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魔法災害隊  作者: 横浜あおば
マギアロスト計画編
100/100

EX4話 魔法のある世界

 東京郵便セントラルタワー屋上。

 雪乃は鉄扉を開けて屋上に出ると、北西方向に建つ丸の内ツインタワー本館の屋上に視線を向けた。

「いました、指宿さん……! でも、誰かを狙ってる?」

 寝そべって銃を構える指宿の姿を視認した雪乃は、その銃口の先を見る。

 すると、行幸通りを挟んだ丸の内ツインタワー新館の屋上に、人の姿が見えた。

「あの人は、リンファさん……? でも、何か別の魔力を感じます」

 雪乃は少し嫌な予感がしたが、ひとまず指宿に狙いを定める。

「魔法目録八条二項、物質変換、狙撃銃」

 目の前に狙撃銃が形成されると、雪乃はそれを手に取ってすぐにその場に伏せた。

 照準を合わせ、引き金に指をかける。その時、アイプロジェクターから守屋刑事の声が聞こえてきた。

『動かないで!』

「こちら北見です。藤島さんと守屋さん、誰かと戦ってますか?」

 雪乃が問いかけるが、応答は無い。

「そしたら、作戦変更ですね。指宿さんとの接触を試みます」

 呟き、魔法を唱える。

「魔法目録二十三条、電子操作」

 目を閉じ、神経を集中させる。

『ピピッ』

「よし、繋がりました……!」

 雪乃は自分のアイプロジェクターと指宿の無線を電子操作魔法で接続させ、指宿に直接語りかける。

「指宿さん、無駄な抵抗はやめて、その場に跪いてください!」

 すると指宿は驚いた表情をして、キョロキョロと周囲を見回す。

『ああ、お前か。だから魔法能力者は嫌いなんだよ……』

 無線から指宿の声が聞こえる。かなり距離はあるが、雪乃と指宿の目線が合う。

「電子操作魔法を使用したことは謝罪します。ですが、連続魔法能力者傷害事件の容疑者として、あなたを見逃すわけにはいかないので」

 雪乃は立ち上がり、狙撃銃を構え直す。

『謝罪? そんなものいらねぇよ』

 指宿も立ち上がり、銃口をこちらに向ける。

『お前は確か、北見雪乃だな? 狙撃の腕は褒めてやるよ。だが、魔法能力者は嫌いなもんでな。ここで死んでもらう』

 雪乃の額に汗が流れる。

「指宿さんは、どうして魔法能力者が嫌いなんですか?」

 質問を投げかける雪乃。指宿は考えることなく即答する。

『魔法能力者はカーストの頂点にいる。俺らみたいな普通の人間にはとても太刀打ちできない。そんなの不公平だと思わないか? 思わないよなぁ、お前は優秀な魔法能力者だから。普通の人間の苦悩なんて知ったこっちゃないんだろう?』

 指宿の言葉を聞いて、雪乃の脳裏に遥との会話が思い浮かぶ。

「魔法能力者至上主義……」

『あ?』

「指宿さんは、もしかして魔法能力者至上主義に反発してるんじゃないですか? 別に私は、魔法能力者が優位であるとは考えてませんよ?」

 指宿の思考が何となく読み取れてきた雪乃。

 しかし、指宿は態度を変えることなく続ける。

『お前がどう考えてるかじゃねぇよ。実際そうだから言ってんだ。どんなに頭が良くても、どんなに運動が出来ても、いくら結果を出しても、最後は魔法能力者の方が優遇される。そんな世界、不公平じゃないか。壊したいって思うだろ?』

 指宿の声は少し震えている。

 その様子に気が付いた雪乃が優しく話しかける。

「確かに、そんな世界なら壊したいって思います。でも、この世界は違う。あなたを認めてくれる人、あなたを想ってくれる人、いますよね? もしいないと思っても、絶対にどこかにはいます。それに、魔法能力者が優遇されているというのは間違っています。魔法能力者、特に魔災隊に所属している人は、常に危険と隣り合わせなんです。普通の人と比べたら給料や評価がいいのは事実かもしれません。だからと言って、優遇されている訳ではないんですよ。……指宿さん、もうやめませんか?」

