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魔法災害隊  作者: 横浜あおば
次元結界編
80/100

第72話 国交断絶

 二〇二一年一月十八日。東京、魔法災害隊東京本庁舎。

「これが私の魔力検査の結果だよ」

 響華が芽生の検査結果が書かれた紙を見せる。

「えーと。問題なのは魔力が計測不能だったってところよね?」

 芽生の言葉に、響華が頷く。

「メイメイ的にはさ、これを見てどう思う?」

 遥が問いかけると、芽生は少し考えてから答える。

「そうね……。響華の魔力が計測できる値を超えている可能性は高いと思うわ。魔法神との融合については推測の域を出ないけど、人間では有り得ない魔力を有しているのなら何らかの形で魔法神が関わってると考えていいかもしれないわね」

「まあ、融合の話は本人に自覚が無い時点で確かめようがないからな……」

 碧が呟く。

「それにしても、響華の夢に出てきた少女。話を聞く限りだと、確かにコンパイルと特徴が一致するわ。それが過去の記憶なのか、夢に干渉してきたのか、その辺は分からないけど」

 芽生が言うと、雪乃が声を上げる。

「でも、藤島さんは懐かしいって感じたんですよね? だとしたら、それは過去の記憶なんじゃないでしょうか?」

 響華は「う〜ん」と唸り、首を捻る。

「魔法神コンパイル……。会ったことないと思うんだけどなぁ」

 その後、しばらく無言になる五人。

「ライリーさんがいないと、話が進まないよね……」

 響華がぼそっと言う。

「アメリカとの国交、断絶しちゃいましたから。仕方ないですよ」

 声をかける雪乃。

「まさかあんな強引に中国と朝鮮連邦を併合しちゃうなんて、アマテラスもやってくれるよ」

 遥は大きくため息をついた。




 それは、まだ響華たちが次元結界に閉じ込められていた一月十三日のこと。アマテラスは会見を開き、とんでもないことを宣言した。

「本日付デ、中国と朝鮮連邦ヲ日本に併合する。それに伴イ、政治体制の変更ヤ組織再編など、数多くの施策を実行スル」

 それからアマテラスは、その施策の具体的な説明を行った。併合後も中国と朝鮮連邦の地域行政区分は維持し、都道府県制とはしないこと。中国軍と朝鮮連邦政府軍は自衛隊と統合し、人員や装備を一体運用すること。中国と朝鮮連邦でも社会安定に関する規定に基づき、国民信用レート制度を導入すること。そしてその運用は、中国警察とソウル武装警察にそれぞれ委託すること。他にも様々な施策が説明されたが、全てを正確に覚えている人は恐らくいないだろう。


「それにアメリカは反発し、私たちが乗った飛行機が最後の航空便になった」

 碧が言う。

「その話を聞いた時は、さすがにひやっとしたよね」

 響華の言葉に、雪乃が頷く。

「まさか私たちがいない間に、日本がここまで大変なことになっていたなんて思いもしませんでした……」

「でも、アマテラスはそれ以降は姿を見せていない。あんな会見をしておいて、今は一体何をしているのかしら?」

 呟く芽生。すると遥が、ふと考えを口にした。

「もしかして、私たちから逃げた……?」

「逃げたって、何でアマテラスが?」

 首を傾げる響華。

「だってさ、アマテラスは自分が有利になるように未来を先読みして行動してるんでしょ? だからアマテラスは私たちが帰国する前に姿を消した」

 遥の説明に、雪乃が疑問を呈した。

「でも、もしそれが事実なら私たちはアマテラスにとって脅威になっているってことになります。果たして私たちはそこまでの力を持っているでしょうか?」

「確かに、それは分からない。ただ、私たちの後ろには守屋刑事や国元さん、アマテラスのコピーまでいるわ。アマテラスがそれを把握していれば、ある程度の脅威にはなっているのかもしれないわね」

 芽生が言うと、碧が口を開いた。

「何であれ、一刻も早くアマテラスを倒さなければ。このままでは日本は終わりだ」

「うん。どうにかアマテラスを見つけ出して、日本を救おう」

 響華の力強い言葉に、四人は大きく頷いた。




 警視庁、魔法犯罪対策室。

「アマテラスによる日本の支配。これは史上最悪の魔法災害であり、魔法犯罪ね……」

 守屋刑事が呟く。

「木下副長官も、神谷総裁も、アマテラスに関わった人は全員が被害者でもある。難しい事件ではありますが……」

 国元がパソコンの画面を見遣る。そこには木下副長官、神谷総裁、松本まつもと前警視総監、ユー・リンファら関係者の顔写真が映し出されていた。神谷総裁と松本前警視総監には死亡、ユー・リンファには逮捕とそれぞれ記されている。

