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魔法災害隊  作者: 横浜あおば
米軍編

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第57話 魔法対爆撃

 東京、魔法災害隊東京本庁舎。

「ねえ、何あれ!」

 遥が窓の外を指差して大声を上げる。碧、芽生、雪乃、長官は何事かと窓の外を見る。

「あれは、米軍機……!」

「しかも数が多いわ」

「これ、東京が壊滅しちゃうんじゃ……」

「落ち着いて。とりあえず自衛隊に状況を聞いてみるね」

 司令室に動揺が広がる中、長官は冷静に対応していた。

「さすが長官。若くして魔法省事務次官まで上り詰めただけあるよ……」

 遥が小声で呟くと、雪乃は小さく頷いた。

「そうですね。私もあんな風に冷静に対処できる大人になりたいです」

 長官は受話器を手に取ると、自衛隊に電話をかけた。

「もしもし、魔災隊長官の進藤です。現在の状況を教えてください。……はい、はい。分かりました」

 長官が受話器を置く。

「自衛隊は何と?」

 碧が問いかけると、長官は簡単に説明をする。

「米軍は東京に大規模な爆撃を行うつもりらしいの。航空自衛隊もすでに各地から出撃してるみたい」

「でも自衛隊機の数はかなり減らされてるわ。これ以上打つ手もないし、爆撃の防ぎようはないんじゃないかしら?」

 芽生の言葉に、遥は「う〜ん」と考えてから口を開いた。

「私たちがひたすら魔法を使って対処すればいけるんじゃない?」

「つまり、どういう事ですか?」

 雪乃が首を傾げる。

「まずは予測魔法で爆撃地点を予測して、次に転移魔法でそこに転移、最後に物質変換魔法で爆弾を別の物質に変える。それをやり続ければ何とかなりそうじゃない?」

 すると芽生が納得したように言う。

「なるほど、確かにそれが出来たら自衛隊もステイルメイトにはならないわ」

「そう。私たちが爆撃を対処すれば自衛隊は米軍機の攻撃に専念できるからね」

 四人のやり取りを聞いていた長官は、再び電話をかける。

「魔災隊の進藤です。爆撃の対応はこちらに任せてください。昨日の隊員が爆弾を無力化します。……はい、大丈夫です。よろしくお願いします」

 電話が切れるのと同時に、碧が聞く。

「どうでした?」

「うん、自衛隊の許可下りたよ。転移魔法の使用は私が長官権限で認める。だから、みんなは東京を守って」

 長官の言葉に、四人は大きく頷いて返事をした。

「はい!」

 まずは遥が魔法を唱え、爆撃地点を予測する。

「魔法目録二十条、予測。……オッケー、まずは池袋!」

 続いて四人同時に転移魔法を唱える。

「「魔法目録十五条、転移。場所、池袋!」」

 四人が光に包まれ、司令室からいなくなった。長官はモニターの方を振り返って、司令員たちに声をかける。

「爆撃の最中でも魔法災害は起きる。滝川班が爆撃の対処に専念できるように、他の班のオペレーションでバックアップするよ!」

「了解です」

 司令員たちは大型モニターやパソコンを見ながら、出動中の隊員に指示を出し始めた。




 午後五時三十六分。東新宿、国立国際魔法医療センター。

『コンコン』

 響華の病室の扉を看護師がノックする。

「藤島さん、検査の時間ですよ」

 しかし、看護師が扉を開けると、そこに響華の姿は無かった。

「あれ? 藤島さん?」


 その頃、響華は病院を飛び出して新宿駅の方へと走っていた。

「このままじゃ、東京が火の海になっちゃう。私が、何とかしないと……」

 新宿の上空に米軍機が見える。響華は息を切らしながら走り続ける。

「狙いは人の集まるところ、だとしたら……」

 響華は爆撃地点を避難場所や大規模な施設だと考え、それらが多くあるエリアを目指した。

「やっぱり西新宿、だよね……?」

 響華は何とか西新宿のビル群までやって来た。乱れた息を整え、空を見上げる。するとその時、ビルの隙間から爆撃機がこちらに向かって何かを投下するのが見えた。

「爆弾……!」

 響華は急いで魔法を唱える。

「魔法目録七条、物体干渉!」

 響華は落ちてくる爆弾に向かって右手を突き出した。爆弾は空中で止まり、ビル街のど真ん中での爆発は免れた。

「でも、これをどうにかして爆発しないようにしないと……」

 だが、響華は爆発を阻止することしか考えていなかったのだ。このままでは自分の魔力が持たず、爆弾が落ちてきてしまう。響華は必死に考えを巡らせる。

 その時、後ろから聞き覚えのある女性の声が聞こえてきた。

「響華さん、物質変換魔法で適当な物質に変えて!」

「えっ、守屋刑事!? どうしてここに?」

 響華は振り向くことはできなかったが、その声が守屋刑事だということにはすぐに気が付いた。

「説明は後でするわ。今は爆弾を無力化して」

「わ、分かりました!」

 響華は守屋刑事の言葉に頷くと、すかさず魔法を唱えた。

「魔法目録八条二項、物質変換、酸素!」

 突き出したままの右手に力を込める。すると空中に浮かんでいた爆弾は跡形もなく消え去った。無事に酸素に変換されたようだ。

「あ〜、焦った〜」

 響華がホッとしたように呟いて、地面に膝をつく。守屋刑事は歩み寄って声をかける。

「響華さん? あなたはまだ体調が万全じゃないんだから、勝手に病院を抜け出しちゃダメでしょう? それにいきなり魔法を使うなんて、もっと自分のことを大切にしないと……」