『うるせぇ! お前が何と言おうがもう手遅れだ。すでに計画は始まっている。今更止まることなんてない』

 声を荒げる指宿。雪乃の想いは通じなかったようだ。

 そこで、雪乃は一つの疑問を口にした。

「そもそも、計画って何ですか?」

 指宿は新館の屋上にいるリンファに目を遣って答える。

『神の力を使って、この世界の魔法を消す。マギアロスト計画だ』

「マギアロスト、計画……」




 雪乃は小声で呟き、リンファの方を見る。

 その瞬間、リンファの濃い紫色の瞳と目が合った。雪乃は寒気を感じる。

「あの人って、リンファさん、ですよね……?」

 リンファと見つめあったまま問いかける雪乃に、指宿は『ああ』と返事をしてからこう付け足した。

『だが、あれはもう人じゃない。神なんだよ』

「神……?」

『姉さん曰く、魔法能力者が魔法神の力を取り込めば、世界から魔法を消す魔法を発動出来るかもしれないんだと』

「そしたら、あの魔力は……」

 雪乃がハッとした表情を浮かべた、それと同時に。

「ウアァァァ!」

 リンファが魔獣のような唸り声を上げた。

『な、何だ……!』

 指宿は慌てた様子で狙撃銃をリンファの方に向け直す。

 雪乃はその場に伏せ、狙撃銃を構える。

「指宿さん、体勢を低くしてください!」

 しかし、一歩遅かった。

 リンファが真っ黒な魔法光線を放ち、ドーン! という衝撃とともに指宿が吹き飛ばされてしまった。

「指宿さん、大丈夫ですか? 応答してください!」

 雪乃が必死に呼びかけると、指宿の苦しそうな声が聞こえてきた。

『……おい、あれは一体何なんだ?』

 雪乃はホッとした様子で息を吐いてから答える。

「おそらく、魔力暴走しているものと思われます。いや、あの感じだと、アドミニストレータに魂を乗っ取られかけてる?」

 リンファの瞳は先ほどよりも濃い紫色に光り、全身から真っ黒なオーラを放っている。

『姉さん、聞こえるか? 作戦は失敗だ。魔法能力者が暴走してる』

 指宿は誰かと通信しているようだが、応答がないらしい。

『おい、嘘だろ、答えてくれよ……! まさか、姉さん……。俺は最初から、捨て駒だったのか……』

 呟く指宿に、雪乃が語りかける。

「拘束中のリンファさんを外に出すことが可能で、なおかつ銃が扱える人。だから指宿さんを仲間に引き入れたんでしょうね。指宿さん、ちゃんと罪を償いましょう。指宿さんがいるべき場所は裏社会じゃありません。光の当たる明るい世界です」

 指宿はしばらく黙り込んでから、ゆっくりと口を開いた。

『いい……。俺はもう、どうでもいいんだ……!』

「指宿さん?」

『どうせ俺は死ぬつもりだった。破滅願望を持つ者同士、仲良くあの世に行ってやる!』

 勢いよく立ち上がった指宿は、狙撃銃を拾いリンファの方へ駆け出した。

「指宿さん! 行っちゃだめです!」

 雪乃が大声で叫ぶ。

 その時、本館の屋上に別の人影が二つ現れた。

「雪乃ちゃん、何があったの?」

「その声は、藤島さん!」

 響華はこちらに向けて大きく手を振っている。

 そしてもう一人は指宿の背中に蹴りを入れ、そのまま上から押さえ込んだ。

「指宿慎二、あなたを魔法能力者連続傷害事件の容疑者として拘束します」

「守屋さんも無事だったんですね!」

 雪乃が言うと、守屋刑事は指宿に手錠をかけながら「ええ。心配かけてごめんなさい」と返した。




「守屋さんは指宿さんを連れて安全なところに!」

 響華は守屋刑事に告げてから、リンファの顔を見る。

 リンファは完全に正気を失っていて、言葉も通じていない様子だった。

「雪乃ちゃん、元に戻すにはどうしたらいいと思う?」

 響華の問いかけに、雪乃は少考してから答える。

「多分、元には戻りません。リンファさんはアドミニストレータの魔力を取り込んでいて、すでに相当のダメージを受けているはずです。出来ることなら命も救いたいですが、今の状況を見ると……。リンファさんを助けるには、殺すしかないと思います」

