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「うわー……。すごい」
上空から見ただけでも、城は大変な騒ぎになっていた。騎士が総動員され、城や街の中を奔走しているようだ。
ほんの数時間ほどのはずだが、城の中で警備されている中、第一王女がいなくなったのだ。空からの侵入者になど気を配っているはずもないし、なぜジャスミンがいなくなったのか彼らには訳が分からないだろう。
先ほどと同じ、秘密の花園にリュディアスたちは降りたった。そこには当然誰もいない。翼をたたんで、ゆっくりとジャスミンを地面に降ろす。
リュディアスは懐から何か取り出して、ジャスミンに渡した。
「やる。これが私の愛の証だ」
「……これはなんでしょう?」
手のひらにのせられたそれを、ジャスミンはよく観察した。透明できらきらしていて、綺麗だ。丸く加工した宝石みたいな。
部屋に飾ってもいいし、アクセサリーに加工してもよさそうだ。ただし、高価そうなのでそう簡単に受け取るわけにはいかない。
「私の核だ」
「核?」
聞きなれない言葉に、ジャスミンは首を傾げた。同じく地面に降りたったエリクが、ジャスミンが手にしたそれを見て焦った顔をしている。もしかしてこれは、他人に渡してはいけないものなのではないだろうか。竜王に代々伝わる宝物とか。
だが、それは宝物とかそういう次元のものではなかった。
「人間で言う心臓だ。これが破壊されれば私は死ぬ」
何でもないことのように、リュディアスは淡々と言った。
「竜王様の心臓!? 死ぬ!? い、いらないですいらないです。本当にいらないです」
ジャスミンはリュディアスに核を手渡し、必死に首を振った。受け取る意志がないことを示すため、手は背中に隠す。
(男の子からプレゼントもらったこと自体そんなにないんだけど、重い……! アクセサリーに加工なんて、絶対できない!)
そんなに非常に重いものをもらったのは、前世を含め初めてだ。手編みのセーターとか、手作りチョコなど目ではない。同じ土台にすら乗らない。
(わ、わたしにこれをどうしろと!?)
「……そうか」
不満げではあったが、ジャスミンの思いが通じたのか、リュディアスは核を引っ込めた。後ろでエリクがほっとした表情になった。
リュディアスは、元のようにポケットにしまいこむ。
(そんなにぞんざいな扱いでいいのかと思うけれど……。城の宝物庫なんかにしまっておいた方がいいんじゃ……)
ジャスミンは心配になったが、余計なお世話なのは分かっているので、口には出さない。
「では代わりにこれを」
代わりにリュディアスが取り出したのは、ネックレスだった。首にかけてくれる。
「綺麗……」
美しさに惹かれて、ジャスミンは思わず飾りを手にのせた。
鎖の先についている飾りは、楕円形になっている。薄い羽のような貝殻のような、薄くて軽い素材だ。日差しにきらきらと七色に光って、大変美しい。虹を閉じ込めたようだった。
「私のうろこを加工して作ったお守りだ。お前を守ってくれるだろう」
「お守りですか」
美しさに夢中になって光にかざしていたジャスミンは、はっとした。またこれを壊したらリュディアスの命に支障があったりするものならば、絶対に受け取れない。
恐る恐る確認してみる。
「こ、これもし壊れたりしたらあなたが死ぬとかありませんよね」
「ない」
「じゃあもらいます」
ほっとしたジャスミンは、ありがたく受け取ることにした。ふと頭に浮かんだ疑問を口にする。
「核をわたしにもし破壊されたら、とは考えなかったのですか?」
「お前はしない。そして、もしお前に壊されたら別にかまわない」
迷うことなく、当然そうにリュディアスはうなづいた。ゆるぎないリュディアスに、ジャスミンは戸惑う。よどみながら、
「どう、して。今日会ったばかりのわたしに、そこまで」
なぜいくらでも女性がなびきそうなこの美しい人が、ジャスミンをそんなに想ってくれるのかが、分からない。命を失ってもいい、だなんて思えるほどに。
ふっと、リュディアスが微笑んだ。さも当然だ、とでも言うように
「お前はオレの、番だからだ。出会ったのが十年前だろうが、今日だろうがまったく関係がない。唯一無二の番のお前だから、オレは全幅の信頼を置いている。ジャスミン以上に大切なものは、何一つない」
いくら言葉を尽くされても、ジャスミンにはそんなに想ってもらえるほどには、自分に自信が持てなかった。
「こほん。そろそろいいですか」
エリクがわざとらしく咳ばらいして、ジャスミンはリュディアスと見つめ合っていたことに気づいて慌てて目を反らした。
「ずいぶん待ったのですがね、ジャスミンさまを早くお返ししたほうがいいと思いますよ。騒ぎが大きくなるので」
「あ、そ、そうですね! 城に戻ります!」
ジャスミンは慌ててうなづいた。