「あはは、すみません……。戦闘機が飛んでくるのが見えて守らなきゃって思っちゃって、つい……」

 頭を掻いて軽く頭を下げる響華に、守屋刑事は呆れた様子でため息をついて言う。

「まあ、響華さんらしいと言えばらしいわね。ほら、掴まって」

 守屋刑事が響華の右手を掴んで立ち上がらせる。響華はスカートについた汚れをパンパンと払うと、思い出したように問いかけた。

「そういえば、守屋刑事はどうして私の所に来たんですか? 爆弾の処理方法も教えてくれましたけど」

 守谷刑事は「ああ、それはね」と言って、ここに来るまでの経緯を話し始めた。




 三十分前、新宿駅東口地下通路。

 ここには新宿周辺にいた人が集められていた。百貨店や商業施設から食料や寝具などが提供され、一時的な避難場所のような状態だ。

 守屋刑事はここで情報収集や物資の仕分けなどをしていたが、寝不足の中で長時間続けて仕事をしていたため、疲れて眠ってしまっていた。

『ピロロロロ、ピロロロロ……』

 耳元で鳴り響く着信音に守屋刑事が目を覚ます。閉じそうになる目をこすってぼんやりした視界をはっきりさせる。目の前には電話のアイコンと《進藤長官》の文字が浮かび上がっている。

「……あっ、アイプロジェクター。壊れたと思ったけど、いつの間にか電源が入ってたのね」

 守屋刑事は少し寝ぼけていたのか、目の前に浮かんでいるものが複合現実によるものだと認識するのに時間がかかった。慌てて電話のアイコンを右にスライドして、電話に出る。

「すみません、守屋です。どうしました?」

『もしもし? 急で申し訳ないんだけど、響華さん追いかけてくれる?』

「追いかけるって、響華さん何かあったんですか?」

 守屋刑事が疑問を投げかけると、長官はこう答えた。

『病院から抜け出して、西新宿の方に向かったみたいなの』

「西新宿? もしかして、響華さんは爆撃を阻止するつもり?」

 驚いたように聞く守屋刑事に、長官は。

『それは分かんないけど、もしそうだったら処理方法を教えてあげてほしいの』

 と言った。

「処理方法? 別にそれは構いませんが、一体どんな?」

『遥さんが考えた方法なんだけどね。物質変換魔法で落ちて来る爆弾を別の物質に変えるの。そうすれば安全に処理できると思うから、それだけ伝えてあげて』

「はい、了解しました」

『響華さんの位置情報はそっちに送るから、よろしくね』

 長官はそう言い残して電話を切った。

「位置情報? ああ、これね」

 守屋刑事は立ち上がり、目の前に表示されたGPS情報を元に西新宿へと歩き出した。


「で、今に至るって感じね」

 守屋刑事の話を聞いた響華は申し訳なさそうに言う。

「なんかすみません。せっかく休んでたのに私のせいで……」

「別に気にしなくていいわ。寝落ちしてただけで休むつもりじゃなかったから」

 守屋刑事は手を水平に動かして微笑む。

「それで、あの……。やっぱり、私は病院に戻されるんですよね……?」

 響華が守屋刑事の顔を見て恐る恐る問いかける。すると守屋刑事は優しい表情のまま、響華に顔を近づけてこそっと囁いた。

「戦争、止めるんでしょ? 行ってくれば?」

「いいんですか!?」

 守屋刑事の意外な言葉に、思わず大きな声を上げてしまう響華。守屋刑事は自分の口に指を当てて静かにするように促す。

「響華さん、ボリューム気をつけて。これは警察官としては良くない行動だから、あまり知られたくないのよ」

「ごめんなさい……!」

 響華は小声で謝る。

「GPSの情報だと、仲間の四人は麻布にいるみたい。爆撃地点を予測して転々としてるらしいから、合流するなら急いでね」

「分かりました。ありがとうございます」

 響華は声の大きさに注意しながらお礼を言うと、目を閉じて魔法を唱えた。

「魔法目録十五条、転移。場所、麻布!」

 響華の体が光に包まれ、目の前からいなくなる。

 守屋刑事は大きくため息をついて呟く。

「そろそろ夕飯の仕分けしないといけないわね……」

 新宿の空はすっかり暗くなっていて、人気のない道路を街灯が意味もなく照らしている。時折空からエンジン音が聞こえることから、米軍の爆撃は今もどこかで行われているのだろうと思う。しかし守屋刑事は、響華たちの力をもってすればすぐにでも戦争が終わりそうな、そんな気がしていた。

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