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 初めて聞く言葉に国王たちは困惑を隠せないようだ。


(そりゃあ、お父さまたちも意味が分からないわよね。わたしも知らなかったんだもの)


 自分と同じような反応に、ジャスミンはうんうんと頷いた。


「人間にはない言葉だと聞いております。困惑されるとは思いますが、ようするに生まれながらに結ばれることが決められている、運命の相手です。この二百年、ずっと探しておりましたが、もう出会うことはできないのだろうと諦めておりました。それでも、出会えた瞬間嬉しさのあまりジャスミン殿を連れて行ってしまった無礼は、言い訳しようもございません」


 物憂げな表情で、悲壮感たっぷりに言ったリュディアスが目を伏せる。端正な顔立ちの彼が悲し気な表情をすることで、ヴァ―リアス王国の面々が一様に同情的になった空気を感じた。


「……まあジャスミンを無断で連れ去ったことは許されぬことだが、同情に値するな。一時間ほどで戻ってきて、特に怪我もしていないようだし……」

(やっぱり顔がいいと得ねー。いや、わたしも地位がある上、美形に生まれたから今のところ割とチートなんだけど)


 第一王女誘拐未遂事件という、字面だけみればかなりおおごとの事件が丸くおさまりそうだ、とジャスミンがふっと胸を撫でおろしたとき。


「あ、兄上……!」


 弟ならではの勘で、何かを察したらしいエリクが、リュディアスを制しようとしたときにはすでに遅かった。

 殊勝な表情をしていたリュディアスが、とんでもないことを言い放った。


「ですから、ジャスミン殿が成人を迎えるあと二年後に、結婚させてください。とりあえず今すぐ婚約させていただきたいです。お父さま」



 いずれ話すのだろうとは思っていたが、さすがにジャスミンを始めとする国王一家と会ったばかりだし、第一王女を連れ去ったばかりでタイミングが最悪だ。


「『ですから』!? リュディアスさま、脈絡、おかしい!」


 せっかく今までおとなしくしていたのに、口に出して突っ込んでしまう。すぐにはっとするが、リュディアスを始め、誰も特に気にしていないようだ。というより、リュディアスの発言の衝撃が激しかったのだろう。

 怒りのあまり国王は顔を真っ赤にして立ち上がる。


「君にお父さまと呼ばれる筋合いはない! 竜王といえど、初対面の君に娘と婚約などさせぬ!」

「お父さま、仮にもよその王族の方への口調ではないです。激しい激しい」


 とりあえず今は誰も気にしないであろうことが分かったので、ジャスミンは遠慮せず口に出すことにした。

 可愛い妹への求婚者がふいに現れて、ウォーレスも黙ってはいない。こぶしを固く握りしめながら、


「ジャスミンは私と結婚すると言っていたのだぞ! あなたと結婚などするものか!」


 確かに言った。三歳くらいのころだが。


「いや、お兄さま。それ幼児がよく言っている戯言なので。というか、お兄さまが他の方と結婚して跡継ぎを残していただかないと、国が終わってしまいます!」

(あの時はまだ記憶がなかったからなー。まさかお兄さまが今でも本気にしていたなんて。記憶があったらそんな黒歴史になりそうな発言、絶対にしなかったのにー)


 はぁーとジャスミンは頭を抱えた。


「なんだと! ジャスミンはこの私と結婚すると言っていたのだ。お前のような若造に、ジャスミンをやれるものか!」

「父上はもう母上がおられるではないですか! だいたい失礼ながら父上よりも若い私のほうが、ジャスミンの結婚相手にはふさわしいと思われます!」

(あー、もう。別のおかしい争いが勃発しているし……。年齢うんねんの前に血のつながりで、二人ともアウトだから)


 国王とウォーレスが、ジャスミンをめぐって口論になることは日常茶飯事。王妃も城の面々もあきれ顔で見守るのみで、止めもしない。


「いいえ! 私こそが……」

「リュディアスさまおやめください。話がややこしくなるので」


 こともあろうに話に参戦しようとしたリュディアスを、ジャスミンは慌てて腕をつかんで引き留める。


「あ、申し訳ございません」

「いや、かまわん」


 ぱっと手を離すと、リュディアスは顔を赤らめて何とも残念そうな顔をした。


(顔、赤くしないでよー! わたしまでなんだか恥ずかしくなるじゃない)


 つられてジャスミンも頬を熱くしてしまう。二人の間に沈黙が漂う。


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