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魔法災害隊  作者: 横浜あおば
米軍編

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第59話 撤退

 響華の頭上で爆弾が爆発する寸前、なぜか爆弾が消滅した。その直後、遥の発動した魔法防壁が無意味に展開される。

「一体、何が起きたんだ?」

 碧が呟く。

 すると背後から、聞き覚えのある少女の声が聞こえてきた。

「おねーさん、そんなに弱かったっけ?」

 五人が声のした方を振り向くと、そこには以前に魔法犯罪を犯し響華たちに捕まった少女、新月しんげつひかりの姿があった。

「あなた、何でここに?」

 芽生が問いかけに、ひかりはニヤリと笑って答える。

「おねーさん達が困ってるって聞いたから、特別に許可もらったんだ〜」

「確かに、緊急時には魔法犯罪者にも応援要請がかけられる場合もありますけど、中学一年生に出動許可が出るなんて、何だか信じられないです……」

 少し驚いている様子の雪乃に、遥は。

「それだけひかりちゃんは強いってことだよ。小六で私たちをあれだけ追い詰めたんだ。戦力としては申し分ないでしょ?」

 と言って、ひかりに向かって微笑んだ。

「それで、響華おねーさんはどうしてあんなピンチになってたの?」

 首を傾げるひかりに、響華は恥ずかしそうに経緯を説明した。

「……という訳で、いつもの力を出せなくて」

「ふ〜ん、そっか」

 ひかりは半分どうでもよさそうな返事をすると、空に向かって右手を突き出した。

「ひかりちゃん?」

 ひかりの行動を見た遥が不思議そうに問いかける。ひかりはちらりと遥の顔を見て一言。

「また爆弾が降ってくるからに決まってるじゃん」

 と言った。

「お前、いつの間に予測魔法を? さすがに会話している間に魔法を発動した訳では無かろう?」

 碧があり得ないといった様子で聞くと、ひかりは得意げな表情を浮かべて答える。

「もちろん自分が話してる間じゃないよ。響華おねーさんが説明してくれてる時、軽く予測してただけ」

「軽くって、あなた本当に天才なのね……」

 芽生が感心したように呟く。ひかりは「にひひ」と笑ってから魔法を唱えた。

「魔法目録八条二項、物質変換、窒素!」

 それと同時に上空に米軍機が現れ、爆弾が投下された。

「魔法目録八条二項、物質変換、酸素!」

「魔法目録八条二項、物質変換、水素!」

 響華と遥も魔法を唱え、ひかりを援護する。

 三人の魔法により、爆弾はあっという間に変換されていく。

「すごいです。実力者が揃うとここまでのことが出来るんですね……」

 雪乃がその光景をまじまじと見つめている。

「藤島と滝川の力は私たちの中でも頭一つ抜けているが、ひかりの力もそれに匹敵するレベルだからな」

 碧はひかりの魔法を真正面から食らったことがあるので、その強さはよく理解している。

「ねえちょっと。まだ爆弾を落としてない機体があるけど、あれはどこに向かってるの?」

 芽生が空を見上げながら言う。上空を飛ぶ米軍機が、途中からなぜか爆弾を落とさなくなったのだ。遥は残りの爆弾処理を響華とひかりに任せ、新たに魔法を唱えた。

「魔法目録二十条、予測」

 遥は目を閉じて神経を集中させる。

「遥おねーさん、時間かかりすぎじゃない?」

 ひかりが話しかけると、しばらくして遥が目を開く。

「ひとまずどこかに落とす気はなさそう。あと時間はそんなにかかってない」

「そっか、それじゃあちょっとは休めるかな?」

 響華が疲れた様子で言うと、遥は大きく伸びをした。

「このまま戦争終わりにしてくんないかな〜」

「そうなるのが一番だが、こればっかりは何とも言えんな」

 碧の言葉に、芽生が頷く。

「それぞれの目的がはっきりしているからこそ、相手がどこで引き際と考えるのか読めないのよね」

「でも、とりあえずは東京を守れた。それは大きいんじゃないですか?」

 そう言って微笑みかける雪乃に、響華は首を縦に振る。

「そうだね。もし私たちが対抗しなければ、東京は火の海になってたかもしれない。それを防いだだけでも、十分な成果だよね!」

 響華は気合いを入れ直すように両手で頬を叩く。

「よし、とりあえず長官に報告しに行こう。遥ちゃん、ひかりちゃん、米軍に動きがあったら教えてね」

「オッケー!」

「りょーかい!」

 遥とひかりは大きく頷いた。

「魔法目録十五条、転移!」

 響華たちは転移魔法を唱え、本庁舎の司令室へと向かった。




 アメリカ、国防総省。

「なぜここで撤退させるのです?」

 マーティン国防長官の問いかけに、マリナが答える。

「やはり先にイレギュラーを排除しないとアマテラスの撃破ハ困難だ。作戦を変更スル。戦争は中止ダ。会見ヲ行い、事態を収束サセろ」

「承知しました」

 マーティン国防長官は深く頭を下げ、その場を後にする。

「プランBに変更、太平洋上デ襲撃を行う。これで藤島響華は我ノ物よ。フフ、アハハハハ……!」

 マリナは窓の外を眺めながら、一人高笑いした。


 東京、魔法災害隊東京本庁舎。

 司令室に響華たちが転移してくる。長官はそこへ駆け寄り話しかける。

「みんな、大丈夫だった?」

「はい、何とか」

 響華が答えると、長官はホッとした表情を見せる。

「長官、自衛隊から情報は入っていませんか? 米軍が作戦を変えたような気がするのですが」

 碧が問いかけると、長官は首を横に振る。

