華がそう言って微笑みかけると、雪乃は「いえ、そんな……!」と照れ臭そうに顔を赤らめた。


 しばらくして、駅前に一台の警察車両が停まった。

「響華さん、無事で良かった」

 守屋刑事が車から降り、こちらに駆け寄る。

「あっ、守屋さんやっと来た」

 響華は手をひらひらと振る。

 雪乃は軽く頭を下げ、「おはようございます」と挨拶する。

「まさか響華さんをターゲットにするなんて。犯人も随分と調子に乗っているようね」

 守屋刑事が怒りを滲ませた声色で呟く。

「これ、拾った弾丸です」

 響華が守屋刑事に弾丸を手渡す。守屋刑事は白い手袋をはめてからそれを受け取った。

「昨日のと同じ。犯人は同一人物と考えて良さそうね」

 透明な袋に弾丸を入れ、スーツのポケットにしまう。

「守屋さん、今日はどうするんですか? 藤島さんも狙われてるみたいですし、悠長に現場検証を続けるわけにもいかないですよね?」

 問いかける雪乃に、守屋刑事も首肯する。

「ええ。失踪中のSATの隊員を見つけ、話を聞く。それが今日の目標よ」

「「はい!」」

 守屋刑事の言葉に、響華と雪乃は大きく頷いた。




 丸の内、地下共同溝。

 ケーブルや管が敷設された暗く狭い通路に、女性が一人立っている。その女性は防弾防刃性能が高そうな、ぴっちりとした黒いボディスーツを身に纏っている。

 するとそこへ、ギターケースを背負った男が歩いてきた。男は黒いTシャツとジャケットに紺色のジーパンと、地味な恰好をしている。

「すまない姉さん、ターゲットを撃ち漏らした」

 男の声に、女性は鼻先で笑う。

「まあいいさ、所詮は陽動でしかないのだから。それよりアンタ、国民情報システムに行動がバレていたりしないだろうね?」

 女性の問いに、男は当たり前だといった様子で返す。

「そんな間抜けなことはしていない。この計画は、絶対に成功させなければならないからな」

「ああ。この計画さえ成功すれば、世界は大きく変わる。その瞬間を、アタシは見たいのさ」

 不敵な笑みを浮かべる女性。

 男性は腕時計をちらりと見遣る。

「そろそろ時間だな」

「それじゃ、アタシらも行きますか」

 女性がビルの地下四階に繋がる鉄製の扉を開け、中に入る。男も周囲を警戒しつつ、女性の後に続いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=592386194&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