「そんな……」

 響華は悲しそうな顔をして呟く。

 みんなを助けたい。その想いで戦っている響華にとって、命を救うことが出来ないというのはかなり辛いことだろう。だが、雪乃は心を鬼にしてでも、殺せと言うしかなかったのだ。

「このままでは、アドミニストレータが復活してしまいます。そうなれば、今度こそ世界の終わりです。藤島さん、リンファさんを倒しましょう。私も援護します」

 雪乃が引き金に指をかける。

 響華は気持ちを切り替えると、リンファに微笑みかけた。

「リンファさん、苦しいですよね? 私も魔力暴走に陥ったことがあるから分かります。でも、もう安心してください。私たちが、あなたの魂を助けます!」

 両手を後ろに引き、魔法を唱える。

「魔法目録二条、魔法光線!」

 思い切り両手を突き出すと、光線が一直線に放たれる。

 続けて、雪乃が引き金を引く。

『バン!』

 二人の攻撃がほぼ同時にリンファの体を直撃する。

「グワァァ!」

 リンファは体勢を崩し、悲鳴をあげる。魔力暴走の影響か、ほとんど体力が残っていない様子だ。

「雪乃ちゃん、一気に片付けるよ!」

「はい!」

 響華の言葉に、雪乃が頷く。

「魔法目録二条、魔法光線!」

 響華が再び光線を放つ。

「グオァァァ……!」

 すると、リンファが大きくよろめいた。

 雪乃はその隙を見逃さなかった。

「すみません、リンファさん」

『バン!』

 銃口から放たれた弾丸がリンファの額を貫く。

「グァッ……!」

 数秒後、リンファがバタンと倒れる。リンファの体を纏った黒いオーラは消え、濃い紫色に光っていた瞳も元通りになっていた。

「魔法目録十五条、転移」

 響華はリンファのそばに転移し、胸に手を当てる。

「ごめんなさい、助けてあげられなくて。ゆっくり休んでくださいね……」

 リンファの心臓は止まっていて、どんどんと体が冷たくなっていく。

 その様子を、雪乃は遠くから静かに見つめていた。




 その後、指宿は警視庁の取り調べに対し容疑を認め、「魔法が無くなれば平等な世界を実現できると有栖川から言われ犯行に及んだ。その為にはリンファが必要だった」と供述した。有栖川は未だ行方不明で、実際に平等な世界を望んでいるのかは分からない。そして、死んでしまったリンファがなぜ協力したのかも当然分からずじまいだ。


 魔法にはメリットもデメリットも存在する。だからこそ、魔法に抱く想いは人それぞれで、良く思う人も悪く思う人もいる。「世界から魔法を消す」という同じ目的で集まったとしてもその理由は様々だし、魔法能力者の中でも、魔法を私利私欲のために使う者もいれば、誰かのために使う者もいる。

 結局、魔法を使うのは人間だ。魔法自体が良い悪いではなく、どう使うかが問題なのだ。それは物や言葉にだって言えることだろう。包丁で野菜を切るか人を傷つけるか、その一言で誰かを喜ばせるか悲しませるか。それは私たち次第。私たちが正しく使えば、それらは生活を豊かにしてくれる。彩りを与えてくれる。


 私たちの物語は、魔法のある世界のお話。でも、魔法がない世界にも通じるものはあると思う。そんな世界、存在するのか分からないけどね。




「ほら藤島さん、何してるんですか?」

「全く、お前は何をボケっとしているんだ」

「魔法のない世界って言ってたけど、マギアロスト計画の話かしら?」

「響華っち、その事件は守屋刑事が調べてくれてるから心配いらないって」

 雪乃、碧、芽生、遥が微笑みかける。

「ごめん、ちょっと考え事してた。行こう、みんな!」

 響華が駆け出すと、四人も後に続いた。

最後まで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。

響華たちの物語、いかがでしたでしょうか?

皆様がこれからも素敵な作品と出会えることを祈っております。

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