「別にこれといって新しい情報は無いかな。動きがあれば連絡があるとは思うけど」

「ま、そんなものでしょうね。現代の戦争は情報戦が基本。そう簡単に敵の動きなんて読めないわよ」

 芽生が壁に寄りかかりながら言う。

「やっぱりここは、予測魔法に頼るしかないですね……」

 雪乃が呟くと、遥は雪乃の頭を撫でながら。

「私とひかりちゃんがいれば自衛隊の情報なんていらないもんね」

 と言って笑った。

 ひかりは遥の顔を見て微笑み返す。

「当然じゃん。私の魔法、なめないでよ?」

「ふふ、それは心強いなぁ」

 長官はひかりに笑顔を見せると、モニターの方を見遣った。

「米軍関連の情報もあそこに出てるのね?」

 芽生が聞くと、長官はこくりと頷いた。

「うん、やっぱり気になるからね。魔法災害の対応に当たってる隊員が巻き込まれても嫌だし」

「さっすが長官、隊員思いなところは相変わらずですね〜」

 長官に馴れ馴れしく接する遥に、雪乃は呆れたようにため息をつく。

「滝川さん、もうすぐ成人なんですから、もう少し礼儀をわきまえて下さい」

「はいはい、分かったよユッキー」

 適当な返事をする遥に、雪乃はもう一度深いため息をついた。

 その時、モニターに表示されていたテレビ画面が中継映像に切り替わる。

「テレビ、大きくしてもらえますか?」

 響華が声を上げる。司令員がテレビ画面を拡大すると、アメリカのマーティン国防長官が姿を現した。

『我が国は大きな決断を下した。それは、日本との戦争を中止することだ。ただ、これは負けを意味するものではない。日本政府は魔獣が国を支配することを認めた。であるならば、もはや日本は民主主義国家ではない。そのような国と関わる必要などどこにあるのか? 宣言する。我が国は日本との国交を断絶し、在日米軍や大使館職員など全ての国民を引き上げる。そして、民間レベルの交流も、一週間の猶予をもって全て禁止とする』

 テレビ画面がカメラのフラッシュでチカチカとしている。映像を見つめていた響華は、ゆっくりと口を開いた。

「戦争、終わったんだね……」

「ええ。だけど、問題はより複雑になった感じがするわね」

 芽生の言葉に、碧が頷く。

「一週間以内にアメリカとの関係を取り戻さなければ、日本は確実に破綻するだろうな」

「ってことは、アマテラスを倒すしかないってこと? さすがに無理じゃない?」

 遥が言うと、隣で俯いていた雪乃が小さく呟いた。

「……マリナ」

「ん? おねーさん何か言った?」

 聞き返すひかりに、雪乃は顔を上げて言う。

「アメリカにも裏に魔獣がいるんですよね? それなら、そっちを先に倒すのも悪くないんじゃないかなって、思ったんですけど……」

 すると芽生はなるほどと首を縦に振った。

「雪乃、いい考えね。だけど、この作戦には壁が二つあるわ。一つはマリナの居場所が分からないこと。そしてもう一つが、どうやってアメリカに渡るのか」

「え? 普通に飛行機で行けばいいんじゃないの?」

 首を傾げる響華に、碧が答える。

「残念だが、それは難しいだろうな。戦争の影響で日本発着の航空便は全てストップしている。それに、アメリカとの国交が断絶されるとなれば、アメリカ路線が再開されることはないだろう」

「そんな〜」

 肩を落とす響華。しばらくして、遥がふと思い出したように声を上げた。

「そうだ。そういえばさ、響華っちをCIAが保護しようとしてるみたいな話あったじゃん? それどうなった?」

「あっ、すっかり忘れてた! 今朝CIAの人に会ってね、アメリカで検査を受けることになったんだ」

 響華の言葉に、芽生は向き直って言う。

「それなら、おそらくCIAは何らかの移動手段を用意してくれるはず。それに私たちも乗せてもらえれば、アメリカに渡ることは可能かもしれないわ」

「よし! じゃあCIAに便乗して、マリナを倒しに行きますか!」

 遥が元気よく「おー!」と叫ぶと、続けてひかりも叫んだ。

「それじゃあ私も。マリナを倒すよ! おー!」

 気合いの入った様子のひかりだったが、長官が申し訳なさそうにこう話しかけた。

「ごめんねひかりちゃん。保護観察中のひかりちゃんは、海外には行かせられないんだ」

「え〜、そんな〜!」

 がっくりと落ち込むひかり。響華はひかりの肩をぽんと叩いて優しく微笑んだ。

「ひかりちゃん、今回は私たちが頑張る。だからひかりちゃんには、アマテラスを倒す時に力を貸して欲しいな」

 ひかりは響華の顔を見て、こくりと頷いた。

「うん! 約束だよ!」

「今日はもう遅いし、みんなは仮眠室で寝て。そもそも電車が止まってるから帰れないでしょ?」

 響華たちに向かって長官が言う。

「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて」

 碧が頭を下げる。

「それじゃあおやすみ」

「おやすみなさ〜い!」

 響華は長官に手を振り、司令室を後にした。




 警察庁警備局。

「何故です! 転移魔法の使用許可が降りないなんて、そんなことあり得ませんよ!」

 憤りを隠せない様子の国元に、理事官が話しかける。

「確かに普通ではない。だが、魔獣が国のトップにいる以上は、今までの常識は通用しないだろうな」

「……仕方がないですね。CIAの要請通り、羽田からチャーター機を飛ばす方向で話を進めます」

 国元は理事官にそう告げると、悔しそうに唇を噛んだ。

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