敵に回してはいけない人。
僕に絡んできた男をプンプンしながらやり込めて後ろをそろりと振り返る。
嫌われてないかなぁ…?大丈夫かなぁ…?
腰巾着なんて言われたお兄ちゃんを軽蔑してないかなぁ…。舐められて格好悪いとか思われてたら泣いちゃう…。
僕の心配に反してギルはキラキラした目で、ウィル君は笑いながら、アレク君は戸惑いながらもホッとした顔をして僕を見ていた。
あれ?大丈夫そう…。良かったぁ〜。
その後、解体場へ行きいつものおじちゃんに解体と買い取りを頼む。
今日は数が多いから大変だけどよろしくね。
1週間後に来る約束をしてギルドを出る。
折角だから町を見て行こうと誘った。
一応ギルにもウィル君にもアレク君にも護衛騎士が遠くで見守る感じで付いている。
森と違ってスリや誘拐とかもあり得なくはないから慎重に行こうね。
貴族の子息は滅多に下町に行く事がないから皆ワクワクしてる。
「何する?何か食べてもいいし、防具や剣を見に行ってもいいし、お家の人にお土産も買えるよ!」
僕はある程度、町歩きをしているので案内出来るはず!
「兄上がよく食べる物を食べてみたいです。」
よし!ギルには美味しい串焼きのお店に案内しよう!
「アル君オススメの防具屋とか見たいかも。」
いいよ!ウィル君にはダンさんにオススメされた防具屋に案内だ!あそこは良い剣も扱っていたはず。
「父様にお土産を買って帰りたいので何かオススメはありますか?」
任せろ!アレク君にはこの町で1番評判の良い雑貨屋さんに案内しよう!
シロガネにも美味しいお肉買ってあげるね!
精霊さん達にも美味しいお菓子だね!
お兄ちゃんに任せて!!
今度こそ良い所を見せるぞ!!
まずは串焼き屋さんへ。ここはいつもいい匂いをさせていて皆が飯テロ(?)って叫んでる所だよ。
「お嬢さん、こんにちは。今日も美味しそうな串焼きですね。5個下さい。」
皆が僕を2度見する。
「おや、アル君ようこそ。相変わらず紳士だねぇ。お嬢さんだなんて、こんなおばさんにまで丁寧にしてもらって悪いね。あら、お友達かい?
皆お上品だねぇ。さすがアル君のお友達だ。
ほら、特別に大きな所をあげるからそこで皆で食べて行きな。」
「はい。ありがとうございます。そうさせて貰います。」
笑って串焼きを受け取って今度はお隣へ。
「こんにちは、お姉さん。この赤い果実とこの果実水を6個づつ下さい。」
また皆が僕を見る。
「嫌だね、相変わらず口が上手いんだから。こんなおばちゃんをお姉さんだなんて言うのはアル君だけだよ!ほら、このオーレンジもあげるから皆でお食べ!」
「わぁ〜!ありがとうございます!美味しそうですね。」
僕達は近くのベンチへ移動して皆で食べ始める。
僕とギル、ウィル君、アレク君、シロガネは串焼きを。精霊さん達は果物と果実水を。
皆無言でうまうまと食べる。
精霊さん達も
「わぁ〜!美味しい!中々良い果物だね!そこの人間見込みあるね!」
ね!美味しいでしょう?ここは僕のお気に入りの屋台なんだよ!
食べ終わっておばさん達に手を振って今度は防具屋へと移動する。
移動中、ギルがおずおずと口を開く。
「…兄上、あの…、さっきのあの…、あの年配の女性達とは、あの…、どういうお付き合いをされてるんですか?」
「ん?どういう事?」
「…あの…、あの…、兄上にはあの方達をお嬢さんと呼ばれてるので…。」
「うん、そうだよ。僕より人生経験が豊富な女性達だよ。」
ギルとウィル君がぎこちない顔で笑う。
アレク君とシロガネはキョトンと僕を見る上げる。
ははぁん…。ギル達は女性の怖さを分かっていないな…。かつて僕は女性達にコテンパンにされている冒険者や、彼女達の旦那さんを見かけた。
そこで僕が学んだ事は女性には親切に真摯に紳士として接する事。
決しておばさんとは呼んではいけないのだ。
その学びのお陰で僕はいつでも美味しく他の人より大きな串焼きと他の人よりツヤツヤで大きい果物が食べれるのだ。
「ギル、僕の忠告をよく聞いて。
決して女性を怒らせてはいけないよ。
人類の半分は女性だ。生きていく上で女性を敵にするという事は、人類の半分が敵に回ると言う事だよ。
そして、女性は時として男よりも恐ろしい敵になる。時に容赦なく、時に魔獣よりも的確に人の急所をついてくる。
決して敵に回してはいけないよ。」
男性陣は顔色を悪くして頷く。
「そうだよ。僕達は真実、紳士だ。
紳士として女性と接すれば問題は何もない。
むしろ味方になってくれる。
さっきだって、美味しい串焼きに美味しい果物を貰っだろ?」
僕は皆を見回してもう一度言う。
「いいかい?女性には紳士的に。決して侮ってはいけないよ。」
皆が頷く。
良かった。あの時の旦那さん達の姿を思い出し、ブルっと震える。
「…、それでも…、それでも、どうしても許せない女性がいたらどうしたらいいですか?」
優しいギルがどうしても許せない、そんな女性なら、
「許さなくていいよ。優しい君がそう思うんだ。
それはラインを越えたのだと思う。
男でも女でも関係ない。敵には容赦なく、反撃する気も起きないくらい徹底的にやっちゃいな。」
あぁ、危ない危ない。僕も皆の殺意の高さにつられて殺っちゃえって言う所だったよ。
そんな話をしながら防具屋に着いた。




