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魔法災害隊  作者: 横浜あおば
次元結界編

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第68話 マリナ対芽生

 アメリカ、CIA本部。

「こ、これは……!」

 ライリーがパソコン画面を見つめ呟く。

 パソコン画面にはサンディエゴで検知されていた魔法の分析結果が表示されている。ただ、その分析結果は驚くべきものだった。

「次元結界魔法。それも、空間の規模が六百三十平方メートルはある……」

 次元結界魔法はただでさえ魔力の消耗が激しい上位魔法なのに、こんな規模でしかも長時間発動させ続けるのはどんな魔法能力者にも不可能だ。となると、考えられる可能性は一つ。

「マリナの仕業か……」

 ライリーは目を閉じ、神経を集中させる。

「Magic call, Search」

『ピッ、ピッ、ピッ……』

 潜水艦のソナーのような音を頼りに、次元結界の中の様子を探る。すると結界の中に無数の建物があることが分かった。

「次元結界に街? いや、もはや都市というべきか。しかもこれは、東京?」

 この地形や街並みに、どこか見覚えがある。日本の首都、東京だ。次元結界の中をさらに探り、それが事実かを確認する。新宿、渋谷、六本木。どこまでも忠実に作られたその光景は、そこが次元結界の中であるということを忘れてしまうほどのものだった。

「この東京が複製魔法で再現されたことは分かる。でも、マリナはなぜ次元結界の中に都市全体を再現した……?」

 ライリーは考えを巡らせる。その時、次元結界の中に五つの魔力反応を感じた。

「四つは魔法能力者、もう一つは魔獣。マリナと藤島響華たちか。かなり近くに集まっているが、交戦中なのか? いや、それにしては様子がおかしい」

 もう少し詳しく状況を探る。

「二人が洗脳されている。背後から攻撃されたのか……」

 そう呟いた時、ライリーはふと気が付いた。

「そうか、マリナの意図が分かった。偽りの東京に藤島響華たちを閉じ込め、完全暗示魔法にかけるつもりだった」

 ライリーはスマホを手に取り、急いで国元に電話をかける。

『そちらから電話してきたということは、何か進展があったんですね?』

「はい。藤島響華たちは次元結界に閉じ込められていると分かりました。そして今現在、マリナと交戦している模様です。ただ、二人が洗脳されていて、かなりまずい状況にあります」

 ライリーの言葉に、国元は焦った様子で言う。

『そこまで把握できているなら、なぜ助けに行かないのです? CIAの魔法工作員にはそういう魔法能力は無いんですか?』

「無いことは無いのですが、次元結界に外部から侵入するのは非常に難しく、今すぐに助けに向かうことは出来ません」

 冷静に告げるライリー。電話の向こうで、国元が舌打ちをする。

『CIA。とにかく、一刻も早く救助していただきたい。このままでは芽生さんの身が持たない』

 電話が切れる。

 ライリーはスマホをパソコンのキーボードの横に置き、大きく伸びをした。

「万が一の場合に備え、侵入の用意だけはしておこう。Magic call, Dimensional transition」

 再び目を閉じ、神経を集中させる。外部から次元結界内への転移は座標の指定や身体の転送に時間がかかる。そのため、ライリーはもしもの時に即座に転移できるように準備を始めた。