「人間を利用し、世界の支配を企んだ魔獣。利用された人間も、邪魔になったら使い捨て。一人になったその時に、魔獣は何を考えるの……?」

 アマテラスの行方を考える守屋刑事に、国元はこう声をかけた。

「アマテラスの行動を予測するのは難しい。ですが、あらゆる手段を用いて必ずアマテラスを見つけ出す。そして、響華さんたちにこの災害を鎮めてもらいましょう」

「……ええ、そうね。絶対にアマテラスはどこかに潜んでいる。探し出してみせるわ」

 守屋刑事は決意に満ちた表情を浮かべた。


 アメリカ、CIA本部。

 ライリーは検査施設の中で、一枚の紙を眺めていた。

「やはり、藤島響華は異質な存在だな……」

 その紙は、響華の魔力検査の結果が書かれたものだった。

「魔法神が関わっていることは確かなのだが、なぜ本人に自覚が無い? 魔法神の方に何かあったのか?」

 ライリーは思案するが、考えたところで答えは出るはずもなく。

「桜木芽生の話を聞けなかったのが痛いな……」

 嘆くことしか出来なかった。

 その時、ライリーのスマホが鳴った。国防総省に潜入中のCIAの捜査官からの電話だ。ライリーは急いで電話に出る。

「どうしました?」

 ライリーが問いかけると、電話の相手は切羽詰まった様子で言う。

『マーティン国防長官が洗脳から解けました。ただ、それによって想定外の事態が……!』

「想定外? 一体何があったのです?」

『現在の状況を誤って解釈し、再び日本への攻撃を実施しようとしています』

「日本への攻撃って、国防長官はどんな解釈を?」

 驚くライリーに、捜査官が簡単に説明する。

『洗脳から解けた時、国防長官の手元には日本戦の戦略が書かれた紙がありました。それはもちろん中止されたはずのものですが、どうやらその戦略の中に現在の状況と似たシチュエーションがあったようで。その次の作戦を実行しようとしています』

「では、その作戦というのは?」

『ラストピリオドの出撃です』

「ラスト、ピリオド……!」

 ライリーはあまりの衝撃に言葉を失ってしまった。


 アメリカ、国防総省。

「最終フェーズに移行する。ラストピリオドの整備が終了次第、直ちにそれを出撃させ日本を壊滅させる」

 マーティン国防長官が宣言する。しかし、他の高官らは少し戸惑った表情を浮かべている。

「どうした? 何か問題でも?」

 疑問を口にするマーティン国防長官に、高官らは首を横に振る。

「いえ、そんなことは……!」

 マリナの洗脳魔法にかかっていたのは他の高官らも同じで、この場にいる全員の記憶が定かではなかったのだ。

「整備が終わるまであとどれくらいかかる?」

「二ヶ月程です」

「そうか、では日本側が仕掛けてこない限りは静観でいいな」

 マーティン国防長官が言う。他の高官らはどこか違和感を感じながらも、それを首肯した。


 東京、魔法災害隊東京本庁舎。

 司令室のモニターに魔法災害情報が表示される。

「どんな非常事態の中でも魔法災害は起こる。アマテラス探しは一旦中断かな」

 長官は呟いて、席を立ち上がる。

「響華さんたち、ちょっといいかな?」

「はい、何ですか?」

 響華たちは急いで長官の元へと向かう。

「新橋で魔獣が出現したの。君たちに任せてもいい?」

 長官の言葉に、響華たちは「分かりました!」と元気よく返事をして司令室を飛び出していった。

 長官はその背中を眺め、「日本の未来は君たちにかかってる。そのためにも、絶対にアマテラスを見つけないと」と小声で言った。




 薄暗い空間にアマテラスの赤い目が光る。

「イレギュラーよ、そろそろ決着ヲ付けようじゃないか。と思ったが、その前に一つ邪魔が入ッタか……。では、決着はその後ダ。待っていろ、藤島響華……!」

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