 次元結界内、中原街道○子橋交差点。

「イレギュラーも第二位も、もう終わりカ?」

 マリナが挑発するように問いかける。しかし、響華と遥は地面に倒れたままで起き上がる気配はない。

「このままお前らも洗脳シテやる。Magic call, perfect brainwashing」

 マリナが魔法を唱える。するとその瞬間、響華が地面に手を付き、ゆっくりと立ち上がった。

「よくも私に、なりすましてくれたわね……」

 だが、その口調は響華とは違う。

「イレギュラー、じゃナイ……? お前、誰ダ……!」

 マリナは何が起きたのか理解できない。

「分からない、なんて言わせないわよ? 私は桜木芽生。私の姿で響華たちを翻弄するなんて、いい度胸してるじゃない」

「なっ、そんな馬鹿ナ! 桜木芽生は海に落ちて死んダ。だからなりすまシタのに……!」

 動揺するマリナに、芽生はさらに続ける。

「私の魂はこれ。この魔法結晶が割れない限り、私は死なないわ。だけど、体が無いと色々と不自由なのよね。こうやって人の体を借りないといけないし」

 芽生は胸元の魔法結晶のペンダントを指でつまんで微笑む。

「なるほど、コンパイルの仕業カ……。面白イ。では、これならどうダ?」

 そう言うと、マリナの姿が変異し芽生の姿になった。芽生はにやりと笑って呟く。

「私の姿をした魔獣と、響華の体を借りた私、どっちが強いかって? いいわよ。この勝負、乗ってあげる」




 芽生の姿をしたマリナと、中身が芽生の響華。お互いに睨み合い、相手の出方を窺う。

「Magic call, Substance conversion, saber」

 マリナが魔法を唱え、目の前に形成されたサーベルを手に取る。それを見た芽生も、すかさず魔法を唱える。

「魔法目録八条二項、物質変換、打刀」

 刀を構え、対峙する二人。

「そういえばあなた、完璧に私になりすましていたつもりなんでしょうけど、一つだけミスをしていたの、気付いてるかしら?」

「ミス? 我は完璧にお前をトレースしていたはずダ」

 首を傾げるマリナ。

「いいえ。あなたは今もミスをしているわ。それは、構えているその刀よ」

 芽生の言葉に、マリナはハッとした表情を浮かべる。

「お前の刀、サーベルではないのカ……!」

「私の刀は打刀。サーベルとは違うわ」

 芽生はそう言うと、地面を蹴ってマリナとの距離を一気に詰める。

「受けてみれば、違いが分かるんじゃないかしら?」

 芽生が打刀を振り下ろす。マリナはすかさずサーベルでそれを受け止める。

『キーン!』

 甲高い金属音が鳴り響く。芽生は一歩下がり、再び刀を構え直す。

「どうシタ、桜木芽生。他人の体デハ動きにくいか?」

 挑発するマリナに、芽生は動じることなく答える。

「確かに、響華の魔力は信じられないくらい強いわ。油断すると制御できなくなるかも。でもね、私になりすました魔獣を前にして、そんなこと言ってられないでしょう」

 芽生はマリナ目掛けて打刀を横薙ぎに振るう。

「くッ! お前もまた、イレギュラーの一人ということカ……!」

 マリナは芽生の打刀を弾き返し、隙ができたところにサーベルを突き出す。

 芽生は体を捻りぎりぎりでそれを躱すと、そのままターンしてマリナに刀を打ち込んだ。

「グあっ!」

 脇腹を斬りつけられたマリナが声を上げる。マリナは芽生の姿をしているので、芽生は自分の体が傷ついたような錯覚に襲われ、少し顔を引きつらせる。

「自分で自分を斬るのは、あまりいい気分じゃないわね」

 芽生が言う。するとマリナは脇腹を押さえつつ笑みを浮かべる。

「では、藤島響華ごと我に殺さレルか?」

 それを聞いた芽生は首を横に振る。

「そんなこと、するわけないじゃない。これは大事な響華の体で、命も預かってる。意地でも響華を殺させはしないわ」

 芽生が打刀を構え直す。マリナもサーベルを構え直し、同時に斬りかかる。

『キーン!』

 また甲高い金属音が響き渡る。二人はお互いに刀を押し込み、鍔迫り合いを続ける。

「なかなか、やるじゃない……!」

 芽生が話しかけると、マリナは当然といった様子で答える。

「我は神ノ使いだ。甘く見るナ」

 だが、しばらくするとマリナが押され始めた。やはり剣術では芽生の方が一枚上手だったようだ。

「どうするの? このままだと、真っ二つになっちゃうわよ?」

 芽生が打刀を押し込みながら言う。しかしマリナは、どこか余裕な態度を取っている。

「自分ヲ真っ二つにしようとしている気分はどうダ、桜木芽生?」

「ふざけたことを言っていられるのも今のうちよ」

 芽生はけりをつけるべく更に力を強める。するとその瞬間、マリナが魔法を唱えた。

「Magic call, Material destruction」

 マリナの手が光り、サーベルの柄が消滅していく。

「油断したわ……!」

 このままでは物質破壊魔法を避けきれず、響華の体ごと消滅してしまう。芽生は距離を取ろうと地面を蹴ったが、マリナはもう物質破壊魔法を放つ寸前だ。避けきれそうもない。

「これで終わりダ! イレギュラー!」

 マリナが叫ぶ。

 絶体絶命かと思われたその時、芽生の脳内に響華の声が聞こえた。

『芽生ちゃん、交代!』

「響華……!」

 芽生は自分の意識を遠のかせ、響華の体とのリンクを解除する。それと同時に響華が入れ替わって体を動かした。

「何ダと!? この一瞬でスイッチしたのカ……!」

 マリナは突然の出来事に動揺し、物質破壊魔法の狙いがずれる。響華は打刀を投げ捨て、横に飛んだ。

「魔法目録二条、魔法光線!」

 響華が光線を放つ。

「おのれイレギュラー!」

 マリナもほぼ同じタイミングで物質破壊魔法を放ったが、それは響華の右に外れて信号機を消滅させただけだった。響華の光線はマリナに向かって一直線に伸び、マリナの腹部を直撃する。

「ぐ、グワァ……!」

 響華の光線を浴び続けたマリナは、苦しそうに呻きながら木っ端微塵に砕け散った。

「良かった、倒せた……」

 響華はほっとしたようにため息をついて、その場に座り込んだ。


「藤島!」

「藤島さん!」

 碧と雪乃が響華の元に駆け寄ってくる。マリナが倒されたことで、洗脳も解けたようだ。響華は微笑んで言う。

「碧ちゃん、雪乃ちゃん。完全暗示魔法はもう大丈夫そうだね」

「すまなかった、藤島」

「私も、気付いた時にはやられてしまっていて……」

 申し訳なさそうに頭を下げる碧と雪乃。するとそこへ遥がやってきた。

「ちょいちょい、私を放っておくな!」

「あっ、遥ちゃん」

 響華が遥の顔を見る。

「あっ、じゃなくて! と言うか、ユッキーが謝るべきは私でしょ? 背後から撃たれたんだよ?」

 遥が雪乃に詰め寄る。

「はいはい、すみませんでした」

 適当に謝る雪乃。

「全く、敵を倒せたんだから何でもいいだろう」

 呆れたように呟く碧。

「ふふ、あははは!」

 久しぶりのくだらないやり取りに、響華たちは顔を見合わせて笑った。